第4回 HD DVDとBlu-ray Discメディアの仕組み新約・見てわかる パソコン解体新書(4/4 ページ)

» 2007年06月01日 11時11分 公開
[大島篤(文とイラスト),ITmedia]
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HD DVD-R/RWとDB-R/REのディスク構造

 HD DVDとBlu-ray Discのメディアは、どちらも1層ディスクと2層ディスクがあります。2層ディスクは2つの記録層を持つもので、1層ディスクの2倍の記憶容量を持ちます。

 ディスクの構造を3Dで示すと、次のようになっています。レーザービームによる読み書きは、この図では上側から行うことになります。


 HD DVDの構造はDVDと同じで、0.6ミリメートルの厚みのディスクを2枚貼り合わせてあり、その真ん中に記録層が形成されています。2層ディスクの場合、2つの記録層の間に0.055ミリメートルの中間層が形成されていて、レーザービームの焦点位置をどちらかの層に合わせることで、選択的に2つの層に対して記録と再生を行います。上側の記録層は半透明なので、ここを透過して下側の記録層を読み書きすることが可能です。

 Blu-ray Discは、表面から記録層までの間隔が0.1ミリメートルしかないことが大きな特徴です。これは、高NAレンズを採用するために必要なことでしたが、ディスク表面に付いたゴミや傷に弱くなる問題があります。HD DVDの場合、ディスク表面でのレーザービームの直径は0.5ミリメートルほどあるので、ディスクに0.1ミリメートル程度のゴミが付着していても問題なくデータを読み書きできます。Blu-ray Discでは、ディスク表面のレーザービーム直径は約0.13ミリメートルという狭さなので、0.1ミリメートルのゴミでも影響が大きいのです。


 小さなゴミやホコリのほか、指紋や細かい傷にも弱いと言えます。そこでBlu-ray Discの規格では、カートリッジタイプのメディアも用意されています(当初のBD-RE Ver.1の規格ではカートリッジを必須としていましたが、BD-RE Ver.2でベアディスクでの使用にも対応することになりました)。

 次にBlu-ray Discの密閉型カートリッジを示します。

 保管時は裏面のシャッターが閉じてディスク表面への指先のタッチやホコリの侵入を防ぎます。光学ドライブにセットしたときは、シャッターが開いてディスクを読み書きすることが可能となります。日立マクセルの繰り返し録画用カートリッジ製品は、カートリッジを格納するケースも付属していて、これで保管すればゴミ問題への対策は万全と言えるでしょう。

 なお、ディスクの記録面だけをカバーする、半解放型のカートリッジもあります。


  1.Blu-ray Disc密閉型カートリッジ(上面)

  2.カートリッジをケースに収納したところ

  3.カートリッジ裏面。通常はこのようにシャッターが閉じています

  4.シャッターを開けた様子。内蔵されたディスクの記録面とセンターホールが見えます

 カートリッジに対応しないドライブやビデオレコーダーも多く、その場合は一般的なベアタイプ(むき出し)のBlu-ray Discメディアを使うことになります。また、カートリッジ型は高いし置き場所も取るため使いたくないという人も多いでしょう。

 そこで、Blu-ray Discのメディアの表面に次のような3つの機能を持ったハードコート層を形成することで、ゴミ、指紋、傷への耐性を持たせています。

1.耐擦傷性

 ディスクの材質であるポリカーボネートは、透明度が高いのが特徴ですが、耐擦傷性はあまり高くなく、傷付きやすいのです。ディスクの表面に、ごく薄いハードコート層を形成することで、耐擦傷性を100倍以上に高めることができるそうです。

 ものは試しと、ハードコートなしのDVDディスクと、ハードコートありのBlu-ray Discの表面を真鍮ブラシで軽く擦ってみました。結果は、下の写真の通り。ハードコートがないディスクには、いとも簡単にキズがついてしまいましたが、ハードコートありのディスクには、ほとんど傷が付きませんでした。実際にはわずかな擦り傷があるのですが、目を凝らして探さないと見えない程度の傷でしかありません。これには驚きました。


2.撥油性

 指紋は、指先の油脂が付着したものです。ディスク表面に油分をはじく処理を施すと、油脂が小さな球状に分散して、レーザービームへの影響が少なくなります。また、拭き取りも容易になります。次の画像はディスク表面の顕微鏡写真です(日立マクセル提供)。


3.帯電防止

 ポリカーボネートは電気を通さないため、静電気を溜めやすく、チリやホコリを吸着してしまいます。静電気を逃がしやすい帯電防止コートを施すことで、ディスク表面のチリ、ホコリの数を減らすことができます。

 DVDやHD DVDのメディアも、製品によってはハードコート層を持たせているものがあります。TDKのDVDメディア「超硬」シリーズが有名です。

HD DVDとBlu-ray Disc製造の難しさ

 従来のDVD-R/RWのトラック(グルーブ)ピッチは0.74マイクロメートル。これに対してHD DVD-R/RWは0.4マイクロメートル、BD-R/REは0.32マイクロメートルと狭くなっています。どのメディアもグルーブの高さは25ナノメートル〜35ナノメートルくらいでほぼ一定です。トラックの拡大イメージを次に示します。


 DVD-R/RWやBD-R/REの製造は、まずスタンパーと呼ばれる型を作ることから始まります。スタンパーは直径12センチメートルの金属板で、その表面に上図のような形の溝が形成されています。

 スタンパーを射出成形機にセットして、溶けたポリカーボネートを注入し、冷却すると、直径12センチメートルのディスク基板ができあがります。この基板の表面には、スタンパーの溝が写し取られるわけですが、これがメディアのグルーブになります。


 高品質なメディアを作るためには、スタンパーの溝が高精度に作られていることが第一です。また、ディスクの成形が高精度で行われること、ディスクの厚みが一定で、特に歪みが少ないことも重要です。HD DVD-R/RWとBD-R/REの基板成形は、トラックピッチが狭くなっている分、従来のDVDよりも高い精度が要求されます。

 基板ができたら、その表面に誘電体層や記録層、反射層を積み重ねて形成します。

 HD DVDの場合は、記録層を形成した厚さ0.6ミリメートルのディスク基板に、同じく0.6ミリメートルのダミー基板を張り合わせて厚さ1.2ミリメートルの製品とします。この張り合わせ行程はDVDの時代から品質に影響する大きなポイントと言われてきました。

 BD-R/REの場合は、厚さ1.1ミリメートルのディスク基板の表面に記録層を形成します。そして、その上に0.1ミリメートルという薄いカバー層を形成するのですが、ここが難しいポイントなのです。カバー層の作り方には2種類あります。厚さ0.1ミリメートルの薄いディスクを作り、これを重ねて接着する方法と、1.1ミリメートルの基板を高速回転させ、中心部に紫外線硬化樹脂を垂らして、遠心力で全体に薄く行き渡らせて硬化させるスピンコート法です。スピンコート法の方が低コストですが、中心部から外周部まで一定の厚さを保つのが難しいと言われてきました。外周部が厚くなりやすかったのです。しかし各メーカーはスピンコート法で全面均一な厚さのカバー層を作る技術を確立しています。その精度は、ディスク全面で±1マイクロメートルだそうです。現在、ほとんどのBD-R/REメディアのカバー層は、スピンコート法で作られています。


 次回は、HD DVDとBlu-ray Discメディアの製造工程を詳しく紹介する予定です。

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