円筒形の小型ケースでGTX 980 SLIの爆速性能! 「Vortex」を完全分解50万円の価値はあるか

» 2016年04月20日 00時00分 公開
[後藤治ITmedia]

 1月の「CES 2016」で初披露されたMSIの高性能ゲーミングデスクトップPC「Vortex」の国内発売が決まった。日本向けには、Core i7-6700Kをベースに、GeForce GTX 980の2枚差しでSLIを構築した上位モデルと、GeForce GTX 960 SLIの下位モデルが用意される。発売日は4月27日で、実売予想価格は前者が50万円前後、後者が33万円前後になる見込みだ。

MSI「Vortex」

 Vortex(渦、旋風)の名前は、そのユニークな冷却システムに由来する。具体的には、円筒形に近い金属製ケースの上部に直径約14センチほどの大型ベアリングファンを設置し、底面のスリットから吸気した空気を上部に向かって強力に吸い上げて排出する構造だ。容量はわずか約6.5リットル、高さは約27.8センチと、Mac Proを連想させる非常に小型なケースで、競合する「ALIENWARE Area-51」(容量65リットル)に比べるとその差は歴然である。

前面にはおなじみGaming G Seriesのエンブレム

 台湾MSIでプロダクトマネージャーを務めるワン・ウィニー氏によれば、Vortexの構想はかなり前からあったが、実際に製品開発がスタートしたのは2014年以降。先行するALIENWARE Area-51を強く意識したという。通常、フォームファクター上の制約と性能はトレードオフの関係にあるが、MSIは「ノートPC開発チームの技術を結集」して、約6.5リットルのケースにコンシューマー最高峰の性能を詰め込み、さらに静音性にもこだわったとしている。

 このため、CPUやメモリ、SSDといった主要コンポーネント以外の基板や電源、ファンといったパーツは、独自仕様の特注品がほとんど。このほど、MSIジャパンで国内初披露の場に立ち会い、省スペースボディに驚異的な性能を搭載したVortexの秘密に迫るべく、完全分解を試みた。

電源ボタンや各部に埋め込まれたLEDは独自ユーティリティのDragon Centerから色を設定できる

LEDの光り方も、ふわっと明るさを変える、点滅するなど様々なパターンを設定可能。スタンバイ状態のときだけ光り方を変更することもでき、ゲーマー心をくすぐる

 分解作業を担当したのは、MSI公認サポート店でもあるアキバの老舗ショップ、パソコンSHOPアークの浦田氏。かつて50万円超の「GT72S 6QF Dominator Pro G Dragon Edition」を鼻歌交じりに分解した腕前を持つが、今回は初めて対面する製品とあってやや緊張気味。常に持ち歩いていると言われる工具を片手に分解作業に取りかかった。

パソコンSHOPアークを運営するタワーヒルの浦田氏

 分解はまず、6本のトルクスで留められたバックパネルを外すところから始める。この部分を外すと、ツメで固定された左右側面パネルがスライドし、MXM接続のGPUやメモリスロット、M.2のSSD(片方のみ)にアクセスできるようになる。一般的なPCとは構造が全く異なるため、パネルを外すだけでも慎重になるが、ここまではユーザーでも比較的簡単に進めるはずだ。

まずは6本のトルクスで留められたバックパネルを外す

左右にMXM接続のグラフィックスボード。がっちりとしたヒートシンクと銅のヒートパイプが装着されている

基板に対して垂直方向に挿さっているメモリモジュール。間隔が空いており、メモリの間に下から吸い込んだ空気が抜けるようになっている。SK hynix製モジュールが使用されていた

M.2のSSDは高速モデルとして定番のSAMSUNG製「SM951」。標準で2枚のSSDをRAID 0で組み合わせたストレージシステムだが、もう1枚が見当たらない……。ここで浦田氏、手が本体上部のファンに向かう

 最初はそのままGPUユニットも取り外そうと考えていた浦田氏だったが、ここでしばらく手を止める。マニュアルなしのぶっつけ本番とあって、どうやらそう簡単にはいかないようだ

 しかし浦田氏はパーツ同士の重なり方や配線状況から、本体上部にあるファンがカギになっていると推測。素早い手つきで上部カバーを外し、その下のファンの取り外しにかかった。予想は的中し、外からは見えないケーブルを次々と抜いていく。

