Appleがもう一つ重きを置くのがプログラマーの育成だ。WWDC 2016の基調講演でも、ティム・クック氏が冒頭に話したのはスカラシップの話題、そして最後に話したのもSwift Playgroundsという教育目的の新アプリの話であることがそれを象徴していた。
スカラシッププログラムは、WWDCに集まるプロの開発者の現場を学生に見てもらおうと、世界中から厳選した学生プログラマーを招待するプログラムだ。今回は350人が対象となり、日本からも近畿大学の学生が一人参加している。ティム・クック氏の話によれば最年少のスカラシップ参加者は9歳の女の子だ。
スカラシップに招待される学生だけでなく、そもそものプログラミングスキルの裾野を広げようと発表したのが、Swift Playgroundsである。
Swiftは、Appleが21世紀に入ってからデザインしたプログラミング環境。習得が早く、動作などがすぐに確認できるということで人気が高い。2015年暮れにオープンソース化されたことも手伝い、今ではGitHub(世界中のプログラマーの開発コードが集積されている)で最も使われている言語となった。
筆者はたまたま事前にIBMの取材をしていたが、現在はIBMも、このSiwftをサーバプログラミングをはじめ、AndroidやWindowsのプログラミングに応用しようと積極的に取り組んでおり、古典的なC言語をもとにした開発言語に取って代わる勢いだ。
このSwiftを使って、プログラミングをするということはどんなことか、子どもでもゲーム感覚で習得できるのがSwift PlaygroundsというiPad用のアプリだ。画面上に表示されるキャラクターを動かしてみよう、というゴール設定とともにプログラミングのヒントが表示され、それに従ってプログラムを書いたり、改造を加えていくうちに自然にプログラムの基礎を学べる。
iOSなどで実際に使われているAPI(OS内機能)の呼び出しも可能なため、iPadを傾けると、傾けた方向に絵文字が飛び跳ねるといったiPadのセンサーなどを応用した課題なども用意されており、子どもたちも楽しめそうだ。Swift Playgroundsは同日からデベロッパー版の提供が始まり、7月にパブリックβ版を提供開始。最終版は秋ごろリリースされる。
プログラミングを習得すれば、世の中の課題を自力で解決できるような人間になる。ティム・クック氏が講演の最後で披露したビデオには、知識がないために出産や子育てで感染症を招く危険があるアフリカの母親に必要な知識を教えるためのアプリを開発した開発者や、プログラミングを学んだところ周囲の人に「この問題を解決して」「こっちの問題も解決して」と頼まれるようになり、自信がつき非常に喜んでいる主婦などが登場している。
Appleの注力する取り組みが、将来自立して問題を解決できる次世代の人材を増やしていくのだろうか。今後日本でもこうした教材が教育の現場に取り入れられていくのか、注視していきたい。
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