au版iPhone 5のLTEエリアは、テザリング対応はどうなるのか――KDDI 田中社長に直撃(2/2 ページ)
米国サンフランシスコに滞在中、偶然KDDIの田中孝司社長とお目にかかり、「iPhone 5」についてお話を伺う時間をいただいた。KDDIの2.1GHzのLTEエリアは今どういう状況なのか、テザリングは解放するのか、などなど気になるポイントを聞いた。
800MHz帯のLTEサポートは?
田中社長は「2.1GHzのエリアがどんどん広がっている」と話す一方、「屋内浸透などの問題はもちろんあるので、2.1GHzのLTEが今の(800MHz帯が中心の)3Gと同じレベルになるわけではありません」とクギを刺した。しかし「2.1GHzの基地局は、もともと混雑が激しいからこそ打っている基地局ですから、そうした意味である程度の満足度は得られると考えています。またiPhone 5は、3GでEVDOマルチキャリアに対応したため、下りの最大通信速度が3.1Mbpsから9.2Mbpsに向上しています。混雑する場所は、たくさんの基地局が見えているはずなので、3Gで使う場合にも高速になるはずです」と自信を見せた。
ところで、iPhone 5には800MHz帯に対応するアンテナは内蔵されており、iPhone 5が採用しているとされるQualcommのLTE対応チップも、KDDIの800MHz帯をサポートしている。それなのにKDDIの800MHz帯LTEがiPhone 5で使えない理由は何だろうか。気になったので田中氏に尋ねてみたが、これに関しては「詳細は話すことができません。確かにQualcommのチップは800MHz帯をサポートしています。これは他にサポートしている端末があるのですから、否定しません。ただ、モデムチップだけでなく、周辺のアナログ回路やソフトウェアを含めた“モデム全体”では、まだKDDIの800MHz帯はサポートできていないということです」とのことだった。
微妙な言い回しだが、QualcommのモデムチップがKDDIのバンドをサポートしていることは公開されているスペックで明らかなので、iPhone側のソフトウェアか、あるいはアナログ部分(アンテナからの周波数を混ぜるデュプレクサなど)が非対応なのかもしれない。
LTEローミングは、今後のキャリア間のアライアンスに依存
今回、UMTS(W-CDMA)版とCDMA2000版で異なるハードウェアになったiPhone 5。では国際ローミングでCDMA2000版はUMTSネットワークに接続できるだろうか。
「CDMA版のiPhone 5にもUMTSのサポートは入っていますから、国際ローミングでUMTSネットワークに接続することは可能です。ただし、LTEに関しては国際ローミングの枠組みがキャリア間で決まっていないため、(iPhoneに限らず)ローミングはまだ不可能です。iOS 6ではCDMAローミングのオン/オフを選べるようになったため、これをオフにすると、海外ではCDMAではなくUMTSへローミングされるようになるなど、使いやすさが向上しています」(田中氏)
なお、米Verizon Wirelessが販売するiPhoneは、米国外では自動的にSIMフリーとなる(というより米国内の競合他社がSIMロックに入っている)が、海外ではSIMフリー端末として利用できる。そこであるいはKDDIも……と思ったが、KDDI版のiPhone 5は、従来と同様に海外キャリアのSIMカードを利用できないロックがかかるという。
テザリングに対応、データ/音声同時通信は不可
さて、iPhone 5はLTEに対応しているため、テザリングに対応しているのでは?と期待している向きもあると思う。混雑するエリアはLTEにオフロードできるため、テザリングを許可しても3Gネットワークに破壊的なインパクトを与えないと考えられるからだ。これに対しては「対応している」との回答を得られたが、CDMA2000の弱点であるデータ/音声の同時通信には非対応とのこと。
もっとも、これはCDMA2000の仕組みに依存する話なので致し方ない。ただし、LTE-Advancedになると並行した通信も可能になる。将来の話になるが、KDDIのLTE基地局がアップグレードされてLTE-Advanced対応になれば、端末が同じでも同時通信は可能になるものと予想される。
「昨年、iPhoneを扱い始めた時には、初めての経験でしたのでいろいろとご迷惑もおかけしましたが、今回は周到に準備を進めましたから、顧客にとって満足できるものになっていると思います。例えばWi-Fiへの自動接続に関しても、au Wi-Fi SPOTはすべてのアクセスポイントを5GHz対応にしていますから、新型の5GHz対応に合わせて体験レベルが改善されます。また、緊急地震速報への対応にも力を入れました。KDDIのネットワークで使う場合、緊急地震速報は常時オンにしていてもバッテリー駆動時間に影響を与えません。2.1GHzへの対応を積極的に進めたことはお話しした通りです」(田中氏)
iPhone偏重ではなく、顧客の望む端末/サービスを自由に選べるように
昨年のiPhone 4S発売時は、KDDIはあまりたくさんのiPhoneを売りたくないのでは?と感じる場面もあった。iPhone中心の店舗構成を採るソフトバンク系の販売店と比べることはできないが、KDDI系販売店でのiPhoneの扱いは決して良いものではなかったからだ。
これだけiPhone 5への準備を周到に進めたということは、今後はiPhone中心の販売戦略になっていくのだろうか?
