―― 大変だったとのことですが、開発において具体的にどの点に苦労されたのでしょうか。
外谷氏 最初は「余裕だろう」と皆が思っていましたが、実はそうじゃなかった。これまでのサプライチェーンで作れるという話もゼロではないですが、何年まで作れるのかという課題もあります。先々が決まっている製品をこれから作るのは大変でした。持続可能性みたいなことも考えると、グローバルサプライチェーンに置き換えることも必要でした。
―― となると、らくらくホンは海外製ということなのでしょうか。
外谷氏 部品は全てではないかもしれないですけど、いわゆるグローバルに流通できるようなベンダーさんというか、われわれでいうとLenovoのサプライチェーンに搭載されるようなベンダーさんで構築された部品です。
設計をリスペクトして、その設計を実現できるような部品を1つ1つ作り上げたことは、このビジネスの規模としてはとんでもないことをやってるということです。ただ、Lenovoは「らくらくホンのような製品がないと困る人が出てくる」ことや、FCNTが日本に残っている意義を理解しています。
らくらくホンはものすごく開発期間が長く、開発に乗り出すまでが早かった。FCNTが2023年の10月に動き出してから約2カ月以内だったと思います。そこから2025年現在に至るまでなので、2年相当かかっています。
―― Lenovoの協力なしには作れないと。
外谷氏 春藤と近藤にしからくらくホンは作れないので、作れるような状況にするため、Lenovoによるサポートが重要でした。
―― スマートフォンよりも難しそうですね。
外谷氏 ある意味、同じ折りたたみ端末でも、折りたたみスマホを作るよりもらくらくホンの方がずっと難しいと思います。これだけ物理キーがあってヒンジもあるのに防水ですからね。
―― コストは「arrows Alpha」よりもかかっているのでしょうか。
外谷氏 arrows Alphaは高い部品を使っています。原価だけでは、どちらが高いかはなかなか言いがたいですが、工数はめちゃくちゃかかってます。
―― らくらくホンのような使い勝手で、見た目はmotorola razrのようなスマートフォンも、今後、あり得そうでしょうか。
外谷氏 そういうのもあると思います。らくらくスマートフォンとらくらくホンのハイブリッドとして、使い勝手の面でより利便性が出せるといいと思います。
正能氏 ただ、らくらくホンを求める方々は、物理ボタンを必要とします。タッチパネルになるとどうしてもUIが変わってしまいます。
外谷氏 そのため、らくらくホンのメニュー画面も過去機種から変更しませんし、「同じものが欲しい」というお客さまがいます。
左から順に、FCNT製の「arrows ケータイ ベーシック F-41C」「らくらくホン」、さらにモトローラ製の縦折りタイプの「motorola razr 50d M-51E」が並ぶ。らくらくホンは物理ボタンでの操作が基本である一方、motorola razrは折りたたみではありつつ、基本操作はタッチパネルで行う―― 実際にやるかやらないかはさておき、らくらくホンやarrows Alphaの耐久性はそのままに、見た目はmotorola razrのような端末を設計するのは難しいでしょうか。
近藤氏 調査が行き届いてないところがあって、まだ何とも言えないと思います。ただ、これまでの製品で培ってきた設計のノウハウはありますので、堅牢(けんろう)性を伸ばしていくポテンシャルは、FCNTにはあると思います。
春藤氏 motorola razrのような折りたたみスマートフォンですと、ディスプレイがフィルムタイプですので、強度の観点からディスプレイをどのようにして保護するかを考えていく必要があります。
それから、ヒンジについては、大きくすればいいですが、薄型化でヒンジの強度も担保するとなると、ベンダーもこの技術を持っていなければなりません。ヒンジのベンダーも、小さく薄くするのに、3年くらいかけています。
あとは、視認性についても改善の余地があります。開閉時にインナーディスプレイがスムーズに見えるようにしなければならないです。つまり、折り目です。まだシワができてしまい、特にゲームをする方々が気にされると思います。
これまでのインタビュー取材を通して、らくらくホンの魅力やコンセプトは、大幅な進化ではなく、「変わらない使い勝手」にあると感じた。サブディスプレイの大型化やワンタッチダイヤルなど、本製品の細部にわたる特徴を見ても、FCNTがユーザーの特性やニーズを深く理解していることがうかがえる。
ただし、製品開発にはLenovoとの協力が不可欠であり、スマートフォンのようにコストを抑えることが難しいという、開発の舞台裏における葛藤が垣間見えた。
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