パスポートの出国記録を見てみると、1997年6月とある。この時、僕は台湾を訪れ、COMPUTEX TAIPEI の撮影をし、同時に台北の郊外にあったASUS(ASUSTeK Computer)の見学をしたのだ。
もう20年以上前のことだから、記憶も曖昧だが、1つだけ印象に残っていることがある。
「あちらが創業者のうちの一人です」
ASUSの広報担当が指さす先には、会議机の前で若手の技術者たちと設計図を前に、にこやかにディスカッションする壮年の、白衣の男性がいた。
ASUSという会社は、色々な会社をスピンアウトした技術者集団だということは聞いていた。創立数年にしてマザーボードメーカーのトップに上り詰めていることも。
もう成功を手にしたのだから、若手に偉そうにしてもいいだろうと思うのだが、彼は意に介さない。好きなものは好き。若い奴から情報を得ようと必死になっている感じだった。
この技術者魂が、今のASUSを支えているのだろう。
僕はこの会社に好印象を持った。いずれ何かブームを起こしてくれるのだろうと。
あれから数十年。彼らはマザーボードから始まってグラフィックスカード、NAS、スマホ、そしてノートPCの分野には当然のように進出していた。「ZenBook」はそのクオリティーの高さから日本国内でもかなりの支持を得たと思う。実際、公園で就活中の女子大生がASUSのノートPCを使っているのを目撃したときは、何か感動さえ感じたのだ。
そのASUSが創立30周年を迎え、さまざまな記念モデルを発売するという。いつも通りスタジオのセットをしてPCを待つ。出てきたノートPC「ROG Strix G G531GW」は想像を超える代物だった。
30年もPCを撮影しているが、こんなPCは見たことがない、というのが最初の感想だ。形こそノートPCだが、細部のこだわりが半端ない。天面の2つのヘアライン。アトランダムのような、荒い、しかも深いヘアラインだ。オールプラスティックなのに金属に見えるのはかなりのこだわりの仕上げだ。
ゲーミングPCというカテゴリーで発売されているのだが、僕にはそうは見えない。LEDが付いていてけばけばしく、それらしい雰囲気もあるのだが、それを消してしまえば、何か別世界のギアにも見える。
PCゲームをターゲットにしているからCPUとGPUは最高のものを搭載している。つまり現時点で最高クラスのスペックのPCということだ。
僕はゲームをしないが、このROG(Republic of Gamers)なら、普通に仕事に使えそうな気がする。相手を威圧するようなデザインでもないし、なによりカッコいい。会議室でPCを前に、クライアントと打ち合わせをしているシュチュエーションでも何の問題もない。
僕はこのPCを見たとき、昔乗っていたバイク、SUZUKI GSX750S KATANAとGS650S KATANAを思い出したのだ。これは絶対ドイツのデザインだと。刀の切れ味に近いデザインだったから。聞いてみるとこのPCもBMWのDesignworksとコラボレーションしているとのこと。全て合点がいった。
KATANAのデザインをしたハンス・ムートはBMWのデザイナーだったのだ。彼のデザインは「今までに無いようなもの」を生み出すものだった。それまでにない昆虫のようなフォルム。未来感があふれるデザインに僕らは感激した。
たぶん新しいゲーミングPCの幕が開けたのだろう。派手なだけではだめだ。もっとスマートになろう、という主張が聞こえてくる。このエッジの効いたデザインは今後のPCの主流になっていくかもしれない。
うれしいのは背面に排気口が2つあって、そこに銅のフィンが見えること。それは昔は当然のことだった。CPUとGPUを冷やすわけだから。そこに熱伝導率の良い高価な銅を使うのは誇るべきことだったのだ。
最近のノートPCは排気口を隠したがる。液晶ディスプレイの下に細い排気口を作り、スタイリッシュなPCを演出したりする。
しかしこのROGの思想は全く違う。裏ぶたを開けてみて分かったのだが、銅のヒートパイプがこれでもかと張り巡らされている。その先には2個の銅のフィン。そこを吹き付ける大型のツインブロワーファン。圧巻だ。一昔前のPCを見ているような錯覚さえ覚える。
これだけの銅を使って、このボディーで2.4kgぐらいの、普通に運べるぐらいの重量に収めているのはさすがとしか言いようがない。
外から銅(copper)が見えるとうれしい人たちのことを、よく理解しているのがASUSという会社なんだな。
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