コダックの「DCS Pro SLR/n」(以下、SLR/n)は、「DCS Pro 14n」(以下、14n)の高感度版として開発された、ニコンFマウントのデジタル一眼レフカメラだ。14nの最大の課題とされた「実用感度の狭さ」を克服してラチチュード(明暗差の許容量)を広げ、プロの道具としてブラッシュアップされている。
デジタル一眼レフ市場は活況を呈しているが、SLR/nのような35ミリフルサイズセンサーを持つモデルはまだまだ希少派だ。
DCS Pro SLR/nの主なスペック
撮像素子 | 35mmフルサイズCMOSセンサー |
有効画素数 | 1371万画素 |
対応レンズ | ニコンFマウント |
ISO感度 | 160〜1600相当 |
焦点調節 | オート/マニュアル |
最高品質時の最大画像解像度 | 4536×3024ピクセル |
シャッター速度 | 1/4000〜2秒、長時間露光モード:3モード(オフ、1/8秒〜1秒、1秒以上)切り替え |
フォーカスエリア | 5カ所 |
露出補正 | あり |
ストロボ | 内蔵 |
液晶ディスプレイ | 2インチ低温ポリシリコンTFT |
ファインダー | アイレベル式ペンタプリズム使用、視度調節機構内蔵 |
記憶メディア | コンパクトフラッシュType I/II、SDメモリーカード/マルチメディアカード |
画像ファイル形式 | DCR、ERI-JPEG、JPEG |
バッテリー | 専用リチウムイオン充電池、ACアダプタ |
PCとのインタフェース | IEEE1394 |
サイズ | 約158(幅)×131(高さ)×89(奥行き)ミリ |
重量 | 約907グラム(本体のみ) |
価格 | オープンプライス |
SLR/nに食指を動かす人は、腕に覚えのあるハイアマチュアかプロのいずれかだろう。この価格(オープンプライスで、実勢価格は60万円前後の見込み)であっても、それに見合った写真が得られるのなら出費は惜しまない、と回答する人たちのはずだ。
そんな諸兄には釈迦に説法に違いないが、このカメラを検討するうえで忘れてはならない大前提がある。極論すると、それは次の2点だ。
1. SLR/nはポートレート用モデルである
2. SLR/nはアメリカ製である
順に説明したい。1はメーカーが公表している周知の事実で、SLR/nはスタジオユースのポートレート機として特定マーケットにフォーカスした製品だということだ。つまり、スポーツ・報道写真用に最適化されたかのようなキヤノンの「EOS-1D Mark II」やニコンの「D2H」などと同じ俎上で論じるのは不適切ということである。
屋外での撮影を考慮して作られた「EOS-1Ds」のような防滴・防塵構造の堅牢ボディを持たないのもこのためだ。開発コンセプトが違うのである。これを理解すれば、ベースのボディが14nと同様に今回もニコンの35ミリ一眼レフカメラ「F80」のままであることも納得できよう。
シボ感のあるマグネシウム合金を被せたとはいえ、ベースのF80はミドルクラスのボディだ。それゆえ質感は「Pro」と称するには今一つ。内蔵のポップアップストロボも、チープ感に拍車をかけてしまっている。
だが、これら外見上のファクターは、DCR(Digital Camera Raw:コダック独自のRAWファイル形式)の広大なダイナミックレンジを体感すれば、瑣末なことに思えるだろう。もちろん、ポートレート用モデルではあるが、風景撮影でも実力を発揮する。
続いて2のアメリカ製であることについて。SLR/nは合理主義の国アメリカで作られた製品ゆえ、注力すべきところとそうでないところとを割り切っているような開発意図が見受けられる。
世界的なフィルムメーカーであるEastman Kodakの開発陣が優先順位の筆頭に据えたもの、それは高解像感とダイナミックレンジの拡大による高階調性であろう。写真階調の豊かさ=画質に如実に表れるこれらの要素に比べれば、レンズオプティマイゼーション機能の改善やバッテリー持続時間の延長、ユーザーインタフェースの改良などは、プライオリティが低位に位置付けられていたのかもしれない。
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