Apple Arcadeは大きなチャンス――ティム・クックCEOも期待を寄せる大作JRPG「ファンタジアン」が目指すこと目指すは過去に自分が作ったファイナルファンタジーと同じような作品(2/3 ページ)

» 2020年01月10日 06時00分 公開
[林信行ITmedia]

Apple Arcadeは新しいゲームプラットフォーム

Fantasian ミストウォーカーの中村拓人氏(左)と坂口博信氏

 クックCEOの去ったミストウォーカーで、坂口氏と中村氏に話を聞いた。

 ファンタジアンは、Apple Arcadeのゲームの1つとして配信される。Appleが2019年9月に始めたゲームのサブスクリプションサービス、月額600円で、Appleが用意した良質なゲームがプレイし放題になるというサービスだ。

Fantasian 月額600円のサブスクリプションサービス「Apple Arcade」

 坂口さんに話を聞くと、AppleがApple Arcadeに登録しているゲームで重視しているのは「品質」だという。もちろんスケジュールも大事だが、品質が最重要で、納得がいくまでブラッシュアップしてリリースする、という形態をとっているようだ。

 これは、言わばコミッションワーク。中世ヨーロッパの貴族たちが偉大な芸術家たちに音楽や絵画の大作を作らせていたときに似たやり方だ。

 よく考えてみれば、私たちを日々、楽しませてくれるゲームも、作り手たちにとっては、それで生計を立てているビジネスの1つである。ゲームの開発にかけた時間や労力は、何らかの形で対価として回収しなければならない。それだけにビジネスモデルが先行し、最近では課金や広告など、プレイヤーにとっては楽しくない要素も増えてきた。

 これに対してApple Arcadeでは、Appleが、この人たちが作るゲームがあればApple Arcadeの価値が上がるだろうというゲーム制作者達に投資をしてゲームを用意し、世界中の何億という登録ユーザーから集めてきた月額利用料をゲーム提供者たちに再分配する仕組みになっている。それだけに、昨今のビジネスモデル先行で作られたゲームとは異質のタイトルが多いのも特徴だ。

Fantasian 開発中のファンタジアンの画面(C)MISTWALKER

 他社のApple Arcadeゲームもたくさん試している坂口氏は「新しいアイデアの入ったものが多い」と驚いたという。

 そしてこう加えた。「自分がゲーム開発に携わるきっかけになったApple IIの時代を思い出す。あの頃のPDSの匂いが少しする。ゲームとしての品質は圧倒的に高いが、プレイヤーとして、無料で遊び放題だったPDSに近い感触がある」

 PDSとは、パブリック・ドメイン・ソフトウェアのこと。Appleが1970年代に販売していた家庭用パソコンの元祖といえるApple IIでは、RPGやアドベンチャーゲームを始め、いくつものコンピューターゲームジャンルの礎と言えるゲームが誕生した。その多くは商品として発売されていたが、その一方でプログラマーが自分の趣味で作った商品ではない(が、極めて質が高い)ゲームもたくさんあった。ちなみにPublic Domainには「著作権を放棄した」という意味合いがあるため、後にこうしたソフトにはシェアウェア、あるいは国内ではオンラインウェアなどの名前がついた。シェアリングエコノミーはこの時代からあったのだ。

 「最近のスマートフォンのゲームにおける、一般的なゲーム内での課金の仕組み。あれはあれで作り手たちは、非常によく考えていて面白い。しかし、プレイヤーの方は少し飽き始めているんじゃないですかね。そんな中、Apple Arcadeは非常にいいタイミングで出てきたと思います」と坂口氏は感心している。

 ところで、Apple Arcadeというと画面の大きさも性能も異なるiPhone、iPad、Mac、そしてApple TVでもプレイできるというのが1つの特徴だが、その部分では大変ではないのだろうか。

Fantasian Apple Arcadeは、多くのAppleデバイスで利用できる

 「確かにデバイスによって画角とか解像度とかが異なるので、ゲームのエクスペリエンスを良くしようと苦労する部分はある」と坂口氏が語ると、プログラムを担当する中村氏がこう加えた。「でも、Apple製品のバリエーションに対応すればよいだけというのは、総合的にみて開発上はかなり楽な部分が多い」という。

 4つの対応デバイスの中で、坂口氏が一番面白いと感じたのはApple TVだそうだ。

 「対応コントローラーを使って操作をすれば、家庭用ゲーム機でプレイしている感覚」だという。

 「それでいて普段仕事で使っているMacでも、マウスを使ってちゃんとプレイでき、しかも、プレイの途中経過が保存され、他のデバイスでプレイの続きができる、というのは何だかちょっと不思議な感じ」と坂口氏。「でも、Nintendo Switchのように必要ならTVにつなげて遊ぶ、という感覚に近いのかもしれない」とも付け加えた。

 この坂口氏の話を聞いていて気がついた。電子雑誌のサブスクリプションサービスの「Apple News+」(米国のみ)、映像番組のサブスクリプションサービスの「Apple TV+」と一緒に発表されたこともあり、これまでApple Arcadeをはやりのサブスクリプションサービスの1つとしてしか見ていなかった。

 だが、ゲーム開発者に近い視点で改めて見てみると、 Apple Arcadeはこれまでのゲームとはビジネスモデルも違えば、プレイのスタイルも大きく異なる、「コンピューターゲームを再発明」した、全く新しいゲームプラットフォームなのかもしれない。

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