世界を変える5G

ソフトバンクの5Gネットワークがさらに進化 AIと5Gを同一インフラで運用する「AITRAS(アイトラス)」発表(1/2 ページ)

» 2024年11月13日 12時18分 公開
[村元正剛ITmedia]

 ソフトバンクはAIとRANの統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」の開発を発表。今後、ソフトバンクの商用ネットワークに導入する他、2026年以降に国内外の通信事業者にも提供し、展開・拡大を目指していく。発表に先駆けて、11月12日にはメディア向けの説明会を開催した。

 説明会は慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)で実施された。SFCにはAITRASのアンテナが20基設置され、実証実験を行っている。説明会の後には、AITRASを活用するデモンストレーションも披露した。

AITRAS SFCの校舎の屋上に20基のアンテナが設置され、AI-RANのエリアが構築されている
AITRAS アンテナはさほど大きいものではない。サーバとは光ファイバーでつながっている

AIとRANが同一プラットフォーム上で動作 生成AIアプリの運用も可能

 ソフトバンクは、AIアプリケーションと無線アクセスネットワーク(RAN)を同じコンピュータプラットフォーム上に統合するアーキテクチャを「AI-RAN」と呼び、研究・開発を進めている。2024年2月にはArm、NVIDIA、Ericsson、Microsoftなど、世界の通信やAIのリーディングカンパニーとともに「AI-RANアライアンス」を設立し、協業してAI-RANの普及を推進する取り組みも進めている。

 今回発表したAITRASは、AI-RANコンセプトに準拠した、AIとRANを同一のNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングプラットフォーム上で動作可能とするソリューション。大容量かつ高品質なRANを構築するだけでなく、生成AIなど、さまざまなAIアプリケーションも提供でき、効率的に運用できるものだという。

AITRAS ソフトバンク 執行役員 兼 先端技術研究所 所長の湧川隆次氏がAITRASのプレゼンテーションを行った

通信事業者向けのレファレンスキットを展開

 ソフトバンクは2025年以降、通信事業者向けに「AITRAS」のレファレンスキットを提供する予定。同キットを自社の屋内外のラボに導入することで、AI-RAN機能の実証を自社のみで行えて、自社でAIアプリケーションを開発し、新たなユースケースを創出することもできるという。

 AITRASは、NVIDIAのプラットフォームをベースに、ソフトバンクがソフトウェアを開発。仮想化基盤やオーケストレーターもソフトバンクが開発し、運用の効率化や消費電力の削減も実現している。

AITRAS NVIDIAで通信事業を担当するシニアバイスプレジデントのロニー・ヴァシシュタ氏も登壇。通信事業者にとってAI-RANは収益性が高いとアピールする

 ソフトバンクとNVIDIAは、これまで5年以上のパートナーシップ関係があるという。今回のAITRASの開発にあたっては、世界的なオープンソースソリューションのプロバイダーであるレッドハット(Red Hat)や富士通ともパートナーシップを組み、高性能化を実現しているという。

AITRAS AITRASのシステム構成

 AITRASのRANが対応するのは5Gの4.8GHz〜4.9GHz帯の最大100MHz幅となる。都市部を想定し、高密集した基地局配置、意図的に再現した超干渉エリアなどの環境で評価を進めていく。

AITRAS SFCに構築されているRANの概要
AITRAS 都市部を模した密集度となっている
AITRAS これがサーバ。NVIDIA GH200が7つあり、上の2つがRAN用、下の4つがAI用で、さらに予備が1つある
AITRAS オーケスレーターによってRANとAIの切り替えることも可能

AITRASを導入するメリットは「コスト削減」や「キャリアグレードの品質」

 AITRASを導入する利点として、ソフトバンクは4つを挙げている。まずはコスト削減。AIとRANのワークロードをGPUベースのAITRASに統合することによって、AIとRANの個別のハードウェアは不要になる。その結果、投資および運用において大幅なコスト削減が見込めるという。

 次に、インフラリソースの効率化。オーケストレーションによって、AIとRANのコンピュータリソースを動的に割り当てることでき、インフラの利用効率が向上。それによって迅速かつ柔軟なサービスが提供できるようになる。

 次に、新たな収益の創出。AIをベースとする新たなアプリケーションやサービスを生み出し、従来はコストがかかっていたRANを、利益を生むものに変えることも目指せる。

 そして、RANの性能がキャリアグレードであることもセールスポイントとしている。具体的には安定性、大容量、経済性の3つで、C-RAN(集中型RAN)にAI効果を組み合わせることによって、複数セルにおける高性能化も実現。都市部で大きな効果が得られることも期待できる。

AITRAS AITRASと他社のvRANの違い。ネットワークを効率的に制御できるのが利点だ

 事前には知らされていなかったが、ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏も駆け付けて登壇。メディアからの質問にも答えた。「ここでの実証実験は世界に向けた第一歩。AITRASが有効であることを証明できたら海外に輸出したい」と意欲を示した。

AITRAS ソフトバンクの宮川潤一社長
AITRAS AITRASは米国のダラスでも実証実験を行う予定
AITRAS AITRASの開発ロードマップ
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