ヘリウム充てんの8テラ「WD Red」は“本家”と何が違うのか「そっくり」な2モデルを比較(1/3 ページ)

» 2016年06月08日 14時19分 公開
[瓜生聖ITmedia]

 HDDの容量増加の歩みは技術とともにある。MRヘッドから、GMRヘッドを経てTMRヘッド、ボールベアリングから流体軸受け、水平磁気記録方式から垂直磁気記録方式など、大容量化・高密度化を実現するためにさまざまな技術が投入されてきた。そして現在のホットワードはヘリウム。HDDの内部にヘリウムを充てんし、密閉するというものだ。

 HGSTは独自のヘリウム充てん技術「HelioSeal」を持っているが、ウエスタンデジタルからもこのHelioSealを採用した8TBモデルが販売されている。同技術を採用したHGSTとウエスタンデジタルの同容量モデルはずいぶんと価格に開きがあるが、その違いはなんだろうか。

NAS用HDDでおなじみの「WD Red」シリーズにラインアップされる8TBモデルは、HDDの先進技術であるヘリウムを充てんしたモデル。「HelioSeal」を採用したHGSTの製品に比べて価格が安いが……何が違う?

ヘリウム充てんの2モデル

 2016年4月、一般消費者が入手可能なHDDの容量はついに10TBに達した。2社から2製品が投入されたが、その両方に共通した特徴がヘリウムを充てんしたモデルだということだ。既存技術による高密度化が限界を迎えつつある現在、2ケタTB以降の大容量化にヘリウム充てんはなくてはならない技術と見られる。

 ヘリウムは水素に次いで2番目に分子量が小さく、軽い気体だ。空気を充てんした従来の構造に比べて気体抵抗が低減されるので、回転するプラッタの振動を抑えることができる。プラッタが安定して回転すればより正確なヘッダの位置合わせが可能になり、将来も含めた高密度化へのアドバンテージとなる。また、プラッタを薄くしても安定性が確保できるので、プラッタ枚数を増やすことによる大容量化も可能だ。

 気体抵抗が低減したことによるメリットはそれだけではない。回転に必要な力が小さくなればモーターの消費電力の低減、発熱量の減少にもつながる。実際、HGSTは従来の空気充てんモデルに比べ、消費電力で23%、1TBあたり44%の削減を実現。動作中の温度も4〜5度の低下が見られるという。

 さらに副次的メリットながら、フロリナート(フッ素系不活性液体)に沈めても動作するほどに高い密閉性によって湿気やほこりの侵入をブロック、結果として安定性と耐久性が向上するという効果もある。

 プラッタの安定回転と密閉性による静音化も特徴の一つだ。このようにヘリウム充てん、またそれを実現するための高い密閉性による恩恵は高密度化、安定性、信頼性、静音性など非常に多岐にわたる。

HGSTによるヘリウム充てんハードディスクのデモ。液没したまま動作する姿はインパクト大

HGSTのブローシャ。HelioSeal技術によってTCO(総保有コスト)が削減できるとのこと

 ならば、これからのHDDはすべてヘリウム充てんか、というと、おそらくそうはならないだろう。密閉性を上げるための製造原価向上を上回るメリットを出せるのは大容量モデルやエンタープライズ用に限られるからだ。すべてのHDDが2ケタTBを必要とするわけでもないため、小型・小容量モデルに対しては既存の空気充てんでも十分な性能と容量が確保できる。

 もちろん、生産量が増え、歩留まりが改善されていけば価格は下がっていく。現在最大容量である10TBモデルはギガバイトあたり単価が実売で7〜8円(原稿執筆時)と、まだ割高ではあるが、8TBモデルだと4〜5円からと、現在のバリューゾーンである3円程度にぐっと近づきつつある。その入手しやすい8TBモデルの一つがウエスタンデジタルのNAS用シリーズ「WD Red」の最新モデル、「WD80EFZX」だ。

 ウエスタンデジタルの製品情報には明記されていないものの、プレスリリースにWD80EFZXは「米HGST社のヘリウム封入技術HelioSeal技術を採用した」とある。また、同技術を採用したHGSTの製品には同じく8TBモデルのUltrastar He8がある。どちらも7枚のプラッタを内蔵しており、ハードウェア的には非常に似たモデルだ。だが、実売価格はUltrastar He8が6万9000円程度に対し、WD80EFZXは3万9000円程度とかなりの開きがある。

 この2モデルはなにが違うのか、実際に比較してみることにしよう。

似てるのは見た目だけ……じゃない?

 Ultrastar He8とWD80EFZXを並べてみると外観も非常に似ていることに気づく。

 まず、筐体上面全体を覆うラベル。HelioSeal技術を採用したHDDの密閉性は非常に高い。充てんしたヘリウムが漏れないよう、また、外部から空気が侵入しないようにするために天板は従来のネジ止めではなく、ダイカスト製アルミニウムケースにレーザー溶接されている。そしてWD80EFZX、Ultrastar He8の両モデルとも継ぎ目や凹凸のないフラットな天板すべてがラベルで覆われている。このラベルははがしたり、破ったりしてしまうと保証対象外となるので、傷つけると保証外になる範囲を限界まで広げた、という見方もできるかもしれない。

 そして裏返してみると、天板とは逆にフレームがプラッタの形に沿ってぎりぎりまで面取りされているのが分かる。そして基板のパターンも酷似して……ん? んんん? これは酷似というレベルではなく、完全に一致!? 基板に印字されている型番も、ケースのエンボス印字のパターンも同一。コネクタ部分の形状を除けばハードウェア的には(ほぼ)同一のものと言ってもよさそうだ。

 現在、経営統合こそしていないもののHGSTはウエスタンデジタルの傘下にある。このことからも、WD80EFZXは単にライセンス供与されたものではなく、Ultrastar He8のバリエーションの一つであると考えてよいだろう。

ウエスタンデジタルの空気充てんモデル「WD60EFRX」(左)と、ヘリウム充てんモデル「WD80EFZX」(右)。天板がフラットになり、ラベルが大きくなっているのが分かる

一方、Ultrastar He8(左)とWD80EFZX(右)。ラベルが全面を覆っているところは同じ

Ultrastar He8(左)とWD80EFZX(右)の裏面比較。フレームの形をぴったりとプラッタの形状に合わせてある

ネジ穴が貫通している

基板パターン。似ている……と思ったら……

基板の型番が一致

フレーム側の型番こそ違えどルールは一致。これは(ほぼ)同じものだ!

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