IntelはWiMAXを促進するのか阻害するのか元麻布春男のWatchTower

» 2007年02月27日 09時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]
Intelが公開したノートPC向けWiMAXモジュール

 2007年1月下旬にIntelは、2008年に投入する予定のモバイルプラットフォーム“Montevina”に向けて開発中のWiMAXチップセットを公開した。WiMAXは2007年に投入されるSanta Rosaプラットフォームでもオプションとして用意される見込みだが、提供形態がPCカードといった外付けになると予想されている。しかし、Montevinaではプラットフォームへの統合を進め、内蔵オプションとして提供されると考えられている。

 今回公開されたのは、MAC/ベースバンドチップのIntel PRO/Wireless 5216(PC5216MDE、開発コード名“Ofer-M”)と、物理/RFチップであるIntel WiMAXコネクション2300(WG2300R、開発コード名“Ofer-R”)を組み合わせたモジュールだ。全世界で共通に利用できるWiMAX通信製品である。この2チップ以外で目立つのはパワーアンプくらいで、非常にシンプルな構成となっている。Ofer-Rは1チップで、WiMAXだけでなくWiFiまでもサポート可能なマルチバンドチップとされているが、このモジュールでWiFIがサポートされているのかどうかは不明だ(WiMAX経由のiAMTには未対応)。アンテナ端子としては、受信用が2本、送信用が1本用意されており、ダイバシティアンテナをサポートしているものと思われる。

 現在開発中であるこのモジュールはExpress Cardスロットに取り付けるようになっているが、製品化されたときには内蔵用のMini Cardになるもようだ。このことから推測されるのは、Intelが、このWiMAXモジュールを現在の無線LANと同じくモジュールの形のみで提供しようとしていることだ。現時点でチップ単体での販売は予定されていない。このため、技適(技術基準適合証明)もIntelが取得することになると思われる。Centrinoのオプションとなる“Robson”が、チップで販売するのとは好対照だ。

MAC/ベースバンドチップのIntel PRO/Wireless 5216。現行製品の5116がIEEE 802.16-2004(固定WiMAX)対応だったのに対し、モバイルWiMAX(802.16e-2005)へ対応した
PHY/RFチップのIntel WiMAXコネクション2300。WiMAXに加え、WiFi(無線LAN)にも対応する

 さらにいえば、モジュール単体での提供も予定されていない。あくまでもCentrinoを構成する1つのパーツとしてのみ販売されるのであって、この辺りも無線LANモジュールと同じ扱いとなる。言い換えれば、Intelのチップを用いたサードパーティ製のWiMAX製品(内蔵用MiniCard、外付け用ExpressCardを含む)が登場する見込みはない、ということになる。アップグレードオプションとして、WiMAXのMiniCardを後から加えることも難しいだろう。

 これで気になるのがWiMAXサービスの提供形態だ。自分でアクセスポイントを設置して利用できるWiFiと異なり、WiMAXは免許を受けたキャリアとサービス契約を行う必要がある。はたして特定のキャリアとサービス契約を行う必要のあるデバイスが、ノートPCのオプションとして提供できるだろうか。過去にPHSのデータ通信モジュールを内蔵したモバイル向けノートPCが販売されたことはあったが、成功した製品だったとは言い難い。

 加えるに、WiMAXのサービス提供が、現在の携帯電話網のように全国のほとんどのエリアで利用できるのであれば良いが、「当初は首都圏や関西圏など大都市のみ」ということになってしまうと、なおさらノートPCの内蔵オプションとしては提供しにくくなる。BTOやCTOのオプションならまだしも、全国に同じ商品を流通させる店頭販売モデルにWiMAXモジュールを内蔵させるのは至難の業であろう。WiMAXを利用するにはキャリアが販売するノートPCを買わなければならない、という事態になるのは避けて欲しいところだ。

2006年9月に行われたIDF 2006 Fall で、IntelはNOKIAとの提携を華々しく発表したが……

 Intelは、IDF 2006 FallでNOKIAとの提携を発表している。そこでIntelはNOKIAの3G携帯技術を用いたデータ通信モジュールを自分たちのプラットフォームに統合するビジョンを示したが、その後、この件に関する進捗状況を耳にしない。日本に比べれば端末とキャリアの結びつきが弱い米国でさえ、様々なキャリアで使える3Gモジュールをプラットフォームに統合することは容易でないのだ。

 ましてや、事実上端末をキャリアが専売する日本では、様々なキャリアのWiMAXサービスで利用可能な通信モジュールをPCベンダーが販売する形態が可能なのかどうかも不透明だ。PCベンダーが販売するノートPCにキャリアが販売するWiMAX通信モジュールを組み合わせるという方式が(善しあしは別として)現実的だと思うのだが、現在のIntelの計画では不可能である。

 製品化までに販売計画に変更があるのかないのか。屋外でもネットワークアクセスが不可欠となったノートPCユーザーにとってこれから大きく注目されるところだ。

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