もちろん異なる製品であるため、MacBook Airが採用するくさび形のフォルムや、空気の取り入れ口が外部からほとんど見えない精緻でクリーンなデザイン、ゴールドのカラーバリエーション、軽量なボディー(Proに比べ110g減)といった特徴がMacBook Proにはなく、一方でTouch BarがMacBook Airにはない。
他にも外見からは分からない違いがある。
これらの違いは、例えば冷却性能に関していうと、実質的な処理能力の違いとなって現れる。CPUやGPUに高い負荷がかかる場合、発熱状況に応じて速度調整が入る場合があるが、冷却性能が高ければ、より高い負荷に耐えられる。
MacBook Proは、より多くのエアフローが出るように設計されているため、空気の導入部、排出部ともに広くて高負荷時の動作音は穏やかだ。そして、この冷却性能とも関わることなのだが、最も違うのが得意な処理分野だ。
大抵の場合、「低価格モデル」「廉価版」というと安普請な印象を持つだろうが、13インチMacBook Proの下位モデルは前述したMacBook Proならではのより高い質のディスプレイや放熱設計の余裕といった要素を持つ。
今回、下位モデルに関しても15W TDPのIce Lakeに変更するという選択肢もAppleにはあったと思われるが、あえて第8世代のCoffee Lakeを採用したのには、それなりに理由があるからなのではないか、と探りながらテストをしてみた。
とりわけ放熱設計のよしあしは、マルチコア化が進んだ現代のCPUでは実性能を引き出す上で大きなポイントだ。ベースクロックとTurbo Boost時のクロック周波数の間、どの程度で実際に動作できるかで性能が決まるからだ。
MacBook Airのレビューでもお伝えしたが、Ice LakeはCPUの実行コアを新設計とし、クロックあたりの命令実行スループットが上がっており、瞬発力は第8世代Coreよりも向上している。文書作成やWebブラウザでアプリケーションを動かす程度では、そうした瞬発力が生かされ、十分に満足な体感速度と応答性が得られる。
重量にしてカタログでは110g(実測では120g程度)の違いだが、MacBook Airがもたらす軽さとくさび形のフォルム、吸排気口などが見えないクリーンなルックス、カラーバリエーションに価値を見いだす人もいるはずだ。
しかし実機での比較テストを行ってみると(旧下位モデルとキーボード以外は同じとはいえ)MacBook Proの方が圧倒的に性能が出ていた。
放熱の面での余力が十分になければ、マルチコアで長時間処理し、一斉に発熱する状況では息切れをし始める。休みながらの動作とすることで、一定以上に温度が上がらないよう制御をせねばならないからだろうか。
MacBook AirのCore i5モデル(第10世代)でGeekbench 5におけるマルチコアスコアが伸びないのは、そうした部分のボトルネックがあるからかもしれない。デュアルコアのCore i3モデルと比べても、マルチコアのスコアが大きく違わないことからも、その様子が分かる。
一方、13インチMacBook Proの下位モデル(第8世代Core i5搭載)は熱設計に余裕があるため、息切れすることなくクアッドコアが健やかに機能し続けることで、マルチコアのスコアが伸びる。つまりCPU志向の強い処理は、第8世代Coreといっても13インチMacBook Proの下位モデルの方がいい。
この違いを最も端的に表しているのが、Cinebench R20の結果だ。これは映画級のCG生成をマルチスレッドで行い、シングルコアとマルチコアのレンダリング能力を両方計測し、その比率を示してくれる定番のテストとなる。13インチMacBook Pro下位モデルはシングルコアの397点に対してマルチコアでは1566点。倍率は3.94で、見事にコア数の増加が素直に処理スループットを引き上げていることが分かる。
ところがMacBook Airはシングルコアの355点に対してマルチコアは872点と、マルチコアによる倍率は2.46にすぎない。Geekbench 5では上回ったシングルコアのスコアも伸びないのは、CPU負荷が連続してかかる状況では瞬発力よりも持久力が求められるためと推察される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.