こうしたドパガキ的な行動の裏には、脳の「報酬系」と呼ばれる神経回路の存在があります。これは何かに期待したり快感を得たりした際に働く回路であり、ドーパミンという神経伝達物質が中心的な役割を担っています。
ショート動画やSNSは、この報酬系を効率よく刺激するように設計されています。次に何が表示されるか分からない状態でスワイプを続けると、そのたびに軽い期待とドーパミンの分泌が繰り返されます。これは、いつ当たりが出るか分からないギャンブルと全く同じ構造なのです。
一方、心身の落ち着きや満足感に関わる神経伝達物質が「セロトニン」です。ドパガキ現象とは、ドーパミンによる刹那的な刺激を絶えず得ている一方で、セロトニンがもたらす本質的な満足感には至れていない状態、と捉えることもできます。
もう1つ、この現象の背景として無視できないのが、若者を中心とした「タイパ(タイムパフォーマンス)主義」の広がりです。短時間で効率よく刺激を味わいたいという現代の価値観が、報酬系を刺激するコンテンツと完全にマッチしていると考えられます。
こうした質の低いネットコンテンツの過剰摂取がもたらす精神的な影響を指す言葉として、近年「ブレインロット(brain rot、脳の腐敗)」という英語のネットスラングも広がっています。
2025年3月ごろから世界的に流行したネットミーム「イタリアンブレインロット」は、AIで生成した動物や機械、食べ物などの奇妙な合成キャラクターに、イタリア語風のリズミカルな名前と読み上げ音声を組み合わせたものです。主に子供たちが夢中になり、「トゥントゥントゥンサフール」や「トララレロ・トラララ」といったキャラクター名を連呼したり、派生楽曲を歌ったりしていました。
現在では、AIによるショート動画を見かける機会も増えました。制作スピードと量産化により、今後もAIによる刺激的なコンテンツが増殖していくと考えられます。
どの世代でもドパガキ状態に陥るリスクはありますが、中でも特に懸念されるのは、心身の発達段階にある子供たちへの影響です。
依存性の高いプラットフォームの設計に対し、各国の規制当局は問題視し始めています。EUの政策執行機関である欧州委員会は、無限スクロールや自動再生、プッシュ通知、高度なおすすめ機能などが、子供を含む利用者の脳を「自動操縦状態」にし、「不健康な習慣や強迫的な利用につながっている」と指摘しました。
欧州全域で13歳未満の子供のSNS利用を禁止する法整備も検討されており、早ければ2026年秋にも法案を提出する可能性があると表明しています。
オーストラリアでの16歳未満へのSNS利用禁止に続き、スペインやギリシャでも同様の方針が打ち出されています。フランス、ノルウェー、英国でも未成年の利用制限が議論されており、プラットフォームの「依存性のある設計」は、結果的にSNSそのものへのアクセス規制へと発展しつつあります。
一方、日本の総務省は2026年6月に公表した青少年保護に関する報告書案で、「一律の年齢制限をかけることは望ましくない」との見解を示しました。プラットフォーム側の保護機能の充実や、発達段階に応じた対策を重視しており、海外で広がる「禁止」路線とは一線を画すアプローチを取っています。
「SNSを見ていて電車を乗り過ごした」「ショート動画にハマって作業が遅れた」といった程度なら笑い話で済みますが、かつてない情報量の嵐に巻き込まれている子供たちに関しては、大人が意識して適切に見守っていく必要がありそうです。
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