激化するオンライン vs. リアル店舗のはざまでMicrosoftが生き残るためには鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2018年12月28日 12時00分 公開

 話をPCに戻すと、Best BuyにおけるPC事業は“店舗内店舗”を使ったメーカー製PC販売と“家賃収入”、Geek Squadを使ったPCサポート、そしてGoogleの店舗内店舗にあるChromebook関連のビジネスだ。サポートビジネスを除けば、あくまでショウルームという位置付けに過ぎない。

 Best Buyの長年のライバルはAmazon.comのようなオンライン事業者であり、同社もまたオンライン事業を強化している。特にここ2〜3年で流通が劇的に改善されており、注文から到着までの日数が2分の1から3分の1程度まで短縮されているという報告もある。

 だが、こういったスタイルも数年後にはどうなっているか分からない。iPhoneの販売不振がささやかれ、米中の貿易戦争で携帯電話業界に冬の時代が到来する予兆が見え始め、人気だったAppleコーナーやスマートフォンコーナーの集客力が落ちつつあることが指摘されている。

 Best Buy自身の業容の変化もあり、各メーカーにとってのBest Buyのストアフロントとしての役割はしだいに縮小してくるかもしれない。実際、Reutersの報道によれば、11月第4木曜日の感謝祭直後にやってくる「ブラックフライデー」においてオンラインでの売上が23ポイント上昇した一方で、既存のリアル店舗での売上は4〜7ポイント程度縮小したことが報告されており、人々のリアル店舗離れの傾向は年々強まっている。

Amazon.comとの戦いはPC市場をどう変化させる?

 オンライン事業者とリアル店舗との戦いは、今後もさらに激化が続く。PC以外で最近ホットなのは医薬品分野での動きで、米国ではAmazon.comが2018年前半にPillpackというオンライン医薬品販売事業者を買収してこの分野へと参入すると、最大手のWalgreensは12月になってFedExとの提携で1日以内の配送サービスを提供することで対抗した。

 日本でも2020年度をめどに、店頭での対面指導なしで処方箋に基づいた医薬品の販売を可能にする法整備が進んでいるが、おそらくは米国でのケースと同様に既存事業者と新規参入事業者との間で、オンラインサービスを介在させての競争が始まることが予想される。

 PCなどの家電の世界でも、例えばヨドバシ.comを運営するヨドバシカメラでは配送や取り置きサービスでAmazon.co.jpなどの事業者との差別化を図っており、オンライン販売戦略は小売にとって重要な位置を占めつつある。

 すでに「オンラインでPCを購入しているよ」というユーザーには関係ない話かもしれない。だが店頭でのPC購入窓口が縮小することは、将来的にPC市場のさらなる縮小へとつながっていく。

 少なくとも、これまで店頭に出向いてPCを選んでいたようなユーザーの足は遠のき、それよりはスマートフォンなどの端末にシフトするのだと筆者は考える。MacやThinkPadのように既存の熱心なファンがいて、カスタマイズを施してまで高額な製品を購入するケースではあまり問題がないのかもしれない。

 ところが、今後ストアフロントの消滅により一般へのアピール機会を失っていく中、PCはどうやって自身の特徴をアピールするのかが大きな課題となる。単純に考えればスペックだけで横並び比較され、一部のハイエンド製品を除けば「スペック」「価格やOfficeの有無」をオンライン上で比較して購入ボタンを押すだけの商品となり、個性に乏しいそこそこの価格の製品ばかりになってしまうかもしれない。

Microsoft 東京と大阪、福岡の一部店舗では、24時間いつでも購入製品を受け取れるサービスを提供しているヨドバシカメラ

 いずれにせよ、コンシューマー市場をターゲットとするPCメーカーにとって冬の時代が到来しつつあるのは確かだろう。PCも、より個性的あるいは「学生向け」などターゲットを明確化したうえで流通やマーケティングを展開しなければ、縮小する市場の中で一般層への足がかりを失いかねない。

 実は、この点で興味深い動きを見せているのが「Surface」で、「Surface All Access」はユーザーを自社製品につなぎ止めつつ、導入後も継続的に収益を得られる可能性を秘めたPCメーカーにとっての秘策ともいえる。

 Surface All AccessはSurface関連製品を24カ月分割払いで購入するサービスで、18カ月に達した時点でデバイスを返却することを条件に、残債を支払うことなく新しいSurfade製品へと乗り換えることが可能な仕組みだ。

 AppleもiPhoneで似たようなサービスを展開しているが、メーカーがユーザーと直につながることが可能な新しいチャネルの1つと言える。「PCaaS(PC as a Serive)」または「DaaS(Device as a Service)」などとも呼ばれ、DellやLenovoでは企業向けのメニューを用意している。Microsoftのサービスも元々企業ユーザー向けに「Surface Membership(現在はSurface All Access for Business)」の名称で提供していたものだが、後に対象を一般層や学生へと拡大している。

 なお、残念ながら日本ではまだ提供計画が発表されていない。

Microsoft 米国でMicrosoftが展開中の「Surface All Access」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー