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» 2007年12月13日 09時30分 公開

元麻布春男のWatchTower:Centrino生誕の地、イスラエルのFabに行く(後編)

イスラエルのインテル拠点を巡礼する元麻布氏。前回訪れた「Haifa Validation Center」を後にして、今回は45ナノプロセスの製造拠点に向かう。

[元麻布春男,ITmedia]
キリヤットガットにあるインテルの製造施設を示したイラスト(航空写真にFab 28の完成予想図を加えたもの)

 現在、イスラエル国内には、エルサレムとキリヤットガットの2カ所にFab(半導体前工程の工場)がある。前回も述べたように、エルサレムのFab 8は、最先端のプロセスを必要としないレガシーなマイクロコントローラ関連製品に特化している。一方、キリヤットガットは200ミリウエハの工場であるFab 18に加え、300ミリウエハによる最新の45ナノメートルプロセスルールの工場となるFab 28が建設中だ。

 すでに稼働しているFab 18は、現在200ミリウエハの90ナノメートルプロセスルールで、NOR型のフラッシュメモリを量産している。工場として完成したのは1999年で、0.18ミクロン(180ナノメートル)プロセスによるCPUの量産でスタートした。当初はフラッシュメモリの工場として計画されたものの、当時NOR型フラッシュメモリの市況が悪く、立ち上げ時の生産品目をCPUに変更するというウルトラCが行われた。

 しかし、だからといってFab 18で生産されたCPUが、ほかの工場より見劣りしていたわけではない。当時インテルとAMDは、1GHzで動作するCPUの一番乗りを目指して激しく競い合っていたが、インテルで最初に1GHz動作するPentium III(開発コード名はCoppermine)の製造に成功したのは、このFab 18だったという。

Fab 28にガスや純水を供給するユーティリティビルディング(奥にあるパイプラインが見える建物)
Fab 18の事務棟から見たFab 18の生産棟。中庭は職員の憩いの場となっている

 その後インテルは価格競争力向上のため、0.13ミクロンプロセス世代の半ばからCPU工場の全面的な300ミリウエハ化を断行する。これにともない、200ミリウェファを用いるFab 18の生産品目は、CPUからチップセットへとシフトしていった。さらに、2005年にはFab 18は当初の計画通り、NOR型フラッシュメモリの工場へと転換されることになる。

 この転換は、180ナノプロセスから、130ナノを飛び越して90ナノプロセスへと、2世代分の更新を行うものであると同時に、アルミニウム配線技術から銅配線技術への転換をともなうもので、Fab 18にとってちょっとしたチャレンジだったという。現在は、90ナノプロセスによるNOR型フラッシュに続き、65ナノプロセスによるNOR型フラッシュの量産もスタート、2008年後半には45ナノプロセスの導入も視野に入れている。

 2007年になって、インテルはNOR型フラッシュメモリ事業を、ST Microelectronics、Francisco Partnersと3社共同で設立するフラッシュメモリ専業会社であるNumonyxへ移管すると発表した。これにともない、Fab 18も新会社へ移管されることとなり、年内にもその手続きは完了する見込みだ。生産品目の変遷も含め、数奇な運命をたどったFabと言えるかもしれない。

 このFab 18に隣接した土地に現在建設中なのがFab 28だ。200ミリウエハのFab 18と異なり、300ミリウエハを用いるFab 28の施設は巨大で、Fab 18の実に2倍近い威容を誇る。総クリーンルーム面積は、Fab 18の9755平方メートルに対し、Fab 28は1万8600平方メートルと発表されており、インテルでも最大規模の量産工場となる。このFab 28に対する投資額は2009年末までに35億ドルに上るとみられているが、これは民間企業によるイスラエル国内への投資額としては最大規模であるという。

 また、雇用者の数も単一の民間企業としてはイスラエル最大で、2008年にもFab 28の要員を含め、1000人を雇用する計画だ。ユニークなのは、この1000人のうち半数が学生で占められる予定であること。前回のハイファ編でも紹介したように、週末などの工場運営にたずさわる。インターンとして学生を採用する例は日本でも見られるが、このような最新鋭工場の運営にまでかかわるというのは、あまり例がないのではないだろうか。

Fab 18の事務棟から見た建設中のFab 28
Fab 28では、今も作業が続く

 Fab 28はHigh-k/メタルゲートを用いた45ナノプロセスに対応する工場として、2008年末からCPUの量産を開始する見込みだ。すでに一部の製造装置の搬入が始まっているが、完了するのは2008年の半ばになるという。取材した2007年11月末の時点でFab 28はクレーンを使った生産機械の搬入作業が続けられていた。筆者は、隣接するFab 18の事務棟から建設中のFab 28を見学したが、インテルの言うとおり、Fab 28の大きさはFab 18とは比べものにならなかった。

 インテルは、2007年11月に稼働を開始した米国アリゾナ州のFab 32(オコティロ)、イスラエルのFab 28に加え、米国ニューメキシコ州のFab 11X(リオランチョ)を45ナノプロセスに転換することで計3カ所用意する計画だ(開発工場であるオレゴン州のD1Dを加えると総計4カ所)。65ナノプロセスの量産工場がアリゾナ州のFab 12とアイルランドのレイクスリップのFab 24の2カ所だったのに比べて1カ所増強されることになる。すでにインテルは組み込み向けの低消費電力CPU(開発コード名“Silverthorne”で知られている)で、65ナノプロセスをスキップして、45ナノプロセスを用いる計画を明らかにしている。3カ所の量産工場は、こうした需要を反映したものであると同時に、High-k/メタルゲートの45ナノプロセスに込められた同社の自信が具現化したものととらえることができる。

 イスラエルというと、どうしても気になるのがテロも含めた治安の問題だ。治安の悪いところに最新鋭の工場を建てるわけがないと思いつつも、イスラエル軍が威信をかけて警備をしているのではないか、工場に入るまでに何重もの厳重な検問があるのではないかと思っていた。

 しかし、筆者が訪れたキリヤットガットの工場は、砂漠の中の工業団地という風情で、周囲にはヒューレット・パッカードの看板を掲げた建物も見られた。砂漠の中の工業団地ということで、不審者が隠れるのも難しい、ということはあるのかもしれないが、予想したような厳重な警備はなかった。確かにテルアビブ近郊からキリヤットガットに向かって南下していくと、兵士の姿が目につくようになるが、それも、警戒行動中というよりは、部隊の移動途上という印象であった。

 イスラエル最大の都市であるテルアビブ市内は、いたって平穏で、いたるところにあるオープンカフェで、ゆっくりとコーヒーやお茶を楽しむ市民の姿が多く見られる。乳児や妊婦の姿も多く見かけた。旅行者の目から見る限り、治安は悪くない印象だ。

 ただし、空港での入国や出国時の検査がほかの国と比べて著しく厳しいこと、ショッピングモールやバザールなど不特定多数が集まるところでは必ず入り口に金属探知機を持った警備員がいるところが、この国の置かれた状況を示しているようだった。

テルアビブ市内はオープンカフェが軒を連ねる静かな街だ
テルアビブ市内のショッピングモールで見かけたその名も「OTAKU」というジャパニメーションショップ。NARUTOやBleachなどジャンプ系キャラクターが人気のようだ

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