毎年毎期たくさんのデジカメが市場に投入されるけれども「定番」と呼んでいいほど安定した性能・売れ行き・完成度を持ったシリーズはおそらく「IXY DIGITAL」シリーズしかあるまい。初代「IXY DIGITAL」が登場して以来、その地位を守り続けているのは驚異的だ。
特に「定番化」してからのIXY DIGITALは、その座を狙う他社の製品に比べて小さいわけでも軽いわけでも電池の持ちがいいわけでも機能が多いわけでも速いわけでも液晶モニタが大きいわけでもなかった。簡単にいえば、突出した個性を持たない……けれども完成度が高くて安心して使えるデジカメだったのだ。
とはいえ、2004年春に出た「IXY DIGITAL 500」はライバル機に比べてボディは大きく液晶モニタは小さく起動は遅く、と個々のスペックで見劣りするようになってきており、次にどんな後継機が出るか注目されてきたのだ。
そして、2004年秋にIXY DIGITALの主力モデル「IXY DIGITAL 50」が登場した。さすがキヤノン。ぐっと小さく速くなり、より定番としての魅力を増しての登場である。
もっとも、このIXY DIGITAL 50はIXY DIGITAL 500の後継機というわけではなく、ポジションとしては2003年秋に出た「IXY DIGITAL 30a」の後釜。でもIXY DIGITAL 30aが300万画素だったのに対してIXY DIGITAL 50は400万画素(型番は「50」だが500万画素ではない点に注意)。IXY DIGITAL 30は2倍ズームだったのにIXY DIGITAL 50は3倍ズームと、十分メインを張れる性能を持ってきたのである。おそらく一番の売れ筋はこのIXY DIGITAL 50となるだろう。
まずは小さくなったボディ。
厚さは20.7ミリとかなり薄く、縦横はIXY DIGITAL 30aとほぼ同じでカードサイズより一回り小さいくらいだ。IXY DIGITAL 30aをぎゅっと薄くしたサイズなのである。角が丸くラウンドしているのでよけい小さく見えるし、角が丸い分ケースへの出し入れもしやすく手に持った感じも優しい。これはかなり魅力的である。
しかもIXY DIGITAL 30aが2倍ズームだったのに対してIXY DIGITAL 50は3倍ズームを内蔵したのだ。その秘密は、「Powershot S60/S70」の薄型にも貢献した非球面で屈折率が高い「UAレンズ」。このレンズを2枚使うことでストレート沈胴式(レンズ群の一部がずれたりしないでまっすぐ沈胴するタイプ)のレンズで、薄型を実現したのである。性能も35-105ミリ相当でF2.8-4.9とポピュラーな性能を確保している。
CCDは1/2.5インチの400万画素。すでにこのサイズで500万画素のCCDを搭載したデジカメは多数登場しているが、あえて400万画素に止めたのだ。画質面では無理に画素数を増やさない方が有利であり、IXY DIGITALなら画素数勝負に参入しなくても大丈夫と見たのかもしれない。個人的にはこの決断は評価したい。
起動は上面の電源ボタンで。今までのIXY DIGITALシリーズは誤動作を防ぐため、電源ボタンの長押しが必要だったので、実際より起動時間は遅く感じた。ひどいときには、電源ボタンを押したのにレンズが出てこないのでもう一度押しなおしたら、最初の押下が実はちゃんと生きていて、レンズが出てすぐ引っ込んでまたスイッチの入れ直し、ということすらあったのだが、IXY DIGITAL 50ではそんなことはない。電源ボタンの反応がよくなり、実測でも約1.5秒で起動が完了する。ものすごく速くなったのだ。これならストレスはまったく感じないし、起動を待つという感覚もない。
素晴らしいことである。起動以外のメニュー操作や再生といった処理も体感で分かるほど高速化されている。映像エンジンがより高速な「DIGIC II」にグレードアップしたのも理由の一つだろう。
背面に回ると、ユーザーインタフェースが一新されたのが分かる。従来のIXY DIGITALでは液晶モニタの下と右にボタン類があり、メニュー操作などでは両手を使う必要があった。その分右側に親指を置くスペースが作られていたのだが、IXY DIGITAL 50では液晶モニタを2インチに大きくしたのを機に、ユーザーインタフェースを液晶モニタ右側に集めたのである。
特に円形十字キーの中央のボタンを「FUNC」と「SET」の共用にしたのはいいアイデアで、おかげで撮影中の操作のほとんどがこの円形の中で完結する。操作が軽快になり、迷うこともなくなった。
円形十字キーの左はマクロ・遠景モードボタン、上は測光モード、右は発光モード、下はドライブモードとあらかじめ機能が割り当てられているのは相変わらず。マクロや遠景固定に簡単に切り替えられるのは便利だ。このキーで切り替えたモードは画面上にいったん大きく表示された後、画面の右上に小さく引っ込む。ちょっとしたギミックだが分かりやすくてよい。
ただ液晶モニタのクオリティはいまひとつ。コントラストは低めでシャープさもあまりなくすごくソフトな見え方をするのだ。視野角も狭く、使っていてきちんと撮れたどうかちょっと不安になる。残念な点である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.