災害対策、LTE、おサイフケータイ、スマートフォン――辻村氏が語るドコモの未来像:スマートフォン&モバイルEXPO(2/2 ページ)
スマートフォンの普及やモバイルのブロードバンド化が進む中、ドコモの携帯事業は今後、どのような道を歩んでいくのだろうか。同社代表取締役副社長の辻村清行氏が、「ケータイの今とこれから」というテーマで語った。
日本と世界でおサイフケータイを利用可能にする
リアルとネットワークが融合したサービス例として、辻村氏はマクドナルドの「かざすクーポン」について言及。かざすクーポンは、「トクするアプリ」をダウンロードして、ケータイを店舗のリーダーライターにかざすと、クーポンやプレゼントなどの特典を受けられる。クーポンを電子化することで、紙の印刷や配布などの手間を省けることに加え、おサイフケータイ利用時にユーザーの履歴を取得できるので、性別や年代などにマッチしたクーポンを店舗ごとに提供できるというメリットも生じる。辻村氏は「究極は(ユーザーごとの)ワンツーワンの特典を作ること」と話す。例えば、あるお客さんは週に2回来店しているので、割引額を増やしてもっと来店してもらう、といったことができる。こうしたクーポンの電子化は「流通業界のマーケティングに大きな変革を起こす」と同氏は意気込む。
iコンシェルの地域展開も、ドコモが推進しているリアルとネットワークを結び付ける施策の1つだ。例えば、街のパン屋が新作のくるみパンを作ったとする。今までは店頭でポップを作ったり、近隣の駅でチラシを配ったりしていたが、iコンシェルなら、サーバのホスティングシステムを利用して、新作の情報を電子クーポンなどにしてユーザーに届けられる。ただし店舗からある程度近くないとユーザーが足を運ばないので、「パン屋からせいぜい5分くらいのところに、GPSを利用して周辺のユーザーだけにクーポンを配る」ことになる。「店舗は約1000円でサーバを借りられるので、ローコストでチラシを作れる」と辻村氏はメリットを説明する。現在は約6000の地域向けコンテンツが提供されている。
日本では、FeliCaを利用したおサイフケータイがキラーサービスに成長し、「さまざまな企業が参加してエコシステムが進んでいるのは日本だけ。これは“ガラパゴス”ではなく、世界でも売れる一歩進んだサービスだ」と辻村氏は胸を張る。海外でもAndroid 2.3がNFCに対応するなど、おサイフケータイ普及への気運が高まっている。
ただ、世界では非接触ICカードの標準規格としてTypeA/B、FeliCaにはTypeCがチップとリーダーライターに採用されているので、FeliCaチップのみを搭載したケータイからTypeA/B対応のリーダーライターで決済するといったことはできない。そこでドコモは2012年以降、従来のFeliCa RFチップの代わりにNFCチップを搭載してFeliCa SE(Secure Element)とデータをやり取りし、TypeA/BのSEをSIMカードに実装することで、海外でもおサイフケータイを利用可能にすることを目指している。「交通機関のサービスなら、日本でモバイルSuicaを使うのと同じような感覚で海外でも使えるようになるだろう」(辻村氏)
スマートフォンとフィーチャーフォンは融合する
辻村氏が最後のテーマとして触れたのが、今勢いを増している「スマートフォン」について。ドコモは2010年に約250万台のスマートフォンを販売し、トータルの販売数1800万台の約10数%がスマートフォンを占めた。「2011年度は全機種の3分の1くらい、600万台のスマートフォンを売りたい。(今後発表する)新機種の半分はスマートフォンになるので、販売台数も3分の1より大きくなる可能性がある」と同氏はみる。
スマートフォンの購入者も変わっているという。「2010年4月は女性が20%ほどだったが、2011年3月には30%を超えた。利用者の年代も20〜30代が中心だったが、最近は40〜50代の人も積極的に使っている」(辻村氏)
スマートフォンと言ってもその形状はさまざまだが、ディスプレイサイズで見ると「4インチ前後」「7インチ」「9インチ以上」の3タイプに分けられる。「9インチ以上はノートPCと同じような感覚でカバンに入れて利用できる。4インチ前後のハンドセットタイプはフィーチャーフォンに替わるもの。7インチは微妙なところだが、私は(GALAXY Tabを)よく使っている。4インチだと小さくてバッテリーが弱いが、7インチなら大きなバッテリーを積めるので充電回数を減らせるし、画面も見やすい」と辻村氏はそれぞれのメリットを説明する。
辻村氏はスマートフォンがもたらす影響について、エジプトでの暴動でFacebookやTwitterが使われたこと、東日本大震災でもTwitterをはじめとするSNSが活躍したことを一例に挙げた。さらに、クラウドのデータセンターにアクセスして営業日報をタブレットから記入したり、管理者がスマートフォンに遠隔ロックをかけてデータを消去したりと、「ビジネスの分野でも7インチ以上のタブレットはもっと積極的に使われていくのでは」とみている。
なお、東日本大震災で携帯電話の部品メーカーの工場が被災したことで、スマートフォンの出荷にも大きな影響が出ているという。「OSは米国の企業が中心になって作っているが、日本の部品が海外で使われていることが多く、世界で50%のシェアを持っている会社もある。端末メーカーは苦戦しているが、部品メーカーは世界で活躍しているところが多い」と称えた。
今後、スマートフォンとフィーチャーフォンの関係がどのように変化していくのかは気になるところだが、辻村氏はこの2つを「融合させたい」と話す。スマートフォンにはiモードメールと同等の機能を盛り込んだ「spモードメール」やおサイフケータイなども搭載し、iモード端末との距離が縮みつつある。「今後はiチャネルやiコンシェルもスマートフォンに入れていく。iモードで使われてきたサービスは、できるだけ早くスマートフォンにも入れていきたい」(辻村氏)という。この流れが続けば、スマートフォンの“iモード化”が起きそうだ。
フィーチャーフォンについても、例えば大きなアイコンを利用したUI(ユーザーインタフェース)を採用するなど、スマートフォンのUIに近づけていく見通しだ。「iモードのUIはスマートフォンに近くなり、スマートフォンの機能はiモードと同じものを入れていく。最終的には2つが融合して、違いは画面の大きさくらいになるのでは」と辻村氏は話す。このスマートフォンとフィーチャーフォンの融合は、2〜3年かけて取り組んでいくとのこと。
今後はマルチデバイス化がさらに進み、アドレス帳、静止画、動画、電子書籍などのデータをサーバに保管し、フィーチャーフォンやスマートフォン、カーナビ、PCなど複数のデバイスから、用途に応じてシームレスにデータへアクセスできる環境作りを目指す。端末の進化はもちろん、デバイスの種類にとらわれない、新たなサービスの創出も期待される。
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