2018年も“伝説のアナリスト”、メアリー・ミーカー氏がIT系の数字から見たテクノロジー業界の展望を語る「インターネットトレンド(INTERNET TRENDS)」を発表しました。
ミーカーさんは元Morgan Stanleyのアナリストで、現在は米有名ベンチャーキャピタルKleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)のパートナーです。なんと、この年次レポートは今年で23回目。毎回200枚以上(今年は294枚)のスライドを猛スピードで切り替えながら約30分でトレンドについて語ります。膨大な調査データからミーカーさんが何をピックアップしてどうまとめるかに、IT業界の人々は毎年注目します。
全てのスライドを最初からがーっと見ていくと、何だか今のテクノロジー業界の状況が分かるような気がします。ただ、何しろスマートフォン市場やらAIやら中国動向やらプライバシーやら話が広範なので、この「ITはみ出しコラム」では筆者が注目したポイントだけご紹介します。
検索サービスへの広告が主な収入源のGoogleが「Googleアシスタント」で直接買い物ができるeコマースサービスも手掛けるようになっている一方、eコマースのAmazon内で検索するとスポンサード製品(つまり広告)が表示されるようになりました。Amazonの広告収入は前年比42%増の40億ドルだそうです。総売上高(1779億ドル)に占める割合は小さいですが、伸びています。
検索サービスとしてのGoogleを脅かすのはAmazonだけではありません。Facebook、Instagram、Pinterestなどのソーシャル系サービスで欲しいものを見つけてそれを買う人が増えています(私のまわりにもそういう人が多いです)。
下の左のグラフは、購入した商品をどこで見つけたかという質問への回答が多かったサービスのランキング、右はソーシャルサービスで見つけた商品を購入したと答えた人の割合です(米国の18〜34歳が調査対象)。Facebookは78%と高いです。さすが、「いいね!」で集めたユーザーデータを高度なAIで解析しているだけのことはあります。
いかにユーザーの情報を集めて、好みを把握して、それに合った情報を(広告としてであれコンテンツとしてであれ)提供できるかが勝負所になっています。ミーカーさんによると、米国の顧客満足度指標ACSIの満足度平均は77%のところ、Amazonは85%、Googleは82%だそうです。
両社はデータ解析のAI(人工知能)分野でも競合しています。今後はよりたくさんユーザーデータを集められて、それを解析できる高度なAI技術を持つ企業が勝つと考えられます。
EU(欧州連合)がGDPR(一般データ保護規則)を施行したことで、ユーザーデータの収集はこれまでより難しくなっていくかもしれませんが、ミーカーさんによると、自分のメリットになると分かれば消費者の79%は喜んで自分の個人情報を提供するそうです。
GDPRは「個人情報を集めるなら目的を消費者に分かるように説明しなさい」という規則(それだけじゃないですが)なので、うまくやればそれほど心配なさそうです。
EUは「世界中がうちのGDPRを見習いなさい」と言っていますが、中国はどこ吹く風です。そして、10億人以上の人口を擁し、ネット人口は7億人以上。集められる個人情報は膨大です。
世界全体で見ればユーザー数が多いのはFacebookとGoogleですが、国別では中国のTencentとAlibabaがトップだとミーカーさん。そして、中国の消費者は他国より、メリットのためなら喜んで個人情報を提供するそうです(日本は低いですね)。
中国はAI研究に注力しているので、この膨大な個人情報を先端AIで解析すれば、どんどん顧客が喜ぶサービスを提供できそうです。ミーカーさんは、Alphabetのエリック・シュミットさんの「米国はあと5年はAIでトップを走れるが、中国がすぐに追い付くだろうう」という言葉を引用して説明しました。
下の画像は、5月29日の世界での市場価値トップ20です。米国と中国の企業がほぼ半々なのにはちょっとびっくりでした。
最後に294枚のスライドを貼っておこうかと思ったのですが、ミーカーさんの解説付きの方が分かりやすいので、講演の録画YouTubeを貼ります。スライドはKPCBのサイトにあるのでそちらをご覧ください。
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