遺言書の文面を自動作成する「らくつぐ」というアプリがある。App StoreやGoogle Playからダウンロードして無料で利用できる。
氏名や生年月日、家族構成、持っている資産とその分配の希望といった質問に、チャット画面で順番に答えていくと遺言書の作成に必要な情報がそろっていく。家族構成や所持している資産によって質問の内容は変わっていくが、短ければものの数分でやりとりは完了する。
質問が終わって「遺言書を作成する」をタップすると、それらを組み込んだ遺言の文面が自動で作成されてPDFで表示される仕組みだ。現在の法律では活字で書かれた遺言は法的に認められないが、このPDFの文面を自筆で書き写して押印すれば法的に有効な遺言書ができあがる。
アプリを提供しているのは、東京都に拠点を構える司法書士法人N-first(エヌファースト)だ。遺言や相続に精通した法律の専門家が手がけたアプリで、作り手側に法の知識がなくても、不備のない文面が作れるように細心の注意を払って開発されている。
2019年12月にリリースして以来、ネット検索などでじわじわと利用者数が伸びており、2023年5月までに約6000ダウンロードに達したという。利用者の年代は幅広く、40代以上が中心だが、10代や20代のユーザーもいる。利用者の都道府県構成は人口分布とほぼ比例している。
代表司法書士の中田泰晶さんがこのアプリを思いついたのは、2017年に事務所を立ち上げた頃のことだ。他の司法書士事務所にはない武器を作ろうと、徹底して手軽に遺言書の文面が自動作成できるスマホアプリのアイデアが浮かんだという。
「遺言書の作成は欧米では一般的ですが、日本ではどうしてもハードルが高い印象があります。そこで電車の中でも手軽に文面が作れるようなサービスが誕生すれば、『とりあえず遺言を作ってみようか』と思ってくれる人が増えるのではないかと考えました」(中田泰晶さん、以下同様)
欧米では一般的な遺言書でも、日本では作成している人は年間10万件ほどで、全体的には数%程度に留まる。
しかし、近年は遺言書があった方が安心できるケースが増えている。例え、資産家でなくてもだ。
「お子さまがいなくて両親も他界し、きょうだいやその子に財産が相続される場合は、相続人の間で合意形成ができずにいさかいが起きるということがしばしば起きています。遺言書でそうしたトラブルを未然に防ぐことはできます」
らくつぐで遺言書の文面を作ることで、意識の外にいた甥姪の存在と向き合えたり、親族と共有している不動産についても思いを巡らせたりできる。そうした使い方も想定して、預金口座の支店名などの詳細はあえて求めない作りにした。
手元に資料がなくても、まずは遺言書の大枠が作れることが重要だった。とにかく「とりあえず遺言を作ってみようか」と思ってもらうことが狙いだ。
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