フランスがモデルの「Photoshop」加工に規制――世界に広がる「美」再定義のムーブメント

» 2017年11月29日 06時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 企業の宣材写真に写るモデルの体形を、「Adobe Photoshop」などのソフトを使って加工することへの批判が世界中で高まっている。フランス政府は10月、レタッチに関する「新たな法律」を施行した。米国のフォトストックサービス大手、Getty Imagesもサービスの利用規約を見直す。今、世界で何が起こっているのか――。

フランスは法律で「レタッチ」明記 「Getty Images」も追随

 フランス政府は10月1日、企業が広告などで使用する全ての画像を対象に、被写体であるモデルの体形を実際よりも細くあるいは大きく見せるレタッチ(補正)を施した場合、制作物に「Photographie retouchee」もしくは「Retouched photograph」(仏・英表記。どちらも「レタッチされた写真」の意)と明記することを義務付ける新法律を施行した。

 対象となる「レタッチ」の範囲は主に体形で、髪や肌の色、鼻の形状、傷やシミなどのレタッチは問題ないとされているが、違反した企業には、最大で3万7500ユーロ(約500万円)、もしくはその広告にかかった全費用の30%に相当する罰金が課せられる。

 フランス政府による新法律の施行に合わせて、米国のフォトストックサービス大手の「Getty Images」も、Photoshopでモデルの体形をレタッチした画像の掲載を今月から禁止し、利用規約を変更した。

 同社は、「フランス政府の新法律施行に伴い、10月1日より画像の掲載要件を変更し、モデルの体形をレタッチした画像を禁止する」と素材提供者に対し通知した。

【訂正:2017年12月5日午後6時 掲載当初、掲載画像について「ウエルカムページのもの」としておりましたが、正しくは素材提供者に向けた通知内容でした。おわびして訂正いたします。】

Getty Imagesの素材提供者に向けた通知内容(RE: Important Information on Retouched Images - Legal Update

 こうしたフランス政府やGetty Imagesの動きは、企業はもちろん、モデルやPhotoshopをあつかうデザイナーの仕事にも影響を与えることが容易に想像できる。

 デザイナーの仕事は減り、レタッチする必要のない、自然なままで既に完璧な体形を備えたモデルに仕事の依頼が舞い込むようになるのか――。しかし、どうやらそうとも言い切れないようだ。

レタッチ禁止の背景にあるのは「間違った美意識」

 「レタッチ禁止」の動きの背景には、若い世代の「不健康な美意識」に対する、モデル業界、消費者たちの危機感がある。

 Photoshopなどでレタッチされた非現実的なモデルの体形を理想と捉え、「自分もそうであるべきだ」と受け止めてしまい、過度なダイエットに走ってしまう若者の増加が、近年問題視されているのだ。

 フランス通信社(AFP)によると、同国では60万人もの若年層が無理のあるダイエットに伴う「摂食障害」に悩まされており、15〜24歳の死因として交通事故に次ぐ第2位にまでなっているという。

 フランスでは、「痩せすぎモデル」の問題に関する議論が以前から活発化しており、2017年5月には、極端に痩せているモデルの活動を禁止する法律も施行されている。

 9月には、同国発のハイブランド、ルイ・ヴィトンやセリーヌを運営するLVMHと、グッチやイヴ・サン=ローランなどを保有するKeringが共同で、「サイズ・ゼロ(痩せすぎの意)」モデルの起用を止める方針を打ち出したばかり。

LVMHとKeringが「サイズ・ゼロ」モデルの起用停止を共同で発表

 これまで良しとされていた細い体形のモデルの起用が、こうした国や大手ブランドをも巻き込む社会問題と化しているのだ。

 つまり、完璧な体形を備えたモデルへの需要が高まるとは言い切れず、むしろ「美」の定義が見直されつつあると考えたほうがよさそうだ。

リアルな美とダイバーシティーが求められる時代へ

 痩せすぎモデルやレタッチされた“完璧な”モデルに代わり、今若者の熱視線を集めているのが、「リアルな体形」のモデルたちだ。

 9月にニューヨークで開催された、ニューヨーク・ファッション・ウイークのイベント「スプリング2018」では、スタイルの一様に整ったモデルではなく、さまざまな体形や人種、年齢、性別の人々が“モデル”として起用され、話題を呼んだ。

 中には、男性・女性という性別の枠に捉われない、「ノンバイナリージェンダー」のモデルもいたという。

モデルのダイバーシティーが話題となったニューヨーク・ファッション・ウイークの「スプリング2018」(ニューヨーク・ファッション・ウイークのInstagramより)

 また、SNS上のインフルエンサーたちの存在感の高まりからも、人々が「リアルな体形」を求めていることが伺える。

 例えば、写真共有アプリ「Instagram」で100万人以上のフォロワーを持つ米国のインフルエンサー、アリエル・チャーナスさんは9月、ファッションブランドとコラボレーションし、ライブ販売を実施した。

 アリエルさんが身に着けていたアイテムの売上が24時間で約100万ドル(約1億1200万円)を突破するなど、その影響力は驚くべき大きさとなっている。

Instagramで告知したライブ販売は100万ドル超の売上となった(アリエル・チャーナスさんのInstagramより)

 これまでは、有名ブランドの服を着こなしたいがための過度なダイエットやレタッチによって得られた完璧な体形など「作られた美」が広く受け入れられてきた。しかし、今後は自分たちにより近い「リアルな美」がメインストリームになっていくのかもしれない。

ライター

執筆:中井千尋(Livit)

編集:岡徳之(Livit)


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