ソフトバンクの秘密兵器? 「ポケモンGO」イベントでも活躍した“高所作業車”基地局とネットワーク対策の中身(1/2 ページ)

» 2025年09月04日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 屋外での大型イベントで欠かせないのが、携帯電話のネットワーク対策だ。大勢のユーザーが集まって一斉にモバイル通信をするため、携帯キャリア各社は、移動基地局車を配備したり、周辺基地局の電波出力を調整したりして対策を行っている。

 ネットワーク対策はキャリア各社が長年実施しているものだが、最近、大型イベントで気になった光景を目にするようになった。それは、ソフトバンクが運用している「高所作業車」を用いた基地局とアンテナの設置だ。筆者はポケモンGOの大型イベント「Pokemon GO Fest 2024:仙台」と「Pokemon GO Fest 2025:大阪」に参加した際、いずれのイベントでも、ソフトバンクがこの高所作業車を使用しているのを目にした。

ソフトバンク 20mの高さまでアンテナを上げられる、ソフトバンクの高所作業車(写真は2025年の大阪会場にて)

 Pokemon GO Festでは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社がこれまで移動基地局車を配備していたが、高所作業車が出動していたのはソフトバンクだけ。同社はなぜ、この特殊な設備を採用しているのか。Pokemon GO Fest 2025:大阪全般の対策も含め、テクノロジーユニット統括 エリア建設本部 関西ネットワーク技術統括部 関西ネットワークソリューション部 ネットワーク品質課 課長の林健太郎氏に話を聞いた。

20mの高さまでクレーンで上げることで数倍のエリアをカバー可能に

 高所作業車は、2019年以前から稼働しており、ポケモンGO関連のイベントで言うと、2023年のGO Festでも使っていたという。音楽フェスでも使った実績があり、成果を上げられたため、継続して運用しているそうだ。ちなみに高所作業車自体はソフトバンクが所有するものではなく、レンタルしたもの。

 通常の移動基地局車では11.8mほどまでアンテナの位置を上げられるところ、高所作業車のクレーンを使うと、20mほどまで上げられるという。高い場所にアンテナを上げられるメリットは、見通したよくなり、より広範囲に電波を飛ばせること。具体的なカバー範囲は「明確には伝えられない」(林氏)ものの、「数倍のエリアをカバーできる」と語る。

ソフトバンク 実際に稼働している高所作業車のアンテナ。もちろん人は乗っていない(写真は2024年の仙台会場にて)
ソフトバンク 関西地域のネットワーク品質対策を担当している林健太郎氏

 高い位置までクレーンで上げるため、安全性にも配慮している。特に気を付けているのが、強風が吹いた際だ。「あまりにも現地で風が強い場合は、主催者とも相談をしながら、安全のために、電波発射は取りやめた状態で一時的にクレーンを下ろすという判断をすることはあります」(林氏)

 Pokemon GO Fest 2025:大阪の会場だった万博記念公園は、周囲に建物が少ないので基地局が少なく、通信面で不利な環境だ。こうした開けた場所でこそ、高所作業車によるエリア対策が効果を発揮する。会場内では移動基地局車を合計3台配備し、高所作業車を中央に設置して広いエリアをカバーするよう努めた。また、ソフトバンクの公衆Wi-Fiも移動基地局車に設置して、ソフトバンクユーザーに対してWi-Fiサービスも提供した。

ソフトバンク
ソフトバンク 大阪イベントの会場だった万博記念公園は障害物が少なく、見通しのよいエリアが多かったが、面積が広いため、広範囲にわたる対策が必要だった

 なお、Pokemon GO Fest 2023の会場も同じ万博記念公園だったが、2年前と比べると移動基地局車のスペックが向上しており、より多くの周波数をカバーできるようになったという。これにより、特定の帯域にトラフィックが集中することなく、安定した通信が可能になったようだ。筆者もソフトバンク(Y!mobile)で2025年のイベントに参加したが、下りと上りともに、どの時間帯でも安定して通信できていた。

ソフトバンク Pokemon GO Fest 2025:大阪で稼働したソフトバンクの移動基地局車。ソフトバンクはイベントの公式パートナーということもあり、ポケモンGOの横断幕がかけられている

 林氏は「(アンテナの)増強という部分ももちろん、5G帯域を積極的に使うことで、より快適に通信でき、2023年と比較しても通信環境はよかったですね。複数箇所で実施した結果を見ても、快適に使えなかった状況はありませんでした」と手応えを話す。

 Pokemon GO Fest 2025:大阪で苦労した点について、林氏は「かなり広範囲でデータトラフィックが利用されるため、常にどのエリアでもトラフィックのバランスを取る必要があり、広いエリアをくまなく対策するのが大変でした」と林氏は話す。また、ポケモンGOのイベントは、音楽フェスや花火大会などと違い、集まった人がほぼ全員、常時スマホで通信をしているため、各種イベントの中でもトラフィック量は多くなりがちだ。

 「開けた場所」×「広いカバー範囲」×「大多数が常時通信」という環境だからこそ、高所作業車が果たした役割は大きい。まさに「こうかばつぐん」の対策だったといえる。

ソフトバンク 多くのトレーナーが集まったPokemon GO Fest 2025:大阪
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