屋外での大型イベントで欠かせないのが、携帯電話のネットワーク対策だ。大勢のユーザーが集まって一斉にモバイル通信をするため、携帯キャリア各社は、移動基地局車を配備したり、周辺基地局の電波出力を調整したりして対策を行っている。
ネットワーク対策はキャリア各社が長年実施しているものだが、最近、大型イベントで気になった光景を目にするようになった。それは、ソフトバンクが運用している「高所作業車」を用いた基地局とアンテナの設置だ。筆者はポケモンGOの大型イベント「Pokemon GO Fest 2024:仙台」と「Pokemon GO Fest 2025:大阪」に参加した際、いずれのイベントでも、ソフトバンクがこの高所作業車を使用しているのを目にした。
Pokemon GO Festでは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社がこれまで移動基地局車を配備していたが、高所作業車が出動していたのはソフトバンクだけ。同社はなぜ、この特殊な設備を採用しているのか。Pokemon GO Fest 2025:大阪全般の対策も含め、テクノロジーユニット統括 エリア建設本部 関西ネットワーク技術統括部 関西ネットワークソリューション部 ネットワーク品質課 課長の林健太郎氏に話を聞いた。
高所作業車は、2019年以前から稼働しており、ポケモンGO関連のイベントで言うと、2023年のGO Festでも使っていたという。音楽フェスでも使った実績があり、成果を上げられたため、継続して運用しているそうだ。ちなみに高所作業車自体はソフトバンクが所有するものではなく、レンタルしたもの。
通常の移動基地局車では11.8mほどまでアンテナの位置を上げられるところ、高所作業車のクレーンを使うと、20mほどまで上げられるという。高い場所にアンテナを上げられるメリットは、見通したよくなり、より広範囲に電波を飛ばせること。具体的なカバー範囲は「明確には伝えられない」(林氏)ものの、「数倍のエリアをカバーできる」と語る。
高い位置までクレーンで上げるため、安全性にも配慮している。特に気を付けているのが、強風が吹いた際だ。「あまりにも現地で風が強い場合は、主催者とも相談をしながら、安全のために、電波発射は取りやめた状態で一時的にクレーンを下ろすという判断をすることはあります」(林氏)
Pokemon GO Fest 2025:大阪の会場だった万博記念公園は、周囲に建物が少ないので基地局が少なく、通信面で不利な環境だ。こうした開けた場所でこそ、高所作業車によるエリア対策が効果を発揮する。会場内では移動基地局車を合計3台配備し、高所作業車を中央に設置して広いエリアをカバーするよう努めた。また、ソフトバンクの公衆Wi-Fiも移動基地局車に設置して、ソフトバンクユーザーに対してWi-Fiサービスも提供した。
なお、Pokemon GO Fest 2023の会場も同じ万博記念公園だったが、2年前と比べると移動基地局車のスペックが向上しており、より多くの周波数をカバーできるようになったという。これにより、特定の帯域にトラフィックが集中することなく、安定した通信が可能になったようだ。筆者もソフトバンク(Y!mobile)で2025年のイベントに参加したが、下りと上りともに、どの時間帯でも安定して通信できていた。
林氏は「(アンテナの)増強という部分ももちろん、5G帯域を積極的に使うことで、より快適に通信でき、2023年と比較しても通信環境はよかったですね。複数箇所で実施した結果を見ても、快適に使えなかった状況はありませんでした」と手応えを話す。
Pokemon GO Fest 2025:大阪で苦労した点について、林氏は「かなり広範囲でデータトラフィックが利用されるため、常にどのエリアでもトラフィックのバランスを取る必要があり、広いエリアをくまなく対策するのが大変でした」と林氏は話す。また、ポケモンGOのイベントは、音楽フェスや花火大会などと違い、集まった人がほぼ全員、常時スマホで通信をしているため、各種イベントの中でもトラフィック量は多くなりがちだ。
「開けた場所」×「広いカバー範囲」×「大多数が常時通信」という環境だからこそ、高所作業車が果たした役割は大きい。まさに「こうかばつぐん」の対策だったといえる。
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