Microsoftは現在、オフィス向けサービスの主軸として「Microsoft Teams」の開発とプロモーションに力を入れている。Teamsはチームコミュニケーションツールであり、Slackの対抗馬といえるツールだ。「Microsoft 365」に含まれており、導入企業にはハードルが低いこと、2018年8月より無償版アカウントの提供が開始されたことなどから、利用者が増えている。
6月の渡米時に、アメリカのMicrosoft本社を訪れた。そこで、Teamsの開発中の機能についてデモンストレーションを受けたので、今回はその話をしたい。
Teamsの最大の特徴は、Microsoft Officeとの連携が重視されていることだ。WordやExcel、PowerPointの書類を共有できるのはもちろんのこと、Web版のMicrosoft Officeとも連動するので、文書の内容をコミュニケーションの中で参照・編集しながら議論がしやすい。Webブラウザーからも使えるし、アプリも用意されている。OSも、WindowsからMac、iOSにAndroidと環境を選ばない。
特にこれから重視しようとしているのが、「ビデオ会議」だ。文章でのチャットはもちろんだが、ビデオ会議をうまく組み合わせ、その記録を残していくことで、会議の価値を上げようとしている。
一方、会議は時間がかかるものだ。チャットなどでの意思決定やメールが便利であるのは、何が行われたのかを確認するのに時間が掛からない、という事情が大きくはないだろうか。MicrosoftがTeams+ビデオ会議というソリューションを重視しようとしているのはこの「時間がかかる」という部分に一定の解決策が見えてきたからだ。
同社は、音声やビデオの分析技術を持っている。クラウドサービスであるAzure上で既に展開している「ビデオインデックス」機能を使えば、映像の中で話されたことを音声認識してテキスト化し、さらに登場人物を見分けた上で、「話題」や「登場人物」ごとにインデックス化して、クリック1つでその場所に飛ぶ……、といったことを実現している。この技術をうまくTeamsに組み込んでいくのだ。
そうすれば、ビデオ会議の議事録の作成担当者は不要になる。キーワードで必要な部分だけを検索することもできる。自分の名前でミーティングを検索し、自分に関連する部分だけをチェックしたり、特定の案件についての話題を改めてチェックしたり……といったことが可能になるわけだ。
さらに、ビデオ会議とMicrosoft Office文書との連携も強化しようとしている。現在も、プレゼン資料などを参照しながら会議をするのは珍しくないが、ビデオ内部に持ち込み、検索機能と組み合わせて、より分かりやすい形を目指している。
ポイントは何より、これが「Teamsというビジネスチャットツールの中にある」ということだ。
ビジネスチャットの世界は競争が激しい。Slackという巨人に追いつくのも大変だ。一方、コミュニケーションは文字だけで行われるわけではない。マシンラーニングをベースとしたコグニティブサービス、という強みを生かした差別化をしようとしているのである。
ビデオ会議のテキスト化と検索については、現状英語での対応がアナウンスされている段階だ。だが、Microsoftのコグニティブサービスは日本語にも対応している。既にPowerPointでは、「プレゼンをする人が話す言葉を認識し、他の言語に変えてキャプションとしてプレゼン資料の中に挿入する」という機能が実装済みである。そうした機能の存在を考えれば、日本語化のハードルは高くない。
ただし、精度は英語と日本語の間で、まだかなりの差がある段階だ。実用性を高めるには、日本語での認識精度向上がポイントになる。英語で実現している精度を、いかに日本語で実現するか、という点に興味が出てくる。
Teamsのビデオ会議には、言語に依存しない「AIの使い方」もある。ビデオ会議の映像の自動加工だ。
最もシンプルな使い方が「背景ぼかし」「背景入れ替え」機能だ。ビデオ会議で、自分の背後が気になる人は少なくないはず。自宅からの会議で映り込んでいるものを気にする人はいるだろうし、会社内でも、見られてはいけないものがあったり、見られたくない場所だったりすることもある。かといって、ビデオ会議ブースを用意できる会社は少数だ。
そこで、人のシルエットを認識し、それ以外をぼかしたり、別の画像に入れ替えたりする。人のシルエット認識にAIを使っているわけだ。スマートフォンのデジカメでも、人のシルエットを認識して背景をぼかす機能があるが、あれと似た発想である。
背景ぼかしの機能はすでに導入済みだ。Teamsだけでなく、Skypeでも使えるようになっているので、気付いている人もいるのではないだろうか。
また、背景を別の写真に入れ替えてしまえばもっと効果は高い。こちらはTeamsに、今後導入が予定されている。
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