 この辺りの勘の良さは、数え切れないくらいMSIノートを分解してきた経験から来るものだろうか。ときどき「あっ」という言葉が口から漏れるのが気になったが、順調に分解を続けていく。あってなんだよ、50万円のモデルだけど大丈夫なの……。

本体上部のカバーを外す

続いて冷却機構を支える巨大なファンを取り外す

ファンは指ですいっと回転させると慣性で回り続けるため、ベアリングだと思われる(ただし、台湾MSIのプロダクトマネージャーに確認してみたが、スリーブかベアリングかの回答は得られなかった)。冷却機構の要となっているだけあって、非常に高価そうなファンが採用されている

軸の回りに切られた溝がところどころ埋まっていることから分かるように、1つ1つすべて重量調整が行われているようだ。最高回転数は2600rpmとのことで、強制的に限界まで回すとかなりの音がするが、通常の利用では低速回転でほとんど音がしない(公称では高速時37デシベル、アイドル時22デシベル)。また、ユーティリティソフトで確認したところ、負荷をかけていない状態では完全に停止していた。このサイズ、かつユニークなデザインのVortexは、当然机上に置くことが想定されるため、静音性に配慮しているのはうれしいところ

各パーツが搭載されたサブボードを固定しているフレームを外すと、完全分解までの道筋が見えてきた。ネジの数は多いとはいえ、浦田氏にとってはもはや簡単な作業だろう。円筒形ケースの側面に配置された2つのGPUが下からの空気で冷やされていく構造が見て取れる

GeForce GTX 980を2基使ったSLI構成を採用。側面パネルを外して見えていたのはこのSSD。PCI ExpressのサブボードにGPU用のMXMとM.2用のスロットが載っている

そしてもう1枚のSSDはなんと裏面にあった。ユーザー自身の手で交換するのはかなり厳しいだろう(当然保証外)

4K環境でゲームを楽しむための強力なグラフィックスだ

 ここから浦田氏はスパート。中央部のメインボードを外し、Core i7-6700Kであることを確認。特注の電源ユニットを取り除いて、本体下部にあるチップセットまで露出したところで、ドライバーを置いた。

CPUがあるメインボードも冷却はヒートシンクのみ

MSIのスペックシートではCore i5も用意されているが、国内向けモデルはCore i7-6700Kのみ。ソケットなので将来的なアップグレードも行える可能性はあるが……

ケースに合わせて作られた完全特注品の電源ユニット。小さなファンがある。450Wの80Plus Goldが搭載されていた

底部の基板。非常に特殊な形状をしているのが分かる。チップセットはZ170

本体背面のIOボード。2基のギガビットLANコントローラーはゲーミングPCで定番のKiller製。Killer Shieldが見える

分解を終えた浦田氏。ドヤ顔である

 なお、今回はMSI公認サポート店、パソコンSHOPアークの技術者でもある浦田氏の手で分解作業が行われたが、ユーザーによるパーツの交換は非常に困難なうえ、当然ながらメーカー保証外となってしまう。ただし、パソコンSHOPアークで販売されるMSI製品は、メモリやSSDなどのカスタマイズに対応するうえ、仮に将来パーツのアップグレードが可能になった際にも、別途費用を払えばメーカー保証を維持したまま、追加でカスタマイズが行える(ちなみに、MSIによれば現時点で「Pascal(NVIDIAの次世代GPU)対応モデルは未定」とのこと。ただし、ゲーミングノートPC「GT72」シリーズの北米向けモデルでは、既存ユーザー向けに上位のGPUモジュール(MXM)が提供された前例もある)。

 かなり高価で特殊なフォームファクターのため、購入に不安を感じるかもしれないが、困ったときは浦田氏がきっと何とかしてくれるはずなので、興味がある方は是非トライしてみてはいかがだろうか。

「実際に開けてみると分かりますが、基本コンポーネント以外の汎用部品がほとんどなく、かなり開発コストがかかっていると思います。この本体サイズで最高峰の性能を持つという点を考えれば納得できる価格ではないでしょうか。イイ仕事してますね……」(浦田氏)

 パソコンSHOPアークではVortexの特設ページを開設している。販売ページは以下を参照してほしい。

→・G65 6QD-001JP(GTX 960 SLI)

→・G65 6QF-007JP(GTX 980 SLI)

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