4つの新OSで何が変わる? Appleが示した7つの方向性を林信行が読み解くWWDC 2016現地レポート(1/8 ページ)

» 2016年06月15日 04時00分 公開
[林信行ITmedia]

 Worldwide Developers Conferenceは、アプリや周辺機器を開発する技術者向けのイベントだ。Appleが目指す今後の方向性や新OSで提供予定の新技術・新ルールをあらかじめ開発会社に伝え、翌年を担う新アプリや新周辺機器の開発に備えてもらうことを目的としている。

 現在、世界にはApple製品向けの開発を行う登録開発者が1300万人いて、App Storeで提供しているアプリの総数は200万本に達した。アプリはこれまでに1300億回ダウンロードされ、その売価やアプリ内課金代の利益として500億ドル(約5兆3000億円)が支払われてきた。


 Appleはこれら1300万の開発者を支える主であり、その方向性を知ることは、開発者が自身の夢を実現したり、他社との競争を勝ち抜く上で重要だ。そこで2016年もWWDCには世界70カ国から5000人以上の開発者が集まった(実は応募はもっと多いが、会場のキャパシティの関係で、いつもこの程度の人数になる)。

 たまにWWDCに新ハードウェアの製品発表が重なり一般ユーザーの間でも話題になることはあるが、本来は開発者のイベントであり、今年も開発者向けの発表が中心だった。2時間以上にわたる基調講演で行われた膨大な量の発表を一言にまとめるならこうだ。

 「この秋、watchOS、iOS、tvOSそしてmacOS(旧称:OS X)の4OSが一斉に新しくなる

 ちなみに、watchOS 3、iOS 10そしてmacOS Sierraのバージョン名は公開されたが、tvOSに関してはバージョン名は特に表記しない方針のようだ。

 発表の詳細な部分は、実際にアプリ開発をしない人にはそれほど面白いものではないかもしれないが、Apple Watch、iPhone、iPad、Apple TVやMacが新OSでどんなことができるようになるのかは一般の利用者でも興味があるだろう。

 そこで本稿では、基調講演の発表をもとに、それぞれの新OSによって今後Appleが何を実現しようとしているのか、7つの方向性についてまとめてみた。

1、音声操作が加速する:ついにMacと他社製アプリにも対応したSiri

[tvOS、watchOS、iOS、macOS]

 一昔前までパソコンやスマートフォンに向かって(通話以外の目的で)話しかけるというのは奇異な目で見られる行為だった。しかし、今日ではもはや音声操作は珍しいことではない。ウィットの効いた返しも多いSiriは、既にiPhoneを操作する方法としてもすっかり定着し、1週間当たり20億のリクエスト(声による操作)が行われているという。

 そしてiOS、tvOS、watchOSに対応していたこのSiriが、ついにMacでもサポートされた。秋ごろ登場予定のMac用新OS「macOS Sierra」(シエラ)にはSiriが追加され、例えば「先月、どこそこで撮った写真」と言えば該当する写真をピックアップして表示してくれる(これは既にiOSでは実現していた機能)。さらに面白いのは、表示された結果を受けて「そのうち誰それが写っている写真だけ」と追加で指示を出せば、該当項目が絞り込んで表示する点だ。

ついにMacでもSiriが利用可能に。ドックからSiriを起動して、「先週作業したオフサイトに関する書類」を検索表示。その後、「その内、ケンから送られてきたもので私が下書きとタグ付けしたものだけ」と絞り込み。検索結果は通知センターに表示されるので、そこからドラッグして書類に追加するデモを披露した

 今でも音声操作を敬遠する人は多いが、これと同じことをマウスやトラックパッド操作でやろうとするとどれだけ大変かを想像してほしい。写真アプリを開いて、地名と日付情報を入力して検索をかけ、さらにもう1度検索を行う――操作を1ステップずつマウスやトラックパッドで行うGUIと違い、ユーザーが何をやりたいのかいきなり結論を伝え、その間の面倒な操作をコンピューターに肩代わりさせるのが音声操作だ。その便利さに慣れるともはや後戻りができなくなる。Siriは今後、macOSを使う上で無視できない操作方法となるだろう。

 ちなみに、Siriを使った絞り込み検索の写真は、Macの通知センター(画面の右端からスワイプ)に表示されているので、そこから作成中の資料などにドラッグして追加するといった操作も簡単にできる。

 これまでSiriでどんなやりとりを用意するかは、すべてAppleが決めていた。つまり、Siriで操作できるアプリはApple純正のものに限られていたわけだ。しかし、今回のWWDCでは、ついに他社製アプリも利用可能になることが発表された。開発者はSiriに自社のアプリを操作するためのボキャブラリーを追加できるようになる。

 実際に基調講演では、「(中国で人気のメッセージアプリ)WeChatを使って誰それにメッセージを送る」と(英語で)命令をしてメッセージを送って見せたり、Lyftという送迎サービスのアプリに「サンフランシスコ空港までLyftで車を手配して」と(英語で)命令すると、車が手配される様子を披露した。こうした音声操作は、iOSと連動して動作するApple Watchからでも利用できるようになるはずだ。

weChatを使ってメッセージを送る例

 また、tvOSを搭載する最新のApple TVもSiriが強化されている。新たに複数の条件、例えば「1960年代のスパイ映画を探す」(1960年代の映画+スパイ映画)で検索したり、「YouTubeでオウムがオペラを歌っている動画を検索」といった具合に、YouTube動画の検索まで可能になるようだ。もちろん、こちらのSiriも開発者に開放されているので、今後、アプリ側の対応次第でその他のVODサービスなどにも対応することだろう。さらにSiriでは、HomeKitという技術に対応した家電製品の操作も実現しており、今後、音声操作をする機会は劇的に増えるかもしれない。

 Siriの音声認識が非常に優れているのは、深層学習(Deep Learning)という人工知能を学習させる技術を使っているからだが、Appleが「Siri Ingelligence」と呼ぶ同じ深層学習の技術を使って進化しているのが「QuickType」というiOS用の英語キーボードだ。

 例えば、文中に「私の電話番号は」と打ち込むと、自動的に挿入文字の候補として自分の電話番号を表示したり、誰かとのメッセージで「誰それの電話番号分かる?」と聞かれたら、入力候補にアドレス帳から探してきたその人の番号を表示する。また、「今どこ?」という質問にはGPSから現在地を挿入する候補を出し、「日曜日の11時ごろにどこそこのお店で飲茶しよう」というメッセージを受けると、自動的にスケジュールを作ってくれるといった具合に、メッセージ中のやりとりの文意を理解して、面倒な調べ物や入力操作の手間を減らしてくれる。

英語キーボードのQuickTypeも、Siriと同じ言語解析エンジンで賢くなり、次に打つ単語や、相手からの質問の返事、予定のカレンダーへの自動追加などに対応した

 ちなみにキーボードといえばもう一つ、マルチリンガル対応も果たしている。英語とフランス語で同時にやりとりをしている際、英語キーボードのままフランス語を書くと、単語に英語のスペルチェックや修正機能がかかって、変な単語に変換されて困る、ということがよくあった。iOS 10からは自分が話せる言語をあらかじめ設定しておけば、複数言語でのスペルチェックが行われる。マルチリンガルな人にはとてもうれしい改善となるはずだ。

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