6億台のPCで使える「Cortana」がAIアシスタント競争に苦戦する理由鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2018年01月13日 06時00分 公開

スマートスピーカーで出遅れたMicrosoft

 スマートスピーカー市場において、MicrosoftがAmazonやGoogleより遅れていることは否めない。

 Microsoftは2016年にはWindows 10 IoTを使ったCortanaの組み込み機器への搭載を目指して準備を進めてきた。しかし、2017年10月にようやくHarman Kardonとの提携によるCortana対応スマートスピーカー「Invoke」を米国で発売できたという段階だ。

Invoke MicrosoftとHarman KardonによるCortana対応スマートスピーカー「Invoke」

 今後はAmazon Echo Show(やGoogleのSmart Display)に対抗するため、Cortana対応ディスプレイ搭載デバイスを製品化する計画もあるとうわさされるが、AIアシスタントにおける横の広がりという意味では、まだスタート地点にさえ立てていないと言える。

音楽というキーピースを失ったCortana

 Cortanaの不安材料はそれだけではない。

 2018年初の連載記事で、現状のスマートスピーカーの用途が「音楽ストリーミング」に依存する部分が大きいことに触れた。個人差はあるにせよ、現状で「音楽」という要素がスマートスピーカーとは切っても切れない関係にあると考えている。

 しかし、Cortanaは音楽について幾つかの重要なピースが抜け落ちており、コンシューマー向けのAIフロントエンドを語る上でライバルの後じんを拝している。

 かつてMicrosoftは「Zune Music」や「Xbox Music」の名称で音楽ダウンロードサービスを提供し、これらを後に「Groove」ブランドに統合してWindows 10プラットフォームの音楽ストリーミングサービスとしたが、Grooveも2017年末でサービスを終了している。

 Microsoftが代替サービスとして指定したのは、Grooveの終了に合わせて提携を発表した「Spotify」だ。

 米Neowinによれば、Windows Insider ProgramのFast Ringユーザー向けに提供されているWindows 10 Insider Previewの「Build 17063」において、CortanaからSpotifyの制御が可能なコマンドが確認されているという。

 順当にいけば、このコマンドが一般に開放されるのはWindows 10の次期大型アップデート「Redstone 4(RS4)」が配信される2018年4月以降になるとみられる。

 このように、競合他社が独自の音楽やコンテンツの配信プラットフォームを擁しているにもかかわらず、Microsoft自身はコンテンツを持たない状況にある。

 実は、これに呼応する形でCortanaが失ったもう1つの機能が「音楽認識」だ。Cortana開発チームの1人であるジェイソン・ディーキンス氏の1月3日のTwitterへの投稿によれば、Groove Musicの終了に合わせてCortanaの音楽認識機能の提供も終了したという。

 これは、ラジオや周囲の音楽をCortanaが聴くことで何の曲かを認識し、適切な楽曲情報へとユーザーを誘導する仕組みだ。購買行動や宣伝にも結び付く導線として、オンラインストアでは非常に注目されている仕組みでもある。

 しかも悪いことに、Windows 10では同じ音楽認識機能を提供する「Shazam」アプリがWindowsストアから2017年初頭に削除された他、このShazam自身も2017年末にAppleが買収している。

 ShazamはAndroidとiOS向けにアプリを提供しているが、Appleは買収したサービスを終了して自社向け専用の付加機能とすることがほとんどのため、実質的にMicrosoftは音楽認識機能を求める場合、Shazam以外のソリューションが必要だ。Shazamはこの分野では最大手であり、音楽という重要な導線をMicrosoftは失ってしまった。

 Appleはスマートスピーカー製品自体の投入ではMicrosoftよりさらに遅れているものの、iPhone標準アシスタントとして広く普及している「Siri」に加えて、音楽ストリーミングや音楽認識といったMicrosoftが失ったものを有している。

HomePod Appleの「Siri」対応スマートスピーカー「HomePod」。米国などで2018年初頭に発売予定(日本での発売は未定)

CortanaとDynamics 365の連携は断念

 Cortanaの機能縮小でもう1つ話題となっているのが、ERP(統合基幹業務)とCRM(顧客情報管理)を統合したクラウド型業務アプリケーション「Microsoft Dynamics 365」との連携断念だ。

 この連携機能はプレビュー版として提供されていたが、MicrosoftのDynamics 365 Team blogは1月5日の投稿で、最終的に機能連携の提供を断念したと伝えている。

 米MSPoweruserによれば、既に削除されたDynamics 365の機能提供ロードマップの説明書きには、営業のアクティビティーやアカウントの情報などを統合することで最適な人材を抽出する機能など、AIアシスタントとしてのCortanaの機能を大幅に強化する仕組みの開発が進められていたようだ。

 米ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏は関係者の話として、「Dynamics 365とCortanaでコンタクト情報の連携が行えなかったこと」「CortanaがActive Directoryと連携できなかったこと」などを挙げており、コンシューマー志向のCortanaとエンタープライズ向けソリューションの間にある溝の深さをあらためて浮き彫りにした。

 AIアシスタントとしてのCortanaは、コンシューマー向けとしてもエンタープライズ向けとしても秀でることができず、どっちつかずの状態にあるのが弱みかもしれない。

 コンシューマーでは搭載デバイスや機能連携が鍵となるが、現状ではAlexaやGoogleアシスタントの方がリードしている。さらに、エンタープライズでの現状がジョー・フォリー氏の指摘する通りであれば、恐らくCortanaをMicrosoft全体のクラウド戦略の中心に据えるのは難しい。

 実際、最近のMicrosoftはフロントエンドよりもAzureやOffice 365といった、どちらかと言えばバックエンドに近い部分を重視する傾向が強い。Windows 10 PCの枠組みを超えたCortanaの展開が弱いのは、こうした同社の戦略を反映したものと思える。

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