インタビュー
» 2012年06月29日 15時00分 公開

1キロを切る11.6型Ultrabook:軽さへの挑戦――「LuvBook X」誕生秘話 (2/2)

[後藤治,ITmedia]
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最終版モデルからさらに数度の設計変更――困難を極めた排熱処理

 もう1点、製品開発にあたって特に苦労したのが熱設計だったという。確かにサーモグラフィによる編集部の検証では、高負荷時にキートップが45度に達し、金属素材が用いられている液晶ディスプレイのヒンジ部分は50度を超えた。通常のPC利用でこの部分に手が触れることはまずないものの、ひざの上で使うのはややためらわれる。数日LuvBook Xを持ち歩いて使った記者の不満点を挙げるとするなら、この熱についてと、クリックパッドの反応だ。

NECAvioのサーモグラフィー装置で、連続動画再生時(写真=左)とベンチマークプログラム実行時(写真=右)の発熱状況を計測した。室温は25.7度。ともに15分間同じ処理を繰り返したあとの測定になる。ファンが搭載されるキーボード右は温度が低いものの、内部空間に余裕がないのか、エアフローがやや厳しいという印象。高負荷時はCPUが搭載される中央付近のキートップが温かくなる。なお、ステンレス製のヒンジ部分は、反射によってグラフの温度が低く出てしまっているが、実際は50度を超えている

InfReC Thermography R300

 NECAvio赤外線テクノロジーの「InfReC Thermography R300」は、研究開発や高度な診断・検査向けの赤外線サーモグラフィー装置だ。

 測定温度範囲はマイナス40度〜500度(2000度までオプションで対応)、温度分解能0.03度、空間分解能1.21mradと、クラス最高水準の画質と感度を実現している。ホールドしやすい約105(幅)×193(奥行き)×121(高さ)ミリのボディに、チルト調整や反転表示が可能な3.5型の液晶モニタを搭載。記録メディアにはSDメモリーカードを採用し、動画撮影も可能だ。熱画像、可視画像、合成画像の動画を同時に撮影できる。

メーカー:NECAvio赤外線テクノロジー

価格:186万9000円(税込み)


 「実際、排熱設計には非常に苦労しました。初期の試作機では日本の基準を満たすのが難しかったほどです。そこでヒンジをステンレスに変更したり、ヒートシンクの位置を1ミリ以下で調整したり、内部のエアフローを阻害しないようにアルミテープの位置を変えたりとさまざまな最適化を行いました。与えられた課題の中での最善は尽くせたと思います」(平井氏)。

アルミテープの面積を少しずつ変えたり、ヒートシンクやファンの位置を1ミリ以下の単位で調整するといった試行錯誤を繰り返したという

 キーボードやクリックパッドも製品出荷のギリギリまで調整した。特にキーボードは、以前編集部で評価した段階の試作機からさらに改良を重ね、タイプ感を詰めていった。具体的には、内部のドーム形状を変更し、タイプしたフィーリングと実際の入力を近づけたという。「この問題を解決するために、中国のキーボードメーカーに弊社のスタッフが2週間常駐することになりました。『直るまで帰ってくるなよ』と(笑)。こちらは分厚い資料を持って1つ1つ改善要求を出し、作る側も半分キレ気味で対応するという(笑)。出荷に間に合ってよかったです」(平井氏)。

 実際、試作機のレビューで「入力を取りこぼすことがあった」と指摘したキーボードだが、今回試用した製品版ではきちんと改善されていた(ただ、パッドのクリック感と、Sentelicのドライバについては、もう少し何とかしてほしいと個人的には思うが……。ちなみにSentelicのドライバはVersion 9.3.2.2が6月5日に配布されている)。

キーボードバックライトを搭載した試作機もあったが、コスト面と重量(約15グラム増加する)から採用を見送ったという(写真=左)。クリックパッドの材質やサイズも微調整を繰り返した。製品版の滑り心地(ガラス製)を実現するまで何度も試行錯誤があった(写真=右)

「適切な性能を適切な価格で」――今後の展開は?

 最終評価版から量産機までの間でさえ2度の金型変更を行い、平井氏の口から「非常に難産なモデルでした」とため息混じりの笑いを誘うLuvBook Xだが、これがゴールではない。特にSandy BridgeからIvy Bridgeに切り替わる直前で出てきた製品だけに、ユーザーから“Ivy化”を求められるのは必然だ。

 平井氏は「開発段階でもIvy Bridgeでやり直すという議論はありました。ただ、市場に1.5キロ前後のUltrabookが多い状況を見て、『こういう(LuvBook Xの目指した軽さの)価値ってどうですか?』とできるだけ早く問いかけたかったというのが、まずはSandy Bridgeで出した理由です」と語る。「たぶん、今回のモデルを実現できたのは、パートナーに恵まれたこともそうですが、『面白いものを作ろう!』という意識を社内全体で共有できる、マウスコンピューターだからこそだと思っています。あいかわらずボディの歩留まりが非常に悪くてですね……(笑)、大きな企業であれば、別部署から『そんなもん作るな』とストップがかかってしまいそうなくらいですが、そういう部分では社内一丸となって協力してくれて非常に助かりました」と平井氏は笑う。

 「もちろん、次世代機の企画もあります。今後さらに薄くしていくにしても、薄いことで便利になるのか。あるいは軽さを追求したらどうなのか。逆にこれ以上軽くするよりはバッテリー動作時間を延長したほうがいいのか。11.6型ワイドでフルHDのパネルを使った試作機もすでにありますが、いまはまだパネルが非常に高価なので、『適切な性能を適切な価格で提供する』という弊社のスローガンに合致するのかなど、検討することはたくさんあります。いずれにしても、このLuvBook Xがいいスタートポイントになってくれれば」――そう言ってLuvBook Xを我が子のように眺める平井氏の視線に、モバイルPCへの熱い想いをひしひしと感じた。

 いつかマウスコンピューターが送り出したモバイルPCの変遷を振り返ったとき、このLuvBook Xが重要なマイルストーンとして同社の歴史に名前を刻むモデルになることは、間違いないだろう。

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