2006年にPCの出荷台数で1位の座を陥落して以降、デルはアクティブに組織改編を行って体制の立て直しを図っている。2007年1月には創業者であり会長職を勤めていたマイケル・デル氏がCEOに復帰し、「Dell 2.0」という成長戦略のもと、ワールドワイドでブランドや製品の見直しを実施した。ここ日本でも、2008年度の成長戦略である「Dell 2.0 Japan」をスタートさせ、6月にはコンシューマー向けPCブランドをInspiron/XPSシリーズに統合しただけでなく、7月には新ブランドの「Vostro」を立ち上げた。
Vostroの過去・現在・未来を、デル クライアント製品マーケティング本部 本部長 中島耕一郎氏に聞いた。
このVostroシリーズは、同社がSMB(Small Medium Business)と規定する社員規模で1〜400名程度の個人事業主や中小企業のユーザーをターゲットにした新ブランドだ。以前のデルは、コンシューマーをInspiron/Dimensionシリーズ、エンタープライズ/大企業向けにLatitude/OptiPlex/Precisionシリーズというブランドを展開しており、これらの製品で中小企業にも対応していた。
中島 実際、ビジネス向けでもInspironやDimensionは多数販売されていました。それは必ずしも値段だけで判断されていたわけではなく、お客さまのニーズが確実にあったわけです。
ただ、製品を売る側としては、どうしてももどかしさを感じていたのも事実です。例えば、Inspiron/DimensionシリーズにあったTVチューナー機能やお試し版のソフトウェアなどはビジネスシーンに明らかに不要です。同様にコンシューマー向けのキャンペーンしか打ち出せていませんでした。社内的なトレーニングにしても、従来はInspironやDimension、LatitudeやOptiPlexそれぞれの商品知識がすべて必要となり、どうしても広く浅い知識になりがちでした。
しかしVostroの登場とともに、コンシューマー向けをInspironに統一してターゲットを明確にしたことにより、これまで法人に売られていたInspironとDimensionがすべてVostroに置き換わるメリットは非常に大きいです。まず何よりも、Vostroによってお客さまにピンポイントに訴求できるようになったのが最大のポイントです。
新InspironシリーズのOSはWindows Vistaのみの提供となるのに対し、VostroはVistaもWindows XPも選べるモデルがほとんどです。ビジネスには不要なTVチューナーカードもありませんし、手ごろなサービスメニューが充実しているのもVostroシリーズならではと言えるでしょう。さきほどの社内向けトレーニングにしても、中小企業向けはVostroを中心にLatitudeやOptiPlexをカバーしておけば、十分にお客さまに対応が可能です。
意外だったのは、中小企業よりも規模の大きい弊社の営業部隊からも「Vostroを売りたい」という声が上がってきたことです。以前のInspironやDimensionシリーズはどうしてもコンシューマー向けというイメージが強かったのに対し、Vostroシリーズは漠然としたイメージではなく、お客さまも弊社内でも具体的にイメージしやすいからこそ、出てきた声だと思います。
――日本市場での具体的なターゲット層を教えてください。
中島 Vostroがターゲットとしているのは、1〜400人程度の企業規模なのですが、イメージとしては5〜10人、20人という単位の企業や部署がVostroのメリットを最も享受できるのではないかと考えています。
国内の中小企業は社内に専任IT管理者がおらず、総務部長が兼任しているというケースが多々あると思います。PCを購入する際も、現状はお買い求めになったディーラーに依存しており、一部の例外を除いて、製品保証とくに延長保証をつけていない場合が多いのではないでしょうか。日本では厳しいビジネス環境が10年近く続いたので、設備投資はできる限り抑える(これはワランティを含めて)ことが求められていたと思います。
もちろん、このような流れは非常に理解できるのですが、実際のところ同じようなPCを買うとしても、IT管理者がいてしっかりと保守契約を結んでいる場合と、ディーラーに依存している場合では結果として大きな差が生まれてしまいます。Vostroは、このようなギャップを埋めるための製品であり、ソリューションであると位置づけています。また、デルの強みは直販にありますので、Vostroについても、サービスを含めてオンラインでわかりやすいということを目指して企画しました。
一例を挙げると、過去の弊社のサービス――我々はアラカルトと呼んでいますが、細かい保証内容をイージーオーダーに近い形で選ぶことができました。ただ、1つ1つの保証内容についてイメージをできる人はどうしても限られてしまいます。大企業のIT管理者であれば、必要な保証やサービスをある程度想定可能ですが、中小の企業さんですと過去にHDDが壊れたり、PCが起動しなくなったりして困ってしまったというイメージは持っているのですが、それを解消・解決するためのサービスやサポートメニューまで具体的に結びつけられないケースが散見されます。また、PCというジャンルについては単価が高く延長保証とかは敬遠されがちでした。
それに対してVostroは、サービス内容もわかりやすくパッケージ化しています。具体的には「ビジネスケア」「ビジネスケア プラス」「ビジネスケア プレミアム」と3種類に分けて、サービスとサポート内容を明確化して選びやすくしています。ある程度PCの使用経験があるかたを想定して、それに適したサービスやサポートをオンラインで選べるのがVostroを訴求していく上でのキーポイントであると思っています。
中島 マイケル・デルがアメリカでのVostroローンチのイベントで述べ、弊社のスローガンにもなっている言葉が「ITをシンプルにする」というものがあります。この言葉はいろいろな意味で大事だと思っていて、Vostroもその1つだと考えています。つまり、ユーザーの要求レベル、知識レベルによって、それぞれのレベルで「ITをシンプルにする」があるはずだという発想です。
例えば、Latitudeはクライアントの管理が非常に楽で頑丈ですし、製品のライフサイクルも長く、まさに大企業向けの製品と言えます。その点、Vostroではそのようなところにコストをかけるのであれば、価格をより安くしたほうがいいし、サービスやサポート面を充実したほうが中小企業のかたがたに適していると思います。
――現状、想定しているライバルとかはいますか?
中島 特にありませんね。もちろん、生意気なことを言っているのではなく(笑)、Vostroのような切り口を明確にしている例はあまり見あたらないという意味です。
これまでも機種やモデルとしてはいくつかありましたが、まるまる1つのブランドを展開する点では、業界に先駆けて我々が実験的な試みをやっているという認識です。
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