行き過ぎた利潤追求で、ここ数年、乱れてしまったのはオンラインニュースや動画コンテンツばかりではない。やらない人には分からないかもしれないがゲームの世界も同様だ。
実は現在、iPhoneやiPadといったiOS機器には30万本のゲームアプリがあり、利用者数も含めてゲーム専用機すらを超える世界最大のゲームプラットフォームになっている。
かつてはほとんどのゲームがお金を払って購入する買い切り型のビジネスモデルを採用していたが、やがてゲーム中に広告が表示されることが増え、Appleが追加課金の仕組みを導入してからは、ダウンロードする分には無料だが後から過剰に追加購入を促すゲームが増えた(お金を払えば払うほど、全世界の競合プレイヤーたちに対して有利になれるゲームなど)。
例えば、1回プレイするごとに数十秒間広告を見せたり、新しいアイテムやポイントを買わないかとユーザーに促したりする、過剰に利益を追求するゲームメーカーが、場合によっては毎月ゲームのために大金を支払うゲーム中毒者を生み出すような事態も引き起こしていた。
Apple Arcadeは、本来楽しいはずのゲーム体験を著しく阻害するような事態を是正し、もう1度、良質なゲーム文化を再構築しようとする試みとなっている。Appleが有望なゲームメーカーらに投資し、毎月固定の購読料を支払えば100本以上に及ぶ良質なゲームコンテンツを、広告や追加購入を促すことなく思う存分楽しめるという仕組みだ。登録すればiPhone、iPadといった機器をまたいでプレイでき、飛行機内などのインターネット接続がない場所でも楽しめるという。
毎月固定の料金で何十種類ものゲームが遊び放題、といったサービスはこれまでになかったわけではない。だが、そうしたサービスで提供されているゲームは、質が高くなかったり、プレイ中に広告を見せられたりといったことが少なくなかった。
だが、Apple Arcadeが提供する100本以上のゲームは、例えば、ファイナルファンタジーのクリエイターが、大掛かりな撮影セットを組んで実写と組み合わせて作った冒険ものといった具合に、1本1本しっかりとコストをかけて作ったものが中心になるという。
ゲームの世界でも、Appleはそこに本来あった文化を尊重し、行き過ぎた利潤追求で生まれたゆがみを是正しようとしているのだ。こうした姿勢に、先ほど出した「ノブリス・オブリージュ」という言葉を読者にも感じてもらえるのではないかと思う。 そして、コストをかけた良質なコンテンツであるにもかかわらず過剰な広告や追加料金を必要としないApple Arcadeとの競合を迫られることで、そこに加われなかった競合ゲームクリエイターが、いま一度襟元を正し、利潤追求よりもユーザーを楽しませることの重要さを考え直してくれるようにと願うばかりだ。
私たちは資本主義の世界で生きており、企業で働く人々は株主から少しでも大きな利益をあげることが求められている。そうした中、利用者の使い勝手や本来あるべき楽しみまで忘れて、過剰に利潤追求が進んできたのが、昨今の電子マネーや、マスメディアや、ゲームの世界の問題だった。
そこにAppleという世界一資金を潤沢にもつ企業が、その資本力を投じることで、もう1度、それぞれのサービスに本来の良さを取り戻そうとする姿勢――そこに筆者は“ノブリス・オブリージュ”を感じずにはいられない。
Appleが顧客中心主義を前提に再構築したこれらのサービスが成功してくれれば、おそらく、それによって競合も顧客中心主義を取り戻さざるを得ない状況ができるのではないかと期待している。これら4サービスの成功を祈るばかりだ。
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