2016年のPC動向を振り返って思うこと本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2016年12月31日 06時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 昨年(2015年)12月掲載のコラムを読み返してみると、次のように書き出していた。

 毎年、「PC/スマートデバイス動向を冷静に振り返る」というテーマで年末コラムを書いてきたが、2015年ほどテーマ性を見いだせない年はないかもしれない。「よい製品がなかった」と言いたいのではない。2014年から2015年、そして2016年につながる大きな流れ……すなわち、「メガトレンド」を見つけるのが難しかったということだ。

 今年(2016年)を振り返っても、Lenovoが意欲的にタブレットとPCの融合を「YOGA BOOK」で試みるなどのトライアルをしているものの、「PCトレンドの奔流」という視点で見ると、デバイスそれ自身に大きな変化はなかったように思う。

YOGA BOOK レノボ・ジャパンの2in1タブレット「YOGA BOOK」。タッチキーボードとしてもペンタブレットとしても利用できる「クリエイトパッド」を搭載する。さらに、クリエイトパッドの上に載せたメモ帳に書いた内容をリアルタイムにデータとして取り込むことまでできる

 実際、2016年に本連載で編集部が筆者に依頼した記事を振り返ってみても、Microsoftの開発者向け会議レポート「Surface Book」のレビューを除けば、純粋なパソコンの記事は「Touch Bar」を搭載した新型「MacBook Pro」についてのコラムだけだ。他はスマートフォンやIoT(Internet of Things)の話題である。

MacBook Pro フルモデルチェンジした「MacBook Pro」は、キーボード上部に搭載した「Touch Bar」が目新しい

 それ以外に2016年のPC業界で話題になったのは、「Surface Studio」に「Surface Dial」くらいだ。最も話題を呼んだのは、Windows 10無料アップグレード期間終了に伴う幾つかのトラブルだった。

Surface Studio 大画面の液晶一体型デスクトップPC「Surface Studio」と、画面上で回転させて操作する新しい入力デバイスの「Surface Dial」

 この状況を「つまらない」と捉えるのか、「落ち着いている」と捉えるのかは視点によるだろうが、筆者はパソコンという「商品のカタチ」が固まり、落ち着いてきたからだと考えている。

 こうした傾向は、必ずしもパソコン業界だけに起きているわけではない。急速に成熟が進んだスマートフォンやタブレット市場でも同じことが起きている。デジタル製品は一つのハードウェアカテゴリーだけに閉じて価値を提供するのではなく、クラウドを中心につながり、特定のカタチを持たずに進化し続けている。

 そうした意味では、単体のハードウェアの進化よりも、サービスやペリフェラルとの組み合わせ、あるいは定番ハードウェアに別要素を組み合わせたハイブリッド型の製品が生まれやすい環境にある。

 現在が次のイノベーションに向けての準備期間、過渡期であると考えるならば、Surface Dialが何を目指して、将来どのようにコンピューティング環境に影響を及ぼすのか。あるいはTouch Barという、まだ未成熟な提案に対してデベロッパーが反応するのかどうか。そうした視点の方が、2016年を振り返るにはふさわしいのかもしれない。

途切れたスパイラルと進化の行方

 ここで少し昔話をしよう。

 筆者がパソコンの記事を書き始めた90年代前半から後半にかけて、「スパイラルの原理」という言葉が業界内では広く知られていた。しかし、今ではこの言葉を誰も使わない。なぜなら、スパイラルは途切れてしまっているからだ。

 スパイラルの原理とは、Intelが「より高速なプロセッサを開発する理由、購入するべき理由」を説明する際に使われていた原理・原則のようなものだ。

 テクノロジーが進歩してマイクロプロセッサの性能が引き上げられると、そのパワーを活用した新しいアプリケーションが生まれる。しかし、その実行速度はギリギリ実現できるレベルであって実用性が低いため、新しいアプリケーションを快適に使いたいがゆえに、消費者は高速なパソコンに買い替える。

 その結果、市場が広がり、プロセッサへの投資が進み、もっと高性能なプロセッサが開発されることで、また新たなニーズを……と、繰り返しながら産業を取り巻くエコシステム全体が上昇していく。

 その様子を「らせん状に商品ジャンルが盛り上がっていく」という意味で、スパイラルの原理と名付け、Intelが高性能プロセッサのプレゼンテーションを行う際に訴求していた。

 いわゆるマーケティング用語の一つだが、実際に市場はそのように動き、新しいプロセッサが登場する度、新しいアプリケーションが生まれ、それが次世代プロセッサへの要求が高まるという連鎖を引き起こした。

 この連鎖にほころびが生まれ始めたのは、90年代も終わろうとしているときのことだ。低消費電力版のMMX Pentiumプロセッサが開発され、当初は市場からの理解を得られなかったものの、主に日本でミニノートPCが作られるようになった。

 このころはまだ、低消費電力のプロセッサは主流ではない。ひたすらに高性能を求め、高性能であれば、あらゆる問題が解決すると考えられた時代である。消費電力の低いプロセッサは一般的にパフォーマンスの絶対値に制約があるため、高性能化こそがパソコン市場にとって重要であるとの考え方のもとで、小さなほころびはその後何年もの間、無視され続けていた。

 Intelがその考えを改めるのはずっと後のこと。開発コード名でBaniasと呼ばれるプロセッサ(製品名:Pentium M)を開発した2003年のことだった。

Pentium M 2003年にIntelが発表した「Centrinoモバイルテクノロジ」は、プラットフォーム全体でノートPCの消費電力低減を進めるものだった。その核となっていたのが、CPUのPentium Mだ
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