「無限再生紙」から「被災地のトイレ問題」まで――5つの展示会が一堂に会した「SDGs Week EXPO 2022」(1/4 ページ)

» 2022年12月09日 07時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 日本経済新聞社、日経BP、インフラメンテナンス国民会議の3者は12月9日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区)において「SDGs Week EXPO 2022」を開催している。

 この展示会は、日本が抱える社会的課題を解決するためのソリューションなどを紹介する4つの展示会をまとめたもので、一部の展示/セミナーは、12月16日までオンラインでもオンデマンド視聴できる

 実は、SDGs Week EXPO 2022には、ITmedia PC USERの読者の皆さんにもなじみのある企業も出展している。展示の内容が「普段とはちょっと趣が違う」と聞いて気になったこともあり、ビッグサイトまで足を伸ばしてみることにした。

エキスポ SDGs Week EXPO 2022ではどのような展示があった……?

エプソンが「PaperLab」の新コンセプトモデルを披露

 セイコーエプソン(エプソン)は、大企業や自治体向けに乾式オフィス製紙機「PaperLab A-8000」を販売している。A-8000のプロトタイプは2015年12月に披露され、製品版は2016年12月に登場した。

 A-8000は、オフィス内で発生した古紙から印刷可能な紙を“再生成”できる製紙機だ。独自技術「ドライファイバーテクノロジー」によって、紙の繊維化、結合、成形までを水を使わずに行うことが強みで、機密情報を外部に出すことなく再生紙を作れることが重宝されているという。

 プロトタイプの披露から7年、製品の発売から6年を迎えた2022年12月、エプソンはSDGs Week EXPO 2022の開催に合わせて新型PaperLabのプロトタイプを披露した。

プロトタイプ 新型PaperLabのプロトタイプ

 このプロトタイプは、現行のA-8000において懸案となっていた課題を解消し、より利便性を高めたという。

ボディーのコンパクト化

 A-8000のボディーサイズは、約2848(幅)×1428(奥行き)×2009(高さ)mmとかなり大きい。このサイズは外付けオプションや表示灯を除いた数値なので、実際にオフィスに置こうとなると結構場所を取る。重量も約1750kg(床の耐荷重要件:430kgf/m3)とかなりヘビーなので、設置に当たって床の補強、あるいは負荷分散措置が必要となるケースもある。

 エプソンは、各種機器の開発方針として「省・小・精」を極める方向性を掲げている。そのこともあり、新型では従来よりもコンパクトなサイズを目指しているという。

 今回のコンセプトモデルは、A-8000と比べると高さは抑えられている。幅と奥行きについては増えてしまっているものの、A-8000とは異なり外付けオプションが出っぱっていないため、外観はかなりスッキリとしている。

 製品化に向けて、エプソンではさらなるコンパクト化を進める方針だという。凹凸がないことと合わせて考えると、A-8000よりも設置しやすくなるだろう。

A-8000 現行のPapaerLab A-8000は、外付けオプションや表示灯を取り付けるとオフセット印刷機並みのサイズとなってしまい、置ける場所が限られるという課題がある(右側で説明しているのは、新型PaperLabの開発責任者を務める山中剛氏)
設置イメージ A-8000(点線)と新型のプロトタイプ(実線)の設置イメージ。幅こそ増えているが、高さは結構低くなっていることが分かる。製品化に向けて、さらなるコンパクト化を進めるという

繊維の結合材を天然由来材料に置き換え(繰り返し再生も可能に)

 A-8000では、粉砕した紙を繊維化した後、その繊維に樹脂を含む「結合材」を配合し、シート状に堆積/成型して再生紙を生成するというプロセスを取っている。

 新型PaperLabも基本的なプロセスはA-8000と変わらないが、結合材を天然素材に由来するものに変更した。これにより、再生紙を作るプロセスにおける環境負荷が低減している。

 結合材を変更した副次的な効果として、新型PaperLabで生成した再生紙は、使い古したら再びPaperLabを使って再生できるようになった。「製紙→印刷→製紙……」を繰り返せるため、新しい紙作らずに済み森林保護にも役立つという。

繰り返し 結合材を天然素材由来とすることで、環境負荷を軽減すると同時に、紙を繰り返し再生できるようにした

専用シュレッダーを使った「再生紙の輪」の構築

 新型PaperLabでは、A-800と同様に再生する紙を機械に直接投入する「用紙直接投入モデル」に加えて、専用シュレッダーで粉砕した紙を投入できる「シュレッダー片投入モデル」の2種類を展開する予定となっている。シュレッダー片投入モデルと組み合わせて使う専用シュレッダーは、PaperLabで繊維化する際に最適な形で紙を粉砕してくれるという。

