―― ソフトウェアも違うんですね。ハードウェアでの変更という点では、スピーカーも大きな要素だと思います。
小野氏 音響は大きく変わっています。ほぼ一から組み直したのに近い状況ですね。ハードウェア的には、ボックススピーカーを上部にも付けました。AQUOS senseは音がイマイチという評価もありましたが、そこをしっかり手当てしようという話は開発当初からありました。
三島氏 先ほど、中身は変えるのが外は変えないという話がありましたが、AQUOS sense9までは、上部のスピーカーがボックス化されていませんでした。形を変えないとなると、その限られたスペースの中でどうボックス化するかが課題になります。スピーカーは、背面容積を確保することで低域を増すことができますが、スペースに限りがあったので、低域をブーストする“粉”を使い、背面容積を仮想的に増加させています。
また、音質もありますが、AQUOS sense10の重要なコンセプトには、通話の音質をよくするという考え方がありました。われわれは、スピーカーフォンの受話時の音質を改善していくことにしました。最近だと、スピーカーフォンにして“ながら通話”する方が非常に多いからです。
―― 確かに、家族で電話に出るようなときは、自分もスピーカーフォンにします。
三島氏 シャープとしてもそれは分かっていたので、音量感は非常に大事にしました。それによって、声がちゃんと伝わると考えたからです。高い周波数を強調する設計にしてしまうと、声は聞こえますが長時間通話すると聞き疲れてしまう。人の声とは違うという違和感も出てきます。そこに対しては低域を改善して、人の声をしっかり出していく必要があります。そのためにも、上部のスピーカーは補強しなければならず、ボックス化が必須になります。
―― てっきり音楽再生のためかと思っていましたが、意外でした。
三島氏 それに伴い、音楽もよくしていこうとしていました。低域を増強させるためにボックス化したと申し上げましたが、周波数が最大で約2倍アップさせることができています。これによって、音楽再生やメディア再生においても、臨場感がある本来の音の再現ができるようになりました。横置きした際の左右両方がボックス化したことで、周波数特性が近くなり、ステレオで音場の再現する力も向上しています。
―― よく音楽再生のためにスピーカーを強化したという話を聞くことがありますが、どういった層がその機能を重視しているのでしょうか。個人的には、音楽を聞くときはほぼほぼイヤフォンをつけているので……。
三島氏 若いお客さまの方が、本体スピーカー直で聞くことが多いですね。自分の部屋で置いて鳴らすだけでいいという手軽さがよかったり、寝ながら耳に何かを付けるよりは本体から出した方がよかったりということがあると聞いています。一定のユースケースはあるという認識です。
小野氏 以前調査した際には、若い方、特に20代の方はグループLINEでスピーカーフォンにしながら仲間と会話していました。大学を卒業したばかりで、就職して、友達が日本各地にいる。休みの日にはスピーカーフォンで会話するということをしていました。
―― 通話といえば、新機能のVocalistもあります。この機能をAQUOS sense10から搭載したのはなぜでしょうか。
河野氏 小野がお話しした調査のきっかけの1つになりますが、通話で意外と困っている人が多いということが情報として上がってきました。自分の新幹線のホームにいるときに取引先から急に電話がかかってきたということがありますが、頑張って伝えようとしても伝わらないし、移動もできない。意思疎通が取れない経験がありました。AQUOS senseシリーズをお使いのお客さまは、コミュニケーションを大事にされることが多い。ここは改善していきたいということで、今回はVocalistという形で機能を搭載しました。
―― これは、登録した自分の声以外をはじくという仕組みで合ってますか。なぜこのような形にしたのでしょうか。
河野氏 Vocalistは、シーンに合わせて使い分けができるようになっています。周囲の雑音を消し、人の声だけを届けるようにすることはできますが、今回は自分の声だけを抽出して相手に届けられるようにしています。その方が非常に効果は高くなりますが、事前に音声登録が必要になり、通話のたびに毎回オンにしなければならず、少しだけハードルが上がります。
小野氏 簡単に切り替えて、ここぞというときだけ使えるようにしています。
―― 手動でオンにするのはなぜでしょうか。
河野氏 デフォルトオンも考えたのですが、機能を理解していない状態で急に周りの音が聞こえなくなったり、緊急時に他の人が代わりに電話を使ったりするケースもあったからです。ユースケースを調べていくと、デフォルトオンにするのはやはり難しい。でも、皆さんに使っていただきたいということで、通話が始まるとワンタッチでオンにできるよう、フローティングパネルを搭載し、課題をクリアしています。
―― これは、AIを使っているということでしょうか。動かすには、やはりAQUOS sense10ぐらいのスペックは必要になるのでしょうか。
