今や多くのスマートフォンや通信サービスで普及しつつあるeSIM。物理的なSIMカードを抜き差しせず、端末に内蔵したSIMをオンライン上で有効にできるため、少ない工数で契約や回線の切り替えが可能になる。その反面、通信サービスに詳しくない人にとっては、設定のハードルが高いという課題もある。
そんなeSIMのサービスを早期から提供してきたのがIIJ(インターネットイニシアティブ)だ。なぜIIJはeSIMに力を入れているのか。そして、多くのユーザーが不便なくeSIMを利用できるよう、どんなことに工夫しているのか。
以下の3人にお話を聞いた。
IIJがeSIMの提供を開始したのは、2019年7月の「IIJmioモバイルサービス ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」だった。まだキャリアのeSIMを提供していない中、サービスを立ち上げた背景には、自社の技術的優位性を打ち出す狙いがあった。
廣嶋氏は「いち早くMVNOとしてeSIMを提供した理由は、技術力の高さをブランディングするためです。『技術のIIJ』という自負もあり、先行してサービスを開始しました」と振り返る。あえてβ版として提供した背景については「事前に全ての課題を洗い出すのは難しいためです。お客さまからのフィードバックをいただき、正式サービスに生かす狙いもありました」と語る。
MVNOがeSIMを提供するには、キャリアが提供しているeSIMのプラットフォームを卸提供してもらう必要があるが、2019年はどのキャリアもeSIMを提供していない。そんな中でIIJが提供できたのは、自社でSIMを発行できるフルMVNOの事業を開始していたから。当時提供していたeSIMは、このフルMVNOの基盤を活用しており、その技術力を示した形だ。
サービス開始当初のユーザー層は、新しい技術に強い関心を持つイノベーターやアーリーアダプターが中心だった。主回線を大手キャリアで契約しつつ、副回線としてIIJmioのeSIMを追加するスタイルが主流で、サービス開始から2020年2月までに獲得した約1.4万回線のうち、約75%が新規ユーザーだったという。
その後、2021年には主力プランである「ギガプラン」のラインアップに組み込み、音声eSIMの提供も開始した。これにより、メイン回線としての利用や通信障害対策としてのサブ回線ニーズが急速に拡大。ユーザーの裾野は、新しいテクノロジーに関心の高い層だけでなく、一般層へと広がっていった。
eSIMの普及に伴い、カスタマーサポートに寄せられる問い合わせの内容も変化してきた。物理SIMにはないeSIM特有のトラブルや「落とし穴」が顕在化している。
中でも特に多いのが、APN設定のトラブルだ。iPhoneでMVNOサービスを利用する場合、通信に必要なAPNを手動で設定できず、「APN構成プロファイル」をインストールする必要がある。
iPhoneではeSIMプロファイルをダウンロードした時点で画面上に「設定完了」と表示され、アンテナピクトが立つことがある。しかし、APN設定を行わなければ通信は利用できない。「画面上は開通したように見えるため、使えない理由が分からず困惑してお問い合わせいただくお客さまが多いのが現状です」と廣嶋氏は明かす。
MVNOサービス間で回線を切り替える場合、A社の構成プロファイルを適用したままB社のSIMを有効にしても、B社のサービスは利用できない。「SNSを見ると、他社のSIMに対して構成プロファイルを適用することで、もとのSIMが圏外になるので他社に行ってしまう、といったお客さまも散見されます。そういった事態に陥らないよう、手順書は拡充を続けていますが、そこは永遠の課題ですね」と吉橋氏は話す。
IIJがフルMVNOとして自社が発行するデータeSIM(タイプI)を利用する場合、構成プロファイルは不要なので、そこからタイプDやタイプAの音声eSIMに移行した人が、構成プロファイルは不要だと誤解するケースも見られるという。
また、手軽さゆえのトラブルとして「プロファイルの誤削除」も起こりやすい。「eSIMは画面上の操作だけで簡単に削除できてしまいます。『設定がうまくいかず焦って消してしまった』『再設定しようとして削除した』といったお声は、いまだに多い」(廣嶋氏)という。
端末とSIMのミスマッチも新たな課題だ。eSIMのみに対応したiPhone 17は、IIJmioでも未使用品を扱っているが、「物理SIMで申し込みをしてしまい、端末が届いたのにSIMを挿せなかったという方がいらっしゃった」(穂田氏)という。その場合、eSIMに切り替える必要があり、ユーザーにはSIMの再発行手数料が発生してしまう。
ただ、iPhone 17のようなeSIM専用機であっても、物理SIMを選ばせないようにすることはできないという。これは「必ずeSIMとの組み合わせで使うとは限らず、ご自分は物理SIMで、iPhone 17をご家族で使うケースもある」(穂田氏)ためだ。
逆に、物理SIMしか使えない端末を購入する際に、誤ってeSIMを選ぶというケースも見られたという。IIJmioが販売している機種では「moto g06」「REDMI Note 17 Pro Max 5G」などがeSIMに対応していない。eSIMを打ち出しているIIJだが、eSIMが使えない機種も扱っているので、その方針が図らずも裏目に出てしまった形だ。
eSIM専用機については「eSIM専用」の表示を設け、物理SIM専用機については「eSIM対応」に×印を設けている。そして、物理SIM専用とeSIM専用の端末を購入する際、「eSIM非対応/物理SIM非対応」であることの注意喚起を出すようにしている。このようにUIや導線を改修することで、端末とSIMのミスマッチが起きないよう努めている。
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