シュレッダー片 今回披露されたのは、現行のPaperLabにはない「シュレッダー片投入モデル」のプロトタイプである。左端にあるふたを開けて、専用シュレッダーで粉砕した古紙を入れると機械の中で繊維化され、再生紙が生成される
シュレッダー シュレッダー片投入モデルと組み合わせて使う専用シュレッダー(こちらもプロトタイプである)

 「今までのA-8000にもシュレッダー相当の機能があるのに、何でシュレッダーを別体にする必要があるの?」と思うかもしれないが、これはビル内、あるいは企業間でPaperLabを“共有”しやすくすることを意図した取り組みだ。

 PaperLab A-8000は、普通に買おうとすると税別で2000万円台前半からとなる。そのため、リース導入されるケースが多いようである。しかし、各種報道で明らかとなった自治体におけるリース事例を見ると、秋田県では年間約465万円、長野県では月額約30万円を支払っているという。買い切りにしてもリースにしても、1社(1自治体)が“単独で”導入するには難しい面もある。

 「なら、複数の企業(自治体)や組織で共有すればいい」と思うかもしれない。実際にそうしている事例もあるのだが、PaperLabの設置場所まで再生する紙を“そのまま”の形で持ち込むことがセキュリティの観点から難しいケースもある。シュレッダーで粉砕した上で持ち込めるようにすることで、セキュリティ上の懸念を払拭(ふっしょく)し、PaperLabを複数企業(テナント/団体)で共同利用しやすくなる。

シュレッダー片投入モデルのプロトタイプで再生紙を作るデモンストレーション

再生紙の活用事例はどんどん広がっている

 「再生紙」と聞くと、若い人であれば学校で使っていた「わら半紙」を、ある程度社会経験のある人であれば役所でよく見かけた「ざらざらとした紙」を思い浮かべるかもしれない。しかし、現行のPaperLab A-8000で製造した再生紙は、思った以上にツルツルしており、いつまでも触っていたくなるような手触りである。

 現行のPaperLab A-8000では、普通紙に加えて厚紙を作ることもできるようになっている。今回のSDGs Week EXPO 2022では、A-8000を使って作られたさまざまな「紙アイテム」に加えて、PaperLabで使われているドライファイバーテクノロジーの応用事例も展示されていた。

紙 A-8000では普通紙に加えて厚紙も作れるようになっている。カラーインクカセットを用意すれば、カラーペーパーも作れる
応用事例 ドライファイバーテクノロジーの応用事例として、セイコーエプソンの社内で回収された古紙を使った「インク吸収材」「食品トレー」「ペーパークラフト」なども展示されていた
意外とキレイ 「再生紙とインクジェットプリンターの相性はそれほどよくないのでは?」と思っていたのだが、インクは思った以上にしっかりと乗る。これなら十分に実用できる

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年05月07日 更新
  1. SSDの“引っ越し”プラスαの価値がある! 税込み1万円前後のセンチュリー「M.2 NVMe SSDクローンBOX」を使ってみる【前編】 (2024年05月06日)
  2. AIに予算20万円以下でピラーレスケースのビジネスPCを組んでもらって分かったこと (2024年05月04日)
  3. サンワ、ペンを持つように操作できるペン型マウス (2024年05月01日)
  4. WindowsデバイスでVPN接続ができない不具合/NVIDIAのローカルAI「ChatRTX」にAIモデルを追加 (2024年05月05日)
  5. 出荷停止となったAmazon認定スタンドの空席を埋められる? 「Fire HD 8 Plus」「Fire HD 10 Plus」に対応したサードパーティー製ワイヤレス充電スタンドを試す (2024年05月07日)
  6. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  7. レノボ「Legion Go」の“強さ”はどれだけ変わる? 電源モードごとにパフォーマンスをチェック!【レビュー後編】 (2024年05月03日)
  8. Steamで「農業フェス」開催中! ポイントショップでは無料アイテムも (2024年05月03日)
  9. Core i9搭載のミニPC「Minisforum NAB9」は最大4画面出力に対応 ワンタッチでカバーも取れる その実力をチェックした (2024年05月01日)
  10. Intel N100搭載のChromebookは本当に重たくない? Lenovo IdeaPad Flex 3i Gen 8で動作をチェック! (2024年05月02日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー