アキバの将来像を探るなら、実際にそこで暮らす人の意見は欠かせない。また、街の健全化や活性化をめざして取り組む活動家のビジョンも知りたい。そして、秋葉原に地盤を持つ政治家の考えにも触れておくべきだろう。今回インタビューした小林たかや氏は、これら3者の立場を一人で満たす人物だ。
小林たかや氏は生まれも育ちも秋葉原、千代田区議会議員(無所属)として5期目を迎えた。アキバに貼られた小林たかや氏のポスターを目にした人もいるだろう。また、同氏が発行責任者と監修を務めるフリーペーパー「あきば通」を手に取ったことがある人も多いかもしれない。公私ともに関わり続ける秋葉原の街について、同氏に率直な考えを語ってもらった。
前回のとおり、千代田区は非営利型株式会社のタウンマネジメント組織「秋葉原TMO」を設立し、開発が完了した街を運営する環境を整えようとしている。この取り組みはアキバにどのような影響をもたらすのだろうか。
――秋葉原TMOがまもなく設立される見込みですが、この組織に期待するところを教えてください。
小林氏 街の中を管理された社会にするには、とてもよい組織だと思います。ただ、管理は一歩間違えると監視になってしまう。秋葉原のような雑多な街は、管理されなくちゃいけない場所と、自由にやっていい場所に分かれてくるんです。そこを秋葉原TMOがいかに上手くマネジメントするか。
仮にこれを国や都や区、警察がやるとなると、街全体が監視社会ってなってしまう恐れがあります。それを楽しい街として、監視・管理・自由をバランスよくできるのが、この秋葉原TMOになるはずなんです。そういう意味では期待していますね。
ただ、行政組織というのは基本的に街を活性化することは不得意なんですよ。特に、初めての挑戦は苦手。秋葉原TMOは街をよくする色々な可能性を秘めているけど、現状では非常に中途半端なことになってしまう。それでも、ときに間違いながら、不十分ながらやっていくんだと思う。
――具体的には、現状でどのような問題がありますか?
小林氏 まず、TMOの名称と組織と分かりにくさ。次に区域が不十分だということ。例えば、PCパーツショップ密集地が対象エリア外になっている。本(※1)にも書いたんだけど、いまの秋葉原は3層構造になっているんです。既存の電気街と、駅前の再開発地区、そしてヨドバシカメラの3エリア。この各エリアでうまく交流を作らないといけないのに、秋葉原TMOの対象エリアの境界で、人の流れが区切られてしまっている。
再開発エリアは何もない空き地にビルや駅を作ったんだから、当然人が集まる。そこで買い物したい一般の人は、ヨドバシカメラに流れていく。ほかの地域へのおこぼれはあるものの、基本的にはこの流れができただけ。結局いまのままでは、既存の電気街に集まるのは元からアキバに通う人たちが主なんです。この流れを変えないといけないのに。
――どうすれば変わりますか?
小林氏 ヨドバシカメラをタウンマネジメントに積極的に参加させることですね。スタンプラリーでもいいんですが、既存の電気街のキャンペーンに加わってもらうだけで、人の流れは大きく変わる。ただ、ヨドバシカメラほどの巨大な量販店を動かすほどの影響力は、いまの秋葉原TMOに期待するのは難しいかも。
もしぼくが(秋葉原TMOの)運営を任されたなら、資金の調達より先に人事に注力します。業界の巨人と付き合える人をトップに持ってくる。あとは、参謀にタウンマネージャーではなく、タウンコーディネイター(つまり採算がとれる人)を置きますね。
――そうなることを期待しますか?
小林氏 なかなか難しいでしょう。秋葉原TMOの意義は、やはり広報と管理。街を分かりやすくきれいにする。安心安全を確立して秋葉原の風俗街化を防ぐといった、治安を維持する方向だと思います。
しっかり機能するまでには時間がかかるでしょうが、まずは落書きの除去や違法駐車を取り締まり、案内看板の設置とか、そのレベルから。次に広報、広告です。多くの人が集まるので広告発信は、魅力はありますけれど。
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