競合製品にない本機ならではの特徴に「Bluetoothテザリング」がある。こちら、スマートフォンでのテザリング手段として使ったことがある人はいるかもしれない、「より長時間動作」を望む人のための機能だ。メリットはWi-Fi通信より省電力=長時間動作(カタログ値最大24時間)、デメリットは通信速度が低いこと。速度は最大3Mbpsとなる。
Bluetoothテザリング機能は、本機とクライアントとの接続手段をWi-FiやUSBの代わりにBluetooth通信を使うもの(機能そのものはとくに目新しいわけではない)。ただ、カタログ値からも分かる通り、Bluetoothテザリングを使うと、Wi-Fiテザリング時の約2倍──バッテリー動作時間:約24時間を実現する。
一方、通信速度は理論値で最大約3Mbpsとなる。また、クライアントはBluetoothプロファイルの1つ「PANU(Personal Area Network User)」に対応している必要がある。最新世代のAndroidスマートフォンや(あるいはiPad Wi-Fiモデルなど)対応機器は増えているが、利用者が多い端末の一例としてiPhoneシリーズは現時点非対応である。iPhoneはLTE/3G通信機能を内蔵している関係で、自身が親機となるPAN(Personal Area Network)はサポートするが、PANUはサポートしていない。PANU対応についてはちょっと昔のAndroid端末も例外ではなく、ここ1〜2年と比較的最近のスマホであっても本機のBluetoothテザリングを利用できない場合があるので注意したい。
では早速使ってみよう。使い方はこれまでと少し作法は違うが難しくはない。本機とBluetoothでペアリング後、PANでの接続を開始するよう操作するだけだ。PANUに対応するNexus 5とAQUOS Phone xX 303SHでは、設定項目に「インターネットアクセス」という項目が表示され、これにチェックを入れると本機のBluetoothテザリングを使う接続が可能になる。無線LANと同様に複数の端末での同時接続も可能だ。Bluetooth搭載(PANU対応)PCにおいても、Windows 7/8.1/RT 8.1でOS標準のBluetoothスタックを使ってBluetoothテザリングを利用できた。
なお、Bluetoothテザリングは無線LANのように一度設定を済ませてあれば次回から自動的につながる──ほど気軽でないのは少し注意。スマートフォン向けアプリ「Aterm Mobile Tool」(無料)を用いた自動再接続機能を除くと、端末側から明示的に接続操作の指示が必要になる。Bluetoothテザリングは常時利用するというより、速度は低速でよいので、より長時間動作を/ルータのバッテリーを積極的に節約したいというシーンなど、高速な無線LAN接続とうまく使い分けるのがよいだろう。
実通信速度は、最大で2Mbpsほど、Windows 7搭載PCからは最大で1Mbpsほどだった(Bluetooth +EDR接続は非対称通信で下り最大2178.1Kbps/上り177.1Kbps、あるいは対象通信で最大1306.9Kbpsの組み合わせになるので、Windows 7以外は非対称通信を切り替えながらの接続になっていたと思われる)。LTE+11ac接続と比べると速度の値は確かに低いが、Mbps単位は出るということで、スマートフォンでの利用ならあまりストレスは感じず、PCで使うにしても構成要素/1ページあたりの情報量が多いサイトでページが完全に表示されるのに少し時間がかかるかな……という程度の印象だったりする。また、低価格SIMサービスにおいて、そもそも上限数百kbpsほどに制限されるデータ通信サービスを使っているのであれば、むしろBluetoothテザリングを積極的に使いたいところである。
なお、Bluetoothテザリングで接続しても、スマホでは(今回使用した2機種においては)A2DPでの音楽再生も併存できた。さすがに同じ2.4GHz帯の電波が混雑している場所(繁華街、信号のある交差点、公衆無線LAN密集エリア、家電店のケータイ/PC売り場など)でBluetoothで音楽を再生しつつWebで調べ物をしたりするシーンでは音が途切れてしまうことはまれにあるが、普段スマホでBluetooth音楽再生を楽しむ人もさほど心配する必要はない。
Bluetoothテザリングの対応に合わせ、Android端末/iOS端末向けに提供されているスマートフォンアプリ「Aterm Mobile Tool」も機能が強化された。前モデルのMR02LNまでは「電波状態とバッテリー残量のモニタリング」「WAN側のLTE/3Gと公衆無線LANの切り替え」「休止状態へ移行と休止状態からの復帰」が利用できたが、これに「無線LAN接続とBluetoothテザリングの切り替え」の機能も追加された。iOS板アプリは、iPhoneでは本機Bluetoothテザリングを現時点はサポートしない警告が表示されるが、PANU対応のほかのiOS機器(iPadやiPod touchなど)は機能すると思われる。
なお、Android端末ではこのアプリを使うことで本機と端末間の接続が自動化される。今回検証機として用いた2機種のうち完全に動作したのはNexus 5のみだったが、アプリで接続モードを切り替えると、休止時が無線LANモードなら無線LAN接続で、BluetoothテザリングモードならBluetooth接続で再接続が行われる動きになる。こちらは、すでに無線LANが他のアクセスポイントに接続している状態においても改めて本機へ再接続される動きのため、アプリ側で休止状態に移行させた直後の接続情報を記憶して動作させているのだろうか。なお、筆者環境のAQUOS Phone Xx 303SHはBluetoothでの自動再接続が機能しなかったが、エラーメッセージとともにBluetooth設定画面を呼び出してくれるので、手間そのものはあまり発生しない感じである。
