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» 2016年06月17日 13時47分 公開

リアルとイメージの絶妙なバランス:タイプライター風キーボード「Qwerkywriter」でレトロメカニカルの雰囲気にひたる (2/4)

[瓜生聖,ITmedia]

KickStarterの功罪

 まったくの余談だが、筆者のくじ運のなさは自他共に認めるところ。KickStarterで出資した製品はことごとく目標額を達成しながらも製品化を断念したり、待てど暮らせど製品が送られてこないものばかり。

 なかには目標額を達成しておきながら収入が得られる一般販売を優先し、すでに支払い済みの出資者には製品を送らないものまである。3年以上も待たされている出資者の気持ちが分かるか、というか、3年前の製品を定価で売りつけ……すらしないJustin Barwickのことは許さない。

 だが、(筆者が出資しなかった)Qwertywriterはきちんと製品化にこぎつけている。こぎつけてはいるのだが、そこにはProduction(生産)のリアリティがありありと表れている。簡潔に言えば「夢を見たプロトタイプとコストを見た製品版」。プロトタイプの細部に宿った神はコストカットされてしまったようだ。

 Kickstarterのページが分かりやすい。一番上の写真は製品版、その下はプロトタイプだ。具体的には以下の点で変更がみられる。

KickstarterのQwerkywriterページ(https://www.kickstarter.com/projects/954250822/the-qwerkywriter-typewriter-inspired-mechanical-ke/description)

修飾キーの配列

 プロトタイプの正面写真では右下にCTRL、Win、ALTと特殊キーが並んでいるのが見える。また、「Mac OS CMD Keycap」という写真ではCTRL、OPT、アップルキーという並びになっている。当初はWindows用とMac用で別々のプロダクトを計画していたか、キーマッピングの切替機能を想定していたのだろう。

 しかし、製品版ではCTRL、ALT/OPT、アトムキー(Win/コマンド)の並び。Macに寄せたのか、一般的な104英語キーボード配列とはWinとALTが逆になってしまっている。詳しくは後述するが、実はこれがかなりのストレスになる。

プロトタイプの正面図。CTRL、WIN、ALTと並んでいる

こちらはMac用。キートップがCTRL、OPT、アップルマークと並んでいる

実際の製品版での並び。CTRL、ALT/OPT、アトムキー

リターンバー/プラテンの簡略化

 プロトタイプではリターンバーはタイプライター同様、プラテンノブとプラテン(ローラー)の間、軸の部分に取り付けられている。タイプライターではリターンバーを右に倒すことでプラテンが回転し、1行分紙送りされる(LF:ラインフィード)。さらに続けてリターンバーを倒すと、今度はプラテン自体が右に移動して印字位置を行頭に合わせる(CR:キャリッジリターン)。

 この構造を考えると、Qwerkywriterの製品版のリターンバーを含めたプラテン回りはあり得ない造形であることが分かる。リターンバーがプラテンに直接付いていたらプラテンは回転できないし、そもそも製品版ではプラテンが円筒形ですらない。プラテンノブで回すこともできないし、プラテンノブ単体も回らない。回らないプラテンノブはずいぶんと安っぽいものに替わっている。このあたりは機能的にはなんら役に立たない、意匠上のものにすぎないが、プロトタイプの細部の再現性に惚れ込んで出資した人たちもいたのではないだろうか。

プラテンノブ。回らない。つやのある軸部分が安っぽく感じる

そもそもプラテンが円筒形ではなくなっている

リターンバーがプラテンに直接取り付けられている

 リターンバーに関しては形状にも難がある。本来のタイプライターの再現ではなくなっているので、プラテンを回転させる動き、つまり、リターンバーを右に倒す動きを回転運動に変換される仕組みがない。そのためか、リターンバーの造形も単に右側に倒れるだけの簡素なものになっている。

 しかも、これは意匠にとどまらない問題をはらんでいる。プラテンに直接取り付けられたことと合わせ、内側に移動し、高さが低くなったことによって左上に位置するESCキー、バッククォートキーと干渉しかねなくなってしまった。

 もちろん、キーに覆い被さるほどではないので、通常の使い方ならぎりぎりOKかもしれない。だが、英語キーボードを日本語環境で日常的に使用している人ならバッククォートキーの重要性を知っているはずだ。

 全角/半角キーのない英語キーボードでは日本語入力の切替はALT+バッククォートを用いる(標準的なキー設定の場合)。そして前述した通り、Qwerkywriterでは通常よりもALTキーが外にずれている。そのため、ALTとバッククォートキーを同時に押そうとすると通常よりも左手が外側にはみ出してしまい、結果としてリターンバーに干渉してしまうのだ。

 このリターンバーはデフォルトではENTERキーとして働くが、ユーザーがマクロとして「5文字」を登録することができる。フリーウェイの製品説明ページでは「最大5文字まで登録できます。(5文字以下の文字は入力できません」という謎の記述になっているが、5文字まで、でも、5キーまで、でもなく「5文字」だ。

 リターンバーが日本語入力オン/オフに干渉するのであれば、リターンキーに「Alt+バッククォート」を登録すれば、と思ったが、実際に「Alt+バッククォート」を登録しようとしても実際に登録されるのはバッククォートのみ、しかも必ず5文字登録しなければならない。デフォルトのENTERは例外で、マクロ機能を使って設定することはできない(再設定する場合はデフォルトに設定を戻す)。正直なところ、なんの役にも立たない機能だ。

 もっとも、リターンバーのマクロ機能に大きな期待を持っていた人はほとんどいないだろうし、使わなくても問題はないので影響は大きくはない。しかし、このあたりになるともう、「やるって言ったから約束を守るためにつけた」という印象がぬぐえない。リターンバーにしてもプラテンノブにしても、製品版だけを見ると存在感があるものの、プロトタイプと並べると廉価版にしか見えない。

リターンバー。ずいぶん簡素化された

上から見たところ。干渉まではしていないものの……

ALT/OPTが1キー分外側にあるため、親指ALT+中指バッククォートの同時押しをしようとすると干渉してしまう

2014年6月時点のデザイン。ローラーが大きく、ノブとローラーの隙間に芯が長く見えている。高い位置のキートップ、金属製の軸、歯車――このあたりにスチームパンクデザインを感じる

2014年8月時点のデザイン。リターンバーがローラーの芯に取り付けられ、猫足のようなしなやかな曲線を描いているのが分かる

リターンバーには苦労したようだが、結果は妥協の産物ではなかったか

接続方式

 当初はUSB接続が想定されていたが、2014年1月ごろにBluetoothを付ける検討がなされている。その後、ストレッチゴール(製品化のための出資目標に加え、仕様をグレードアップするための目標金額)として11万5千米ドルでBluetoothを追加することが発表されている。経緯は不明だが、最終的にはBluetoothのみが残り、USB接続は廃止されてしまった。

 また、たまにキーが反応しなくなること(しばらくすると入力していた分が一気に流れてくる)があった。これはBluetoohアダプタ側の問題である可能性もあるため、確かなことは言えないのだが、少なくとも最近同じ環境でレビューしたBluetoothキーボードではそのようなことはなかった。

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