街中ロストガジェット:消えた「大将軍駅」最後の姿に見る“昭和の夢、昔の未来”(2/2 ページ)

» 2016年08月25日 06時00分 公開
[赤祖父ITmedia]
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 一般公開は2016年8月13、14日の2日間のみ、抽選で選ばれた人のみ入ることが許された。日程的にはすぐ後にでも取り壊しが進むということで、最初で最後の見学会になる。


 今回は、普段閉鎖されていた高尾ビルのビジネスホテル入り口から見学者が誘導された。


 ビジネスホテルのフロントを横目に階段を登る。このビルの上層階はアパートだったが、大将軍駅の下にはビジネスホテルや銭湯などの商業施設も入居していたようだ。


 大将軍駅に続く階段の脇にはエスカレーターがあった。


 停止して久しいエスカレーターも、ホーム階までは届いていない。こういう中途半端な設計もまた「昭和らしさ」なのかもしれない、といったら失礼だろうか。


 ホームに入る前には改札があった。駅員さんが入って手できっぷを切るブースであり、自動改札機などは存在しない。


 きっぷ売り場であっただろう窓口もあった。もちろん自動券売機などはなく手売りのブースだ。時刻表はかすれて読めず、改札の向こうは鳩の卵や糞などが散乱していた。


 改札の隣には駅長室の入り口と精算口が存在していた。姫路-大将軍-手柄山、と3駅しか存在しないうちの中間駅では、通常は精算口が存在すること自体ほぼ意味がないとよくよく考えれば分かるのだが、これは将来の路線延長などを見越して作られた……のかもしれない。


 そしてこれがホーム全景。ところどころに建物の傷みは見えるものの、今すぐモノレールが入ってきてもおかしくはない雰囲気である。おそらくはホームも駅長室などと同様「鳩の楽園」として汚れきっていたのだろうが、見学会開催に際してここまできれいにしていただいたであろう関係者の方には本当に頭が下がる思いだ。


 大将軍駅の駅名標。字体に時代を感じる。


 駅名標が付けられた柱はコンクリート製だが木目が付いていた。コンクリートの型枠に、現代よく使われるようなコンパネではなく杉板を組み込んだもので作られたから、とのことだ。


 姫路駅方面のレール。少しカーブしていることが分かる。姫路モノレールは全体的に経路が直線的でなく、街の合間を縫ったような線形をしていたが、そうした都市の隙間に建設しやすいというのもモノレールが選定された理由のひとつなのだろう。


 手柄山方面のレールも県道62号に至る前の部分でなくなっている。向かい側の真新しい高層マンションが建つ場所にも数年前まではレールの跡が残されていた。


 同じ位置を下から見るとこのような構造だ。駅の空間に居住スペースが乗っているような斬新な構造だが、やはりその駅部分にあたる箇所は壁がないこともあって耐震性に問題があると判断されたようだ。


 大将軍駅のホームからは「現代に続く未来」として昭和の時代から着実な進化と発展を続ける新幹線の高架が見えた。その下に「昔の未来」であるモノレールの廃線跡がギリギリの高さで交差していた。そもそもの規模や目的が違うとはいえ、このギャップには頭がくらくらする感覚におそわれた。


 わずかに許された見学時間はあっという間に終わりを迎えた。時間の止まっていた大将軍駅は、いよいよ、消える。


 モノレールを建造した当時の市長は、市街地や鳥取までの延伸の構想なども語っていたという。今となっては「バカな計画だ」と誰しもが思うかもしれないが、もしかしたら当時のイケイケな空気感では「イケる」と本気で思えたのかもしれない。それは現代しか知らない者にはなかなか想像しにくいことだ。


 今冷静に評価すれば、確かに姫路モノレールの発展構想などはバカげていると断ずることもできる。行政や国が何かをしようとするたびに「コストが……」とか「ムダだ……」とかいった声が必ず上がる現代では、どうしても大風呂敷を広げた話がしにくい。しかしそういった現代の空気感もまた少し寂しいものがあると感じてしまうのは筆者だけだろうか。怒られる覚悟で言うならば、現代に生きていても、たまには大きな夢を見てみたいと思うこともあるのだ。


 この「昔の未来」が詰まった建物も間もなく跡形もなくなる。こうして、昔の人が見た未来と実際の未来とのギャップがまたひとつ埋まっていく。



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