Apple Watch Heart Studyで実務責任を担う慶應義塾大学病院循環器内科の木村雄弘先生に、新たに搭載された心電図アプリやApple Watch Heart Studyへ寄せる期待などについて聞いた。
木村先生は「Apple Watchの心電図記録はいつでもどこでも誰でも測定できるのが最大のメリット」だと語る。「健康診断で行う心電図測定は、年に1度数十秒です。この間に不整脈などの問題がなければ見逃してしまいます。家電量販店で販売されている携帯心電計は、測定したいときに、持ち歩いていなければなりません。異常のある心電図が1枚でもあれば、その後の治療方針が180度変わることがあります。Apple Watchは常に身につけているものですから、いつでも記録が可能です。動悸などの症状がある方は、症状のあるときに記録、症状がない方も、血圧を測るのと同じような感覚で定期的に測定することが早期発見につながります」という。
常に身につけているApple Watchだからこそできる異常を感じたら、すぐに記録。これが21世紀のヘルスケアの新しいスタイルになるのかもしれない。
ところで、心電図アプリに出てくる5種類の診断結果だが、これはどのように受け止めたらいいのだろうか。
木村先生は「定期的に測定して、結果の変化にユーザーが気づくということが一番大事だと思います。1度の結果だけをうのみにしない、また、結果は不整脈を5つに分けた判定だけですので、それ以外の心臓病に関する心電図の波形の詳細は、都度、医師に相談すべきです」と語る。
一方で5種類の診断結果についても、以下のように解説してくれた。
「心房細動」と診断された場合、これは不整脈の1つで、脳梗塞や心不全の合併症を起こすことで知られているので、専門的な新たな医学的検査を受けるべきだという。
ところで、心電図アプリで心電図を記録すると、グラフのような画像が表示されるが、これにはどのような意味があるのだろうとも聞いてみたところ、「不整脈に関しては、1番大きなとがった波形が規則正しく記録されているかが基本です」と教えかけてくれたものの、「インターネットなどで勉強をされて、という患者さんは多いですが、逆に不安要素となっている方をお見かけすることも少なくありません。一言で言える学問ではないので、変に不安になるよりは、定期的に測定して変化がないか、Apple Watchの心電図アプリケーションに聞いてみることをお勧めします」とのことだ。
なるほど、そうかもしれない。そこの考察は専門の医師に任せ、ユーザーは5種類の診断結果だけ見るのが心の健康にもいいのではないだろうか。
そんな木村先生に、最後にApple Watch Heart Studyへ寄せる期待を聞いた。「米国のApple Heart Studyでは、ウェアラブルデバイスが常時脈拍数を記録してくれるおかげで、病気が早期発見できる可能性が示唆されました。我々のApple Watch Heart Studyでは、異常のある心電図を見逃さず的確に記録できるように、いつ測ればいいのかを明らかにすることを目的としています。それにより、診断効率を上げることで、より早期発見が可能になり、合併症の前に病院受診のきっかけになることを期待しています。また、ユーザーがヘルスケアデータに興味を持ち、変化に気づくことで未然に相談、予防する行動変容を生むことを期待します。コロナ禍だからこそ、このように家庭でできるセルフメンテナンスが重要と思います」と語った。
この日本で門戸が開かれた、医療の未来を作る壮大な試み。是非とも、1人でも多くの人に、この研究に参加して欲しいと思う。
コロナ禍になって、改めてCOVID-19感染症の症状悪化や急変などを察知する血中酸素濃度が注目されている中、Apple Watchでは血中に取り込まれた酸素レベルを記録する「血中酸素ウェルネス」アプリも搭載している。あくまでウェルネスやフィットネス用の機能だが、自分の健康状態を客観視するためのセンサーや機能が充実している。ユーザー数が圧倒的に多いという強みを生かして、今後、ますます人類にとって手放せない存在へと成長していくのではないだろうか。
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