本機+スマホアプリ使用を軸にした動作状況の違い | Nexus 5(Androidスマホ) | AQUOS Phone Xx 303SH(Androidスマホ) | ARROWS ef FJL21(Androidスマホ) | Optimus Vu L-06D(Androidスマホ) | iPhone 5c | Windows 7搭載PC |
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OSバージョン | 4.4.2 | 4.2.2 | 4.1.2 | 4.0.4 | iOS 7.0.6 | Windows 7 SP1 |
本機のBluetoothテザリング対応(PANU) | ○ | ○ | × | × | × | ○(筆者所有機の場合) |
休止状態へ移行 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
休止状態から復帰 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ×(※2) |
復帰時自動再接続(Wi-Fi) | ○ | ○ | × | × | × | × |
復帰時自動再接続(Bluetooth) | ○ | ×(※1) | ─ | ─ | ─ | × |
端末(アプリ)からWi-Fi→Bluetooth接続の切り替え指示 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × |
Wi-Fi→Bluetooth接続の切り替えした時に自動で再接続されるか | ○ | ×(※1) | ─ | ─ | ─ | ─ |
端末(アプリ)からBluetooth→Wi-Fi接続の切り替え指示 | ○ | ○ | ─ | ─ | ─ | × |
Bluetooth→Wi-Fi接続の切り替えした時に自動で再接続されるか | ○ | ○ | ─ | ─ | ─ | ─ |
○:対応、×:動作せず、─:仕様により対応不可 ※1. 警告メッセージ後、Bluetooth設定画面へ移動するので使い勝手はさほど劣らない ※2. アプリは非対応、Bluetooth設定から接続要求で可能 ※2014年3月時点 |
改めて、筆者が検証した機器におけるBluetoothテザリングとアプリでの対応機能をまとめた(Windows用も「Aterm Mobile Tool」は提供されているのでこちらも含めている)。
アプリの提供されているOSではいずれも休止状態への移行が可能であり、Windows版以外では休止状態からの復帰もアプリ操作で可能だった。無線LAN(Wi-Fi)の自動再接続に関しては「×」とあるのも、こちらはアプリでの制御で自動接続できないだけで、OS側機能での自動接続はたいていは有効なので心配はいらないと思う。
Bluetoothテザリングで使用するPANUプロファイルに関しては、2013年〜2014年冬春のスマートフォン新モデルであっても、サポートされている機種があればそうでない機種もある。最新機種だからOKとはとは限らない点には注意が必要だ。なお、KDDIは自社製品のBluetoothプロファイル対応の情報を提供しているので、参考としてこちらもチェックするとよい。これを確認する限り、現時点、国内メーカーだと富士通モバイルコミニュケーションズと京セラはPANUプロファイルへの対応が積極的ではないようだ。
AtermMR03LNは、SIMロックフリー、IPv6対応など、後日のファームウェアアップデートで改めて対応予定となる部分も残ってはいるが、2014年3月時点においても、本機はサイズ、重量、パフォーマンス、機能(クアッドバンドLTE、802.11ac、タッチパネル操作、BTテザリング、スマホ管理アプリなど)が高いレベルでバランスされている高性能志向なLTE対応ポータブルルータだ。
先代のMR02LNから省いた機能があったり、クレードルの扱いがちょっと不便(着脱が面倒)になった部分など、細かい不満点はあら探せばないわけではないものの、ポータブルルータとしての機能は確実に進化しているので、その部分はほとんど気にならない。筆者の個体では(……という個体依存でないとも思うが、念のため)、電源スイッチの反応がシブいのだが、そのおかげなのかバッグの中で勝手に電源が入っていたなどの不都合はない。また、普段はスマホアプリでリモートでの休止/復帰する使い方としたので、ボタンそのものにさりとて不便は感じない。
本体価格については、大手キャリアから販売される製品のように長期(2年ほど)の定額データ通信プラン契約により実質0円、ないしそれに近い価格で買える──ほど低価格ではないものの、低価格SIMサービスを展開するMVNOのプラン(例えばBIGLOBE LTE・3G)では、月額料金にプラス933円/月前後(税抜、以下同 24カ月間)で追加できるイメージだ。24カ月間の使用で合計約2万2000円というところで、さほど高額というほどでもない。すでに低価格SIMカードサービスを契約している人など、ある程度知識のある人向けにも直販サイト「Shop@Aterm」を中心に単体販売も行われている。Shop@Atermでの参考価格は2万8381円となっていた。
こちら、一見の安さからLTE 2GHz帯のみとなるドコモブランドのLTEルータを比較的最近買ってしまった(契約した)という人も、より快適なモバイルインターネット環境を得られるということで、契約・割引額などはそのまま生かしつつ、(初期コストとして機器購入代金は発生するものの)使う機器だけ本機と入れ替える方法もなしではない。じわじわ普及しつつあることで魅力的なサービスも増えているMVNOの低価格SIMサービスと合わせ「低価格なデータ通信を望む層」に決して損はないできの製品である。
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