AmazonのメッシュWi-Fiルーター「eero」買収が意味することITはみ出しコラム

» 2019年02月17日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米Amazon.comがメッシュWi-Fiルーターのメーカー、米eeroを買収しました。これで、スマートホーム事業でライバルのGoogleにあってAmazonにはなかった重要なピースが埋まります。

eero Amazon傘下になったメッシュWi-Fiルーター「eero」

 家庭内で「Amazon Echo」や「Google Home」のようなスマートスピーカーに話し掛けてスマート家電を操作するには、同じWi-Fiネットワークにつながっていないといけません。例えば、1階のキッチンにあるAmazon Echoに2階の子ども部屋のスマートブラインドを上げさせるとか、リビングのEcho Dotから玄関の鍵をロックするとか、広い家だと1つのルーターでカバーするのは困難です。

 そこで、メッシュWi-Fiルーターの出番となります。文字通り、Wi-Fiネットワークをメッシュ(網の目)状にはりめぐらすためのルーターです。複数購入して家の要所にセットし、1つの広いWi-Fiネットワークを手軽に作ることができます。

 今回Amazonが買収したeeroは、モデムに直接つなげる199ドルのメッシュWi-Fiルーター「eero」と、コンセントに直接差して無線中継するための149ドルの「eero Beacon」を販売しています。

eero 「eero」(左)と「eero Beacon」(右)
mesh eeroの利用イメージ。複数台を組み合わせることで、広い家でも隅々までWi-Fiが使えるように

 米Googleは2016年10月に「Google Home」と一緒にメッシュWi-Fiルーターの「Google Wifi」を発表、同年12月に1台129ドルで発売しました。日本でも1万5000円(税別)で販売しています。

Google Wifi こちらは日本でも販売中の「Google Wifi」

 米国でのスマートスピーカーの発売はGoogleよりずっと早かったAmazonですが、スマートスピーカーを家庭内のどこでも使えるようにするための環境作りでは、後発なだけにGoogleが周到でした。

 Amazonはeeroの買収により「顧客がスマートホーム端末をより手軽に接続できるように支援」できるとしています。ちなみに買収の条件や金額は公表されていません。

 今回の買収についてシンプルに考えると、AmazonはこれでEchoを買おうとしている顧客に「広い家にお住まいならご一緒にeeroもいかがですか?」と勧めて、他社のルーターでつながらないトラブルなどを未然に防げる、ということになります。ユーザーとしても簡単にメッシュWi-Fiが構築できれば助かります。Amazon傘下になったことで、Google Wifi対抗のために値下げされるかもしれません。

 eeroのニック・ウィーバーCEOは「Amazonの一員になることで、家庭の未来を定義する(Amazonの)チームから学び、世界中のより多くの顧客にeeroの製品を提供できるようになることを楽しみにしている」と語っているので、当面はeeroブランドを存続させるようです。

Amazonにより個人データが集まることにも……

 一方、ちょっとネガティブに考えると、GAFAによる個人データの独占が注目される最近の流れの中では、「またAmazonに個人情報が集まるのか」という見方もあります。

 eeroは家の隅々までネットワークを張り巡らすために、TrueMeshというアプリの「ダイナミックルーティングアルゴリズム」を使うのですが、このアプリは「数十万軒の実際の家から収集したデータと機械学習」で開発したとあります。

 eeroを使ったら「自分の家のデータもこの数十万軒に追加されるのか。それがごっそりAmazonに持って行かれるのか」と思うかもしれません。実際、Amazonがeeroの買収を発表したとき、そうした世間の反応もありました。

 eeroはすぐに、「eeroは顧客のネットでのアクティビティーを追跡していないし、買収によってポリシーが変わることはない」と公式アカウントでツイートしました。これまでeeroを使っていたユーザーの情報がそのままAmazonに渡るわけではなさそうです。

 でも、本当にそうでしょうか? Amazonのeero買収発表の前日、米Bloombergに気になる記事が出ていました。「あなたのスマートライトはAmazonとGoogleに、あなたがいつ寝たかを報告できる」というタイトルです。

bloomberg 米Bloombergの記事

 AmazonもGoogleも、音声アシスタントでサードパーティー製のスマート製品を操作した場合、これまでは操作のデータを集めてきました。例えば、Alexaに呼び掛けて、スマート電球をつけたり、スマートテレビでAmazonプライムビデオを見たり、といったデータです。

 それが今、サードパーティーに対して「もっと連続したデータを提供」するように言っているというのです。つまり、スマート電球をAlexaで操作できるように設定したら、Alexa以外の手段で電球をつけたり消したりしたデータも、スマートテレビだったらAlexaではなくリモコンで操作した履歴のデータも、Amazonに提供するようにと。

 あらゆる家電をAlexaで制御できたら便利ですが、あらゆる行動がAmazonに把握されるのは困りものです。いつ家に帰ったか、いつ寝たか、いつどんな番組を見たか、いつどんなおかずを温めたか……

AmazonBasics Microwave AmazonはAlexa対応の電子レンジ「AmazonBasics Microwave」も出しています(日本では未発売)

 AmazonはBloombergに対し、「ユーザーデータを販売したりしないし、家電の操作を記録したステータスレポートの情報は広告に利用していない」と言いました。ステータスレポートの目的は、顧客にとって便利な機能を提供すること、としています。

 ステータスレポートを提供したくなければ、これまでAlexaで便利に操作していた製品のAlexaとの接続を切るしかありません。最初から「全ての行動を収集する」と言ってくれれば、使わなかった人もいることでしょう。最初は少しの要求で、手放せなくなったころに要求を増やすのは、何だかずるいと思われるかもしれません。

 この変更が、どんな形で発表されるのか、気になるところです。そっとアプリの更新で追加されるのか、「プライバシーポリシーを更新しました」で済ますのか、どういうことかをちゃんと説明してくれるのか。

 今回に限らず、便利な暮らしとプライバシーのバランスは個人が選べるようにしておいてほしいです。AmazonとGoogleは、少なくともどこかのSNS企業よりは透明性を持っていると思うのですが。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  4. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  5. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  6. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  7. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  8. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  9. ゼロからの画像生成も可能に――アドビが生成AI機能を強化した「Photoshop」のβ版を公開 (2024年04月23日)
  10. MetaがMR/VRヘッドセット界の“Android”を目指す 「Quest」シリーズのOSを他社に開放、ASUSやLenovoが独自の新ハードを開発中 (2024年04月23日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー