「ブラクラ」を踏んで電源コードを引っこ抜いていた頃のこと

» 2016年10月11日 06時00分 公開
[上田啓太ITmedia]
オレの知ってるネットと違う

 2000年頃のインターネットには「子供じみた悪意」としか言いようのないさまざまなトラップがあった。カネをだましとるわけでもない。誰かを炎上させるわけでもない。それはただただ「タチの悪いイタズラ」と呼ぶしかないものだった。当時の私はよく泣かされていた。

 今回は、あの頃のインターネットで遭遇したさまざまなトラップを紹介したい。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


ネットをいまいち信用しきれない

 私には「ネットは怖い場所だ」という根強い感覚がある。同時期にネットを始めた友人にもあるようだ。しかしこの感覚は今の十代には共有されていないように思う。なぜ自分たちは、こんなにもネットは怖いものだと思い込んでいるのだろうか? 

 どうもネット開始当初のすりこみが大きいようだ。具体的には、あの頃に体験した「ブラクラ」「グロ画像」「ビックリFlash」である。十代の時期にこんなものを浴びたから、ネットが安全になった今でも、いまいち不信感はぬぐえない。

 どんなものだったか解説していく。まずはブラクラから。

ブラクラを踏む

 ブラクラというのは「ブラウザ・クラッシャー」の略だ。掲示板などにリンクという形で仕掛けられている。これを踏む(クリックする)とブラウザに何らかの異常が起こる。典型的なのは、ウィンドウが次々と勝手に開いて止まらなくなるものだった。私はこれに何度も引っ掛かった。とくにはじめて引っ掛かったときはまったく意味が分からず、

 「えっ? えっ? えっ? えっ?」

 というふうに、自分のなさけない声とウィンドウの開くリズムが見事にシンクロしていた。必死で消そうとするがどうにもならない。画面はどんどんウィンドウで埋まっていく。とうとう後ずさりしてPCから離れる。「爆発する!」と思ったからだ。するはずがない。トラブルを全て爆発に結び付けるのはPC初心者の悪い癖だ。

 このときは結局、電源コードを引っこ抜くという原始的な方法でなんとかした。あの頃はブラクラを踏むたびに電源コードを引っこ抜いていた。そのうち、引っこ抜けばなんとかなると初心者なりに妙な安心を覚えたんだが、何度も引っこ抜いていたらある日PCが起動しなくなった。当然だ。PCの負担が大きすぎる。

 踏むと悪質なファイルをダウンロードさせるものもあった。私はMacユーザーだったからピンとこなかったが、Windowsを使っていた友人は「.exe」のファイルに異常におびえていた。exeという拡張子自体は普通のものだが、ウイルスを仕込まれたファイルでよく使われていたらしい。「exeはヤバいぞ……」といわれたのを覚えている。目が血走っていた。「引っこ抜いてもどうにもならんぞ……」といわれた。これは初心者にとって最大の恐怖だった。

 「引っこ抜いてもどうにもならんぞ……」

 今でもトラウマの言葉だ(にしては間抜けな響きだが)。

画像リンクのわな

 変なリンクを踏むからこういうトラップに引っ掛かる。最初から不用意にリンクを踏まなければいい。自業自得ではないのか。これは正論である。確かに、大抵は欲望が原因でわなにかかっていた。当時よくあったのは「エロかと思えばグロ」というパターンだった。

 十代の男というのは昆虫のように女の裸にむらがる生き物である。あの頃、私は女の裸を探して深夜に匿名掲示板を見ていた。とあるスレッドに画像URLがずらりと貼られていた。早速クリックした。すると死体の画像が表示された。これは本当に「ヒッ!」という声が出た。

 エロを期待してグロをくらうというのは本当によくあった。欲をかいて痛いしっぺ返しをくらうのである。話の仕組みとしてはイソップ童話と同じだが、とても絵本にはできない。

 そのうち学習して、画像URLを不用意にクリックすることはなくなった。まずは薄目をあけた状態でクリックし、ぼんやりした視界で画像を確認する。もしくは、めがねを外した状態で安全を確認してからめがねをかける。このどちらかのテクで対処していた。高校生なりに必死で対処法を模索していたのだ。そんなに女の裸が見たいか。

Flashのわな

 YouTubeが登場する以前、Flashで短い動画を作ることが流行っていた。だからFlash動画を利用したトラップもあった。当時よくあったのは、普通の動画かと思うと突然幽霊の顔が表示されるもの。これにも私は引っ掛かっていた。

 ネットを見ていると「このFlash最高」という紹介文とともにリンクが貼られている。タチが悪いことに、当時は実際に「面白いFlash動画」がたくさんあった。だから紹介文を疑わない。自然とクリックする。ページが表示される。ペインターで適当に描いたような稚拙な絵が出るだけの動画だった。BGMで宇多田ヒカルの『Automatic』が流れている。「なんだこりゃ?」と思ってしばらく見ていた。すると、「ギャーッ!」という叫び声とともに青白い女の顔が表示された。

 書いてしまえばバカバカしいほど単純な仕掛けだが、当時の自分は見事に引っ掛かり、幽霊と同じくらいの音量で「ヴァーッ!」とさけんでいた。放り投げたマウスがぶらんぶらん揺れていた。あれは本当に最悪だった。実家だから親には「どうしたの!」といわれるし、怖いわ、恥ずかしいわ、腹立たしいわで、まったく。

根拠のない悪意が怖かった

 今でもインターネットに怖い要素はある。例えば一般人が炎上して氏名をさらされる。あるいはクリック詐欺でカネをだまし取られる。これは「現世的な恐怖」だと思う。当時の恐怖はもっと曖昧なものだった。そこには「子供じみた悪意」しかなかった。金目当てではない。正義感や怒りによるものでもない。「人が驚くのは笑える」という、ただそれだけ。

 ネットをはじめてからの数年で、私はこの手のものに散々引っ掛かり、真夜中に1人で何度も叫び声をあげた。あの体験が「ネットは怖い場所だ」という考えのベースを作ったのだと思う。いまだにえたいの知れないURLを踏むときはめがねを外すし。

オレの知ってるネットと違う

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