「そうした意図はまったく持っていません。KDDIとしては、自由な選択を顧客に提供することが戦略の骨子です。iPhoneが好きな人もいれば、Android、Windows Phoneが好きな方もいます。ユーザーが好みに応じて選べる環境を準備することがキャリアの仕事だと思っています。昨年のiPhoneの販売状況に関しては、販売店向けの情報提供や教育などの面で、すぐにiPhoneを売るノウハウを作れなかったということだと思います。しかし数カ月でキャッチアップし、今ではiPhoneの販売で(ソフトバンクと)半々ぐらいではないでしょうか」(田中氏)
NTTドコモはAppleの端末を販売することに関して、サービスレイヤーを他社に引き渡すことはできない、と抵抗感を示している。iPhoneはいわば究極のダム端末であり、キャリアはパイプ役にしかならない、とも言える。
「私はそれも顧客の選択だと思います。お客様が“こう使いたい”と思っているのに、キャリアの都合を押し付けても仕方がないでしょう。今はオープンネットワークで何でもできてしまう時代です」(田中氏)
自由に選べる、ユーザー中心主義がKDDIの基本方針
「例えば、LINEのネットワークの使い方が、制御信号トラフィックを増大させて問題を引き起こすといった話がありました。放置すれば、そのうちどうにもならなくなって、利用制限という話にもなりかねません。我々がLINEと協業しよう考えたのは、一緒にやればネットワークの技術的な面で摺り合わせを行い、トラフィックの最適化ができるからです。これはSkypeも同じで、制限するよりも協業して自社ネットワークとの相性を改善するという方向を選びました」(田中氏)
「それは使うな」「俺たちのものを使え」と排他的なビジネスをするのではなく、一緒になって現在の携帯電話網に合った枠組みを作っていきたい、と田中氏は話す。「それが基本的な考えです。極端なトラフィックでみんなが迷惑する、なんてことがないなら、スタンプをバンバン使ってもらった方がいいですよね。いや、使って欲しいんですよ」(田中氏)
これは端末がiPhoneでも同じで、Appleのエコシステムであっても同じだという。
一方で、通信キャリアであるKDDIには別の仕事があると田中氏。それは端末を使う上でもっとも大変な、“一般のユーザーにスマートフォンを使いこなしてもらうこと”だ。
「たくさんの機能、あふれるほどのアプリの中から、自分の必要なもの、自分なりの使い方を発見するのは容易ではありません。KDDIのような通信キャリアは端末を販売する立場なので、課金システムを預かる立場として、ある程度の信頼感も得ています。そこでいくつかのバリューを提供できると考え、スマートパスポート構想のようなサービスを提供しています。月額390円で、auがセレクトしたアプリが自由にダウンロードできる『auスマートパス』もそうですし、キャリア課金サービスもそうです。ユーザーに『これを使ってください』と言うのではなく、『こういう選択肢もあります。とっても簡単だから、必要なら選んでくださいね』と優しさを提供することで、顧客が次のステップへと進んでくれたなら、結果としてKDDIにとって良質な顧客という大きな財産を生み出してくれると考えています」(田中氏)
最後は独白に近い形でインタビューを終えたが、田中社長の視点は常に“自分がユーザーだったら”という位置にある。iPhoneに集中するわけでなく、iPhoneを軽視するのでもなく、ユーザー自身が使いたいように使ってほしい。2011年から掲げる“自由”というテーマは、どうやら単なる宣伝文句ではなさそうだ。
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