そしてついに対戦が始まった。二人ともほぼ初心者という、格ゲー界には何のインパクトもないマッチメークである。背後で戦いの行く末を見守るG-Tune:Garageスタッフの目も心なしか生暖かい。
「初心者ならリュウですかね」と若手スタッフT氏の勧めでリュウを選択した記者に対し、安田氏が選んだのはキャミィ。ヒロイン格の女性キャラである。その体格でキャミィとか……おまえそれで良いのか? などと内心笑っていたものの、プロのkazunoko氏が使っていたキャラでもある。侮れない。
T氏をセコンドにつけた記者がアドバイスを求めると、キャミィは素早く接近戦が得意だがリーチが短いので波動拳で距離をあけつつ、カウンター気味に戦えばいいとのこと。互いにオンラインマニュアルで技を確認しつつ、波動拳や昇竜拳が2回に1回くらいは出せるようになったところで試合が始まった。いよいよ安田氏の化けの皮がはがれる時間である。おまえハイスラでボコるわ。
だが、実際に戦ってみると何か勝手が違う。セコンドのT氏に助けを求める記者。
「あの、遠くからギューンって蹴ってくるのなに」
「キャノンストライクですかね」
なす術もなく削られていく体力ゲージ。
「ちょ、ガードボタンどれ」
「後ろに入れるだけです」
とりあえずガードは覚えたものの、今度はいいように投げられる記者。
「投げっ、投げ抜けは?」
「投げと同じですけど、まあ、読まないと無理すね。回避はバックステップと無敵技交ぜていきましょう」
しかし急にそんなことを言われてもうまくいくはずがなく、初心者丸出しの手つきでひたすらレバーをガチャガチャと動かす記者。背後のギャラリーからクスクスと笑い声が聞こえる。つらい。
「昇竜拳が波動拳になっちゃ、う」
「あるある」
それでも徐々に操作に慣れてきた記者を警戒したのか後ろに下がり距離を開ける安田氏。ひたすら防御を固める記者。ふふふ、手も足も出まい。こちらからも出せないがな。するとキャミィが見慣れない動きを……まさか必殺技か!?
「喋った! いまキャミィなんか喋った」
「あれは挑発ですね」
「挑発って?」
「一言でいうと、なめプです」
「くっ、その手があったか」
「いや、ないですから」
そんなわけで結果は1ゲームも取れず完敗。化けの皮をはいでやるぜなどと息巻きたものの、考えてみればこちらも完全に初心者である。さらにいえば最後に遊んだ格ゲーはバーチャ3。カゲ(影丸)でひたすらリングアウトを狙う汚い忍者プレイで相手を挑発し、あわやリアルファイトに発展しそうになって以来、この手のゲームにはまったく手を出していない。いまから20年近く前の話である。そしてストリートファイターにリングアウトはない。
記者はおもむろに席を立ち、笑みを浮かべる安田氏に言った。「じゃ、練習はこれくらいで。本番の日程は改めて連絡します」。少し声が震えていたかもしれない。
そして、背後から投げつけられる声(Tシャツ送っておきますねとか何度やっても同じだとかなんとか)に耳をふさぎ、足早にG-Tune:Garageを立ち去ったのだった。心の中で再戦を誓いながら。
(続く)
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