“ThinkPad”を生かしつつ“Lenovo”を主力ブランドに──レノボ副社長兼CMOが語るThinkPadは“サブ”に(1/2 ページ)

» 2007年08月29日 11時11分 公開
[富永ジュン,ITmedia]

ThinkPadをLenovoのサブブランドに

 2004年に行われたIBM PC部門の買収にあたり、Lenovoは世界市場で圧倒的な知名度を誇る「ThinkPad」ブランドを手に入れた。それと同時にThinkPadブランドを利用した、世界市場における“Lenovoブランド”の普及が進められている。

Lenovo 副社長兼最高マーケティング責任者のディーパック・アドヴァーニ(Deepak Advani)氏

 同社副社長兼CMO(最高マーケティング責任者)であるディーパック・アドヴァーニ(Deepak Advani)氏によると、Lenovoブランドのプロモーションは、次の3つのフェーズで行われている。2年半前にスタートした最初のフェーズでは、LenovoがIBMのPC部門を買収するにあたってThinkPadブランドを冠する製品は変わらないということをユーザーにアピールした。具体的にはThinkPadシリーズを継続したほか、IBMロゴやThinkPadロゴをそのまま使用するなどブランドイメージが変わらないよう細心の注意が払われた。

 1年ほど前に開始された次のフェーズでは、Lenovoブランドの知名度を高めてThinkPadは「Lenovoという企業が発売しているThinkPadという名前の製品」という認識を広めることにより、ThinkPadをLenovoという主力ブランドの下にあるサブブランドへと位置付けた。つまり、現在語られることが多い「ThinkPadのレノボ」という、ThinkPadのブランド力がレノボのブランド力を形容するという認識ではなく、「レノボのThinkPad」という、Lenovoブランドの1つとしてThinkPadブランドが存在するという認識を一般ユーザーにまで広めたのだ。そして最終フェーズの今、Lenovoのブランド力を高め、主力ブランドとしてより一層浸透させることを目標としている。

 このブランド戦略を採用した理由を「たしかにThinkPadは優れたブランドだが、主力ブランドとしてThinkPadに依存し続けることは多くのコストと労力が要求されるし、1つの企業がLenovoとThinkPadという2つのブランドに力を分散させてしまう事態は好ましくない」とアドヴァーニ氏は説明する。最終的には、現在5つ存在するLenovoの主力ブランドを、すべてLenovoブランドのサブブランドとして再構築することも明らかにされた。

スポーツをフックにブランドイメージの引き上げを狙う

 では、Lenovoブランドの認知度を上げるためにいったいどのようなマーケティング活動が行われているのだろうか。Lenovoのマーケティング活動の方向性は、2004年に参加した国際オリンピック委員会のパートナー・プログラムにも強く表れている。アドヴァーニ氏によると、オリンピックのパートナー・プログラムへの参加は世界市場におけるブランド構築に大きな役割を果たしているという。

 Lenovoがひねり出せる広告宣伝費は、ライバルのHPやDellほど大きくないため、純粋に広告のみを利用した宣伝だけではどうしても水をあけられてしまう。しかし、オリンピックではハードウェアを提供することにより、同じ額の広告を出すよりも大きな露出と宣伝効果が期待できるというのだ。同様のことがF1NBAといったスポーツのスポンサーになる場合にもあてはまる。

2006年にグローバル・パートナーシップの締結したNBA(写真=左)と2007年にトップ・スポンサー契約を結んだF1チームのAT&Tウィリアムズ(写真=右)

 2007年にLenovoは英国のF1チーム「AT&Tウィリアムズ」のトップスポンサー契約を締結した。F1をサポートすることについて、アドヴァーニ氏は「F1は欧米諸国や中国、日本のほかにブラジルやオーストラリア、カナダといった全世界のマーケットで話題になり、各レースごとに2億人以上の視聴者がいるため高い宣伝効果があります。さらに、F1は高度な技術力を競い合うスポーツで、Lenovoも最先端の技術を持っているというブランドイメージを育てるのに役立つでしょう」と述べる。また「LenovoがスポンサーとなったAT&Tウィリアムズはイギリスのチームながらもアメリカの企業であるAT&Tをチーム名に冠し、日本企業であるトヨタのエンジンを採用し、ドイツ人や日本人、オーストラリア人、インド人のドライバーが所属するなど大変多彩な文化が混じり合い、グローバルなイメージがあります」と語った。

 具体的には、LenovoのPCがレース運営やパーツ管理に至るまでチーム全体で使われる。加えて車体後部や側面にLenovoのロゴを配置したほか、レーシングコースの壁にLenovoのロゴが表示され、頻繁にTV中継などで映し出されている。これらの露出は単純に広告を出すよりも大きな効果があるという。

 さらにF1を介したマーケティング活動として、ヒースロー(イギリス)、アムステルダム(オランダ)、フランクフルト(ドイツ)、ドバイ(アラブ首長国連邦)の空港でF1カーのディスプレイを行ったり、AT&Tウィリアムズのパドッククラブのホスティングや、F1カーの空力解析にスーパーコンピューターの提供を行っている。

Lenovo Statのロゴ

 米国においては、NBA(全米バスケットボール協会)のスポンサーとなることが大きな成果を挙げている。Lenovoがスポーツチームのスポンサーとなるときには、どの程度の宣伝効果が見込めるかという点に加え、チームに対してLenovoが何ができるのかということが考慮される。

 「F1においてはAT&Tウィリアムズにコンピュータ面での技術で貢献できたが、NBAでは中国国内の約6000ものLenovoストアとNBAをタイアップさせて、中国国内のNBAファンを増やすことに貢献できた」とアドヴァーニ氏は言う。

 また、NBAの各試合の統計を分析するのにLenovoのPCが使われるだけでなく、「Lenovo Stat」(レノボ・スタット)と呼ばれる独自のチームワーク統計解析技術を提供することにより、試合前に相手チームの状況をチェックするのに活用されたり、試合後すぐに最も活躍したプレーヤーの組み合わせを数値的にはじき出すのに役立っているという。さらに、引退後に解説者になったNBAプレイヤーがテレビなどでLenovo Statについて語ることによって、Lenovoとはどのような企業なのか全世界に宣伝できるとしている。なお、日本ではヤクルトスワローズと2007年シーズンのスポンサーシップの契約を結んでいる。

 Lenovoがこのような間接的な宣伝手法をとる理由は、人々は広告で宣伝される事柄に対して懐疑的になっているため、いくら通常の広告を出しても満足がいく効果が得られない現状を挙げる。それに対し、スポーツのように人々が興味を持っているものに関連する事柄は驚くほど素直に受け入れられることが多いからだという。


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