最後にこれまでの検証を踏まえて、複合機の2007年モデルをハイエンドクラスとミドルレンジクラスに分けて総括する。第4回で検証した通り、もはやハイエンドとミドルレンジで画質の大きな差はなく、今回の前半で紹介したように印刷速度ではハイエンドとミドルレンジで一部逆転現象が見られるほどだ。各社が売れ筋のミドルレンジモデルにいかに注力しているかが分かる。第2回で取り上げた機能面や、第3回で比較したソフトウェア面の違いで、ハイエンドかミドルレンジかを選ぶことになるだろう。
まずハイエンドに属するのは、エプソンのPM-T960、キヤノンのMP970、日本HPのC8180だ。フィルムスキャンが必要ならば、この3機種から選ぶことになる。写真印刷の画質はPM-T960とMP970が甲乙付けがたく、自動補正の精度や付属ソフトウェアの使い勝手を含めるとC8180が少々不利だ。PM-T960とMP970の画質はもはや好みの域といえる。細かく見れば、PM-T960は写真印刷の自動補正が適正に作用することが多く、手動で自動補正の選択肢(人物や風景など)を選べるのが役立つ。MP970は華やかさのある自動補正と、顔料Bkインクの装備で普通紙への文字印刷に強いのが魅力といえる。
本体の操作性は三者三様だ。MP970はホイール型ユーザーインタフェース、C8180はタッチパネル式液晶パネルを採用することで、PCやデジタル家電に強くない家族全員で楽しく扱えるように配慮している。とりわけタッチパネル式液晶パネルは、本体のボタン数を減らしつつ、操作系を簡略化できる効果があり、直感的に各種操作が行えた(メニュー構造が一部こなれていないのは惜しいが)。タッチパネルは複合機に限らず、PCやデジタル家電で1つのキーワードとなっているため、今後は他社も含めて採用例が広がっていくかもしれない。
PM-T960の操作パネルは左から右へ向かってボタンを押していくスタンダードな構成でおもしろみは少ないが、今回の検証のように一定期間使い込んでみると、目的の機能に即座にアクセスできて快適に使えたことを報告しておく。また、PM-T960とC8180はダイレクト印刷中に、次回の印刷予約が行える点は重宝する。
機能面では、インタフェースの構成、用紙のハンドリング、PCなしで使えるスタンドアロン機能をよく考えたい。インタフェースはネットワーク対応がポイントで、PM-T960とC8180は100BASE-TXの有線LAN、IEEE802.11g/bの無線LANを標準で搭載しており、C8180はBluetoothも備えている。PM-T960は簡単に無線LANのセットアップが行えるように、AOSSとWPSに対応しているのはありがたい。一方のMP970は100BASE-TXの有線LANのみだ。携帯電話との連携に便利な赤外線通信機能は、PM-T960(IrDA 1.3)とMP970(IrDA 1.2)が用意している。
用紙のハンドリングはPM-T960とMP970がほぼ同等で、前面と背面の2系統給紙、自動両面印刷に標準対応している。C8180も前面の2系統給紙機構を備えるが、L判用紙などを給紙するフォトトレイの容量が少なく、価格上昇を防ぐためか自動両面印刷ユニットはオプション扱いだ。これまで日本HPは2系統給紙や自動両面印刷といった機能を率先して搭載してきた実績があるが、ここへ来てキヤノンやエプソンがそれに追いつき、追い越していこうとしている感がある。
スタンドアロン機能では、やはりPM-T960とMP970に一日の長がある。コピーのレイアウト機能が豊富だったり、手書き合成印刷やネットワーク経由のTVプリントが行えるなど、いわゆるアミューズメント系の機能が充実している。その最たるものが、PM-T960に搭載された小顔+美白補正のナチュラルフェイス機能で、エプソンはプリンタへの関心が高くない一般層の取り込みに積極的だ。
機能面で忘れてはならないのがC8180に標準搭載されたLightScribe対応のDVDスーパーマルチドライブだが、ユーザーにとっては手放しでよろこべない仕様かもしれない。PCいらずでメモリカード内の画像をCD/DVDメディアに保存できたり、C8180のDVDスーパーマルチドライブをPCから共有できるのは便利だが、PM-T960やMP970と異なり、CD/DVDレーベルへのカラーインクジェット印刷ができないのは少々不便だ。
以上を踏まえてハイエンドクラスの3モデルから1台を選ぶとすれば、今回はエプソンのPM-T960を挙げたい。無線LANへの標準対応に加えて、印刷速度の向上、ナチュラルフェイスも含めた自動補正機能、豊富なアミューズメント機能など、全方位的に大きな弱点が見あたらず、トータルバランスの高さが目立つ。
画質、機能、使い勝手ではMP970も同レベルにあり、未使用時の収まりがよい洗練されたスクエア型ボディや、顔料Bkインクによる普通紙モノクロ印刷の高品質、強化された付属ソフトウェア群は好印象だ。特に無線LANのインタフェースが不要なユーザーであれば、MP970も満足度が高い1台といえる。
C8180は有線/無線LAN、Bluetoothに標準対応しているが、用紙のハンドリングや機能面、価格などを総合的に考えると、万人向けではない。ただし、タッチパネル式液晶パネルと、インクの無駄使いを極力抑えるSPTプリントエンジン、光学解像度9600dpiの6色光源スキャナ、DVDスーパーマルチドライブといった差異化技術も満載で、好みに合致すれば最良の選択肢になり得る。
続いて、ミドルレンジクラスの複合機を総括する。
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