本機はマット感を最適化したアンチグレアガラスが訴求点になっていて、Cintiq Pro 16とかぶっていると書きました。ならば、同じものなのかな? と思うのですが、実際はArtist Pro 16TPとCintiq Pro 16はほぼ真逆の立場を取っています。まずはマット面を拡大してみましょう。
粗さが全然違いますよね。実際の表示もスカッとクリアーで精緻、iPad Proよりも高いピクセル密度が生かされています。一方で、明かりの反射は硬いですし、黒い画面には自分の顔がはっきり分かるぐらい反射します。アンチグレアとはいえ、できる限りクリアーにしようとしているのが読み取れます。
対してCintiq Pro 16は、表示品質を犠牲にしすぎない範囲でできる限りマットにしようとしているように見えます。反射もよくぼやけますし、フェルト芯と組み合わせたときの摩擦の自然さも素晴らしいです。ペンの摩擦にこだわりが強いワコムらしいバランスのとり方です。
この時点では、どちらが良いとは言えません。いずれの場合も、部屋を暗めにしたり間接照明にしたりして反射や黒浮きを減らせば快適になるし、正確な制作ができるようになります。普通のディスプレイより上向きで使うものなので、部屋の照明は工夫しておくとよいでしょう。
よし、では肝心のペンを見ていきましょう。付属のペンは傾き検知に対応し、消しゴム機能付き、筆圧検知8192段階のペンです。XP-Penのペンは消しゴムなしが多かったので少し珍しいですね。
しかしよく見ると、同社の他の機種で見られたような逆テーパー形状+2サイドボタンではありません。ソフトなグリップもなく、ただ樹脂がずぼっと伸びているだけで、サイドボタンも下側しか押せません。
ペンを持った感じも若干チープで、逆テーパー形状でもないため握圧を下げづらく、グリップの当たりが硬いです。1つしかないサイドボタンも、右クリックが必須なので実質カスタマイズ不能です。
また、芯の回りがでっぷりと太くなっていて視界が悪いです。
でも、まあ新型のペンっぽいし書き味が良ければ……と気を取り直して、ペンの性能もテストしてみました。まずはOKな点から見ていきます。
ジッターは深く傾けたとき以外に感じ取れるものはなし、遅延も120分の7秒で問題なし、傾けたときのカーソルのズレもなしでした。
不満を感じたのはオン荷重と、検知可能最大荷重と、摩擦の小ささです。オン荷重は約11g、XP-Penの他の機種やワコムのペンは7g前後になっている場合が多いので、ちょっとデッドゾーンが広いですね。
軽いタッチで彩色のグラデーションを表現したい場合や、鉛筆風のブラシで軽く描きたいときには、違和感は感じ取れると思います。これでは描けないとも言えませんが、軽いタッチで描きたいならば他に良い選択肢があるとは言えます。
検知可能な最大荷重は約210gでした。XP-Penのペンとしては特別低いわけではないですが、ワコムはその2倍以上までカバーしますし、ボールペンで文字を書く際の標準的な筆圧が約150gと言われていることからも、筆圧の上限に余裕があるとは言えないと思います。
摩擦は計測できませんが、非常によく滑ります。皮脂だらけになったiPadにApple Pencilで描いているのと同じぐらいの感覚ですね。
今時だとその状態でもスルスル描ける人もいますし、よく滑る方がむしろ楽という意見もあるので、合う人はいると思います。自分は紙よりは小さいぐらいの摩擦で線を安定させたり、筆圧をかけたりするときにズルッと滑るのを防ぎたい方なので、ちょっと厳しいというのが正直な感想です。
総じて、ペンの仕様と性能には疑問が多いという結果になってしまいました。同社のペンには、Artist Proやイラスト用板タブに主に付属する「PA」シリーズと、学習や一般向けにも訴求している板タブに主に付属される「PH」シリーズがありますが、本機の付属ペンの型式は「PH2」でした。
ペン先の視界が悪いことも含めて、板タブ用に設計されたペンな気がして、普通にPAが欲しかったな……という思いがあります。ともあれ、こうなったのには何らかの理由があるのでしょう。ひとまず飲み込んで実用テストに入ることにします。
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