以前、台湾製のNASキットとして「QNAP」を紹介したが、海外製品の多機能ぶりはN4100PROでも同様だ。NAS機能としてはSMB、AFP、NFSをサポートしており、Windows、Mac、UNIXで利用できる。WindowsではActiveDirectoryに対応しており、CSVファイルによるユーザーの一括登録も可能と、業務向けの機能も実装されている。
その一方で、DLNAに対応したメディアサーバ、フォトサーバ、iTunesサーバ、ダウンロードマネージャなどホームサーバとしての機能も備えている。N4100PROの特徴的な機能としては、ISOマウント機能が挙げられるだろう。これはDVDやCD、Blu-rayなどをリッピングしたISOイメージファイルをマウントすると、展開された形でネットワーク共有できるというものだ(元のISOファイルも同時に見える)。
例えば、ISOイメージで配布されているアプリケーションは、これをユーザー側でDVD-RやCD-Rに焼いて利用するが、ISOマウント機能を使えばメディアに焼くことなく、インストールなどが可能になる(同様のことは「DaemonTools」や「Alchol52%」といったフリーの仮想ドライブソフトウェアで実現できるが)。ネットワークに対応しているがISOフォーマットには対応していないネットワークメディアプレーヤーなどを使っているユーザーにとっては利用価値があるかもしれない。
一方、海外製NASキットの常として、インタフェースの日本語がやや怪しいのはご愛敬だ。「ディスク力管理(正しくはディスク電力管理)」などはほほえましくもあるが、そもそものインタフェースがこなれていないと感じるところもある。例えば、LANにDHCPクライアントの設定がないのもその1つ。DHCPを使用するかどうかはセットアップウィザードで行うようになっており、ブラウザの設定画面では行えないのだが、問題はブラウザ上では固定IPアドレスが振られているようにしか見えないところだ。せめてDHCPが選択されているかどうかを表示する必要はあったのではないだろうか。
今回のベンチマークには「Intel NAS Performance Kit」(以下、NASPT)を使用した。NASPTは現実のシナリオに即したネットワークトラフィックをエミュレートするツールで、トレースと呼ばれるシナリオ次第でさまざまなアプリケーションレベルのパフォーマンスを測ることができる。今回はN4100PROの利用シーンとして想定されやすいものとして以下の11種(HD Video Playback/HD Video Record/HD Playback and Record/Content Creation/Office Productivity/Backup/Restore/File copy to NAS/File copy from NAS/Dir copy to NAS/Dir copy from NAS)のトレースを選択した。
それぞれのトレースの統計的な詳細については以下にまとめた表を参考にしてほしい。なお、平均スループットのみ、参考としてRAID 5構築中の計測結果を追加している。クライアントPCには、Phenom 9500(2.2GHz)、780G+Radeon HD 3450(CrossFire有効)、4Gバイトメモリ、オンボードLAN(JumboFrame 9KB)、Windows XP Professional Edition(SP3)を使用した。N4100PROには1TバイトHDD(HDS72101 GKAO)を4基搭載している。
一般的なファイル操作として、ファイルコピー、フォルダコピーそれぞれを双方向でテストした。読み込みではファイルコピーでは意外にもJBODのパフォーマンスが良くないほかは、ほぼ横並びという結果。RAID 0がわずかに高速だが、冗長化を犠牲にするほどの差ではなさそうだ。一方、書き込みはほぼ理論通りの結果だ。パリティ計算が必要なRAID 5/6がほかの方式に比べて25%ほど遅くなっている。
ファイルサイズの大きい動画の保存場所としてNASを使用するケースは多いと思われる。そこで、動画の再生、録画、録画しながら再生、動画編集を含む、動画コンテンツ制作の4つをテストした。
動画再生に関してはNASからのファイルコピーと同様の結果を示している。処理自体がほぼ同じなので納得できる結果だ。動画録画もNASへのファイルコピーと同様。録画中再生はNASからのファイルコピーとNASへのファイルコピーを同時に行う場合と同等となるが、互いの影響がどう出るかがポイントだ。こちらは動画録画に近い結果ではあるが、RAID 0の伸びが大きい。JBODは動画録画よりもパフォーマンスが低下している。
動画編集では全転送量の約92.2%が読み込みであり、平均転送量は読み込みが約1Kバイト、書き込みが約12Kバイト、トランザクション数が読み込み9225回に対して書き込みが1万1610回というシナリオだ。つまり、比較的小さな単位でのアクセスが頻繁に発生し、シーケンシャルアクセス率は38.60%にとどまる。内容的には録画中再生に近いため、各RAID間の相対的なスコアは似ているが、平均転送量が小さいためか、パフォーマンスは半分程度にまで落ちている。
事務処理のテストは、Excelなどの表計算やテキストファイルの作成などを想定した内容で、読み込み量、書き込み量がほぼ同じ、平均転送量は約2Kバイト、非常に多いトランザクション数となっている。
結果は動画編集に近い内容となった。RAID 6ではほかのテストでも書き込み用のファイルオープンに非常に時間がかかるケースが見られ、これに引きずられる形でパフォーマンスを落としているようだ。
このテストは、大容量NASをクライアントPCのバックアップ用に使うケースを想定している。バックアップは大容量ファイルをNAS上に1つ作成し、バックアップ復元は大容量ファイルをNASから1つコピーするため、結果的にはそれぞれ動画録画、動画再生に近いテストになる。しかし、トランザクション数に違いがあり、バックアップは録画よりも多く、逆にバックアップ復元は動画再生よりも少ない。
結果はやはり、パリティ計算が必要なRAID 5/6がバックアップでパフォーマンスを落としている。一方、バックアップ復元では意外にRAID 0がふるわなかった。
日本で家庭向けのNASと言えば、アイ・オー・データ機器やバッファローをはじめとする国内メーカーの製品が主流だと思われるが、その一方で、HDDを別売にしたNASキットも両社から別ブランドで販売されている。自由度が少なく(良くも悪くも)優等生的なNASと、NASというよりは安価なLinuxベアボーンであるNASキットに二分されているのが現状だ。
一方、海外メーカーのNASキットは、国内メーカにはない「そこそこ自由だけど、ベースはあくまでNAS」というバランスを持つ。今回取り上げたThecus N4100PROもその1つだ。NASの基本機能に加えて、メディアサーバやiTunesサーバ、フォトサーバ、ダウンロードマネージャを搭載し、機能を追加できる拡張パッケージにも対応する。導入が簡単でニーズが高い機能は最初からサポートしているうえに、それだけでは終わらない拡張性もあわせ持っているのが魅力だ。「“ちょっと遊べるNAS”なら海外製品が狙い目」というのがこれからのトレンドになるかもしれない。
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