前述のように、USB本来の規格で保証されたバスパワー給電容量は「5ボルト×500ミリアンペア=2.5ワット」となっており、例えばPCのUSBポートにデバイスを接続して得られる出力は2.5ワットであり、これ以上の電力を得られるかはPC側の仕様に依存する。
だが、例えば同じUSBを使う充電アダプタでもiPhone付属のものは「5ワット」給電が可能で、iPad用に至っては「12ワット」となっている。計算でいえばiPhoneは5ボルト×1アンペア=5ワットで、iPadは5ボルト×2.4ワット=12ワット(実際には5ボルト×2.1アンペア=10.5ワット)となり、もし標準アダプタ以下のアンペア数で給電を行った場合、充電にかかる時間が遅くなる。
iPhoneを一般的なWindows PCに接続した場合とMacに接続した場合とで充電にかかる時間が異なる傾向があるのも、本来の給電容量である「5ボルト×500ミリアンペア=2.5ワット」を上回る出力が行われているかどうかの差によるものだ。
このように、現状のUSBによるバスパワー給電は一部例外を除いて2.5ワットと非常に低出力に抑えられているが、最大で100ワットもの給電を可能にする「USB PD(Power Delivery) 2.0」規格がUSB 3.1の世代では盛り込まれた。
USB PD 2.0では「最大20ボルト×5アンペア=100ワット」の範囲内で、電圧と電流の設定をある程度自由に行うことが可能で、電力(ワット数)に応じて5つのプロファイルに分類されている。
今回、MacBookのUSB-Cを用いた電源アダプタは定格「29ワット」となっており、36ワットの「Profile 3」または60ワットの「Profile 4」に該当するとみられる。
ただ、この29ワット電源アダプタは「14.5ボルト×2アンペア=29ワット」と示されており、Profile 3では仕様上は電圧が5〜12ボルトの範囲となっているため、最大20ボルト給電が可能だとされるProfile 4の性質に近いのかもしれない。
ただ、このプロファイルは厳密なものではなく、あくまで「給電可能な機器とケーブルの種類の分類」を行うことが目的だと考えられる。例えば、Profile 4の60ワットに該当するような給電を必要とする中型サイズのノートPCがあった場合、Profile 3を上限とする給電ポートでは賄えない……といったことを明示する役割がある。
また、給電対応ケーブルもMicro-A/BではProfile 4が上限となっているのに対し、Standard-A/BやType-Cでは100ワット給電のProfile 5まで対応していたりと、プロファイルに応じて区別されている。
前述のように、プロファイルそのものは最大給電容量を示しているに過ぎず、実際にどの電圧と電流で通電するかはUSBケーブルで接続されたデバイス同士が互いに情報を交換し合って(ネゴシエーション)取り決める。
この通信には後述のAlternate Modeが利用されるが、逆にAlternate Modeが利用できない場合には給電される側のデバイスが「USB PD未対応」とみなされ、通常の「5ボルト×500ミリアンペア=2.5ワット」によるバスパワー給電が行われる。これは旧型デバイスの後方互換性を維持するための仕様となる。
USB PDに関して1点注意が必要なのは、「電源供給は一方通行」だということだ。先ほど「向きが存在しない」と説明したが、USB Type-A/Bの仕様ではケーブルそのものに向きが存在していたものが、Type-Cではケーブルそのものに向きが存在しないだけで、通電は一度ネゴシエーションが完了すると一方通行で流れることになる。
電源供給側を「Source(上流)」、給電される側を「Sink(下流)」と呼び、実際にPDによる電源供給が可能なデバイスを「Provider」、PDによる電源供給を受けることが可能なデバイスを「Consumer」と呼んでいる。
実際に通電される電圧や電流、方向はPD対応デバイス同士によるネゴシエーションによって決められ、Providerの機能がないデバイスはPDによる電源供給が行えず、逆にConsumerの機能がないデバイスはPDによる給電が受けられない。両方の機能を持つデバイスも存在するが、その給電ポリシーはDPM(Device Policy Manager)によって決定される。
今後の検証が必要だが、おそらく現行のMacBookはProvider機能を持っていない可能性が高く、USB-Cケーブルを挿しても通電方向は一意に決定されると考えられる(つまりMacBookに給電される)。今後PD対応デバイスや純正以外の電源アダプタが登場することで、この辺りの検証が可能になるだろう。
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