三島氏 どの機種のチップセットで動かせるかという情報は持ち合わせていませんが、CPUのスペックには依存しています。低性能なものだと、稼働はできないと思います。
小野氏 過去機種への対応は難しいかもしれません。深いところから開発していて、変更点もかなり多いので。ただ、今後の機種については搭載を考えています。
―― このところ、通話関連のAIを立て続けに搭載している印象があります。なぜでしょうか。
小野氏 スマホは行きつくところまできたという話もありますが、本当かなと思っています。音声の部分については、どちらかというと誰も気づいていない困りごとがあるからです。騒がしい中で会話したら絶対に話ができないという思い込みがあり、静かなところへ移動するのが当たり前になっている。それが当たり前なので、不満にはなっていませんでしたが、掘り起こしてみると、潜在的な不満にはなるのではないか。ここを掘り下げてみようということで、クローズアップしています。
―― AIの性能が上がったからということもあるのでしょうか。
小野氏 そこもありますね。AIで声紋の認識ができなければ、自分の声をクリアに届けることができません。普段使っているものの中にAIを溶け込ませていく。AIを使ってマスト声高に言うのではなく、普段の生活の中で実はAIを使っていたというのが本当の価値だと考えています。
―― 実際に発売されて、反響はいかがでしたか。
小野氏 気にしていたのは、AQUOS sense9の評判がよかったことです。某価格サイトではずっと1位だったので、前モデルが強力なライバルでした。それもあって、初動はどうかと思っていたのですが、思いのほか実売はよかったですね。販売ルートごとに価格差が結構あるので、そこを見ているお客さまが多い印象です。中には前年を下回っているところもありますが、ほぼほぼ好調と言っていいかと思います。特にオープンマーケットでは、前モデルを大幅に上回り、一時は品切れになってしまいました。
また、いい結果として、もともとAQUOSシリーズは年配の人が買う傾向が高かったのですが、AQUOS sense10については初動で20代や30代の若年層の方がご購入しています。
―― ファッション的な部分を強化したのが効いているのでしょうか。
小野氏 まだ分析はできていませんが、そういったところが一因になっている気がします。
―― スペックが上がっても6万円台を維持できたのは大きかったのではないでしょうか。
小野氏 ミドルレンジは価格帯が広いですからね。AQUOS sense10は、どちらかといえばミドルレンジの中では安い方だと思います。デザインを変えず、金型を共通化できたことでコストダウンにつながりました。お客さまに届けやすい価格でお届けすることができたので、結果的に市場の反応がよかったのだと思います。
―― デザイン変更しないことは、価格にも影響があったんですね。
小野氏 デザインを変えず、部品を共通化したことで、ここをよくしたいというところにピンポイントでお金をかけることができています。
―― 皆さん、ちゃんと見るところは見ていますね。
小野氏 AQUOS Rシリーズのお客さまはスペック重視でお金を出せる方が多い一方で、AQUOS wishシリーズはとにかく安いものが欲しいという方が多い。難しいのがAQUOS senseで、バランスがよくないと選んでいただけません。価格と仕様とのバランスは最重要視して開発しています。
―― オープンマーケットが伸びているというのは何か理由があるのでしょうか。
小野氏 価格だけでなく、6色全てを選べるというのもあるかもしれないですね。ケースも一緒に選べるので、買いやすいのだと思います。
―― 最後に、シャープ全体としてややシェアが低下していますが、AQUOS sense10で挽回していきたいといった思いがあれば、それをお聞かせください。
小野氏 シェアを狙うのではなく、よいものをできるだけ届けたいと考えています。25年のラインアップが、AQUOS sense10でようやくそろいました。後は商品をどうやって認知させ、実売を上げていけるかです。ラインアップがそろったタイミングで、逆転は狙いたいですね。Androidは小差で1位になったり2位になったりするので、まだまだこれからだと考えています。
形状という意味での本体デザインを前モデルから一切変更しなかったAQUOS sense10だが、変えなかったからこその難しさがあったことが分かった。スペックは大きく変更しつつ、外観の寸法をそのまま維持するのはAndroidだと異例。直近では、iPhoneですら毎年のようにデザインを変更している。
それがコストダウンにつながり、売れ行きのよさに結びついている点は示唆に富んでいる。スマホの進化が以前より緩やかになる中、ミッドレンジモデルで同様のアプローチを取るメーカーが増えていく可能性もありそうだ。
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