年間1万件の追悼に使われる「@葬儀」とは何か?古田雄介のデステック探訪(1/2 ページ)

» 2023年07月31日 12時00分 公開
[古田雄介ITmedia]
@葬儀 オンライン葬儀 マイクロウェーブ オンライン葬儀サービス「@葬儀」

オンライン葬儀≠葬儀のライブ配信

 供養業界では、コロナ禍に突入した直後から「オンライン葬儀」が大いに注目を集めた。当初抱かれていたイメージは、葬儀をライブ中継し、希望する人がスマートフォンやPCで「参列」できるようにするものだ。しかし、この形態は現在に至るまで定着には至っていない。

 一方で、オンライン葬儀という言葉は現在も命脈を保っていて、当初のイメージとは異なる姿で徐々に葬送文化に浸透している感がある。その一端をのぞかせるのが、IT企業のマイクロウェーブが提供する「@葬儀」(アットそうぎ)の堅調ぶりだ。

 @葬儀は葬儀社向けのオンラインサービスとして2020年4月から提供を開始しており、2023年6月時点で180社以上に導入されている。利用された葬儀の施工件数は、2023年度の予測値で1万件を超えるという。

 オンライン葬儀サービスとして、順調に伸びている背景にはどんな理由があるのだろう?

オンラインの葬儀会場を1〜2カ月開く

 まずはサービスの概要をみてみよう。

 @葬儀は、リアルで執り行う葬儀とは別にオンラインの葬儀会場を追加するサービスだ。

 故人の思い出の写真や動画を載せた専用ページが作られ、そこで追悼メッセージや香典などを受け取ることができる。喪家の設定にもよるが、1〜2カ月ほど公開されるので、何らかの事情でリアルの葬儀に参列できなかった人や、後から不幸を知った人も思いを伝えることが可能だ。

@葬儀 オンライン葬儀 マイクロウェーブ 会葬者から見たオンライン葬儀会場ページ。遺影の前で焼香したり(左)、記帳や香典で思いを残したり(中央)、故人のアルバムを見て生前を思い出したりできる(右)

 また、リアルの葬儀とも連動しており、訃報と葬儀案内をメールやSNSで一斉送信する機能や、リアル会場に届ける供花や供物の注文の受付も対応している。

@葬儀 オンライン葬儀 マイクロウェーブ 訃報画面(左)。メッセージにはリアル会場(中央)とオンライン会場の情報(右)が載せられ、供花や供物の注文も受け付けている

 葬儀会場のライブ中継も可能だが、メインコンテンツではなく、選択肢の1つという位置づけだ。あくまで、リアルの葬儀をオンラインの拠点で補強するためのサービスとして売り出している。それゆえに公式YouTubeでも、「@葬儀は葬儀のライブ配信サービスではありません」とうたっている。

 コロナ禍で葬儀に参列しにくい心情が深まる中で、こうしたサービスが求められるのは理に適っているように思う。ただ、サービスの開発は新型コロナウイルスがまん延する前から動き出していたそうだ。

しのび足りなさを埋めるサービスとして開発

 同社が@葬儀の構想を持ったのは2019年だ。多様な業界のシステム開発を続ける中で、DX化の余地が多く残るエンディング市場で何かできないかと意識を向けたのが発端だった。

 「調査を進めると、葬儀の縮小化が進んだことで参列できずにしのび足りない思いをした人が多くいることが分かり、そこで何かできないかと考えるようになりました」(ソーシャルイノベーション事業部 サービス企画開発グループ マネジャー 八木隆幸さん)

 鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査」(2015〜2022年版)によると、全国の葬儀の形態はここ数年で大きく変化している。親族以外の参列者が多く集う「一般葬」の割合が減衰し、親族やごく近しい間柄の人たちだけで執り行う「家族葬」が主流となった。

 この流れはコロナ禍前から起きており、親族親友未満で知人以上というような距離感の人たちを、確かに葬儀から遠ざけている。

@葬儀 オンライン葬儀 マイクロウェーブ 2015年から2022年までの、葬儀形態の割合推移。鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査」(第2回〜第5回=2015〜2022年版)を基に筆者作成

 そこで投入したオンライン葬儀サービスだったが、ローンチ後も試行錯誤の連続だったという。

 「最初期は、葬儀のライブ配信を主力に据えようと考えていました。ただ、割とすぐに『動画配信ならこちらでZoomを使うからいいよ』と言われたり、『参列している人の許諾は大丈夫か?』と不安視されたりして、あまり求められていないと気づいて軌道修正しました」(八木さん)

@葬儀 オンライン葬儀 マイクロウェーブ @葬儀を開始した直後のプレスリリース。「新型コロナウイルス感染症対策の支援」をうたっている

 ライブ配信とは別の形で、葬儀に参加している体験を提供するにはどうしたらいいか。この課題をベースにクライアントの葬儀社にヒアリングを重ねていくと、リアルの会場と連動しつつ、参列者の手元でも完結できるオンラインの会場を主眼に据える方向性が見えてきた。そうして現在のスタイルが固まったという。

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