現代美術における、最も革新的な画家といえるデビッド・ホックニー氏。
2012年ロイヤル・アカデミー(ロンドン)での個展では60万人以上、2017年ポンピドゥー・センター(パリ)での個展でも60万人以上の来場者数を記録したことや、2018年には代表作の「芸術家の肖像画―プールと2人の人物―」がクリスティーズ・ニューヨークのオークションで当時、史上最高額の9031万2500ドル(当時のレートで約102億円)で落札されたことなどからも、その人気のすごさがうかがえる。
ホックニー氏は1937年英国生まれで現在86歳ながら、コロナ禍に入ってからも精力的に制作を続け、ニューヨーク、パリ、ロンドンなどで展覧会が行われてきた。
そんなホックニー氏の日本では27年ぶりとなる、大規模な個展が11月5日まで江東区の東京都現代美術館で開催されている。
全長90mを超える大作を含む120点余りが展示されている大規模な展覧会だ。
この展覧会を見て筆者が驚かされたことが2つある。
1つは、展示されていた作品の中に東京都現代美術館所蔵の作品が多かったことだ。何と東京都現代美術館では、この世界的画家の作品を150点も所蔵しているそうで、同時開催しているコレクション展にも作品を展示していた。
2つ目は、ホックニー氏が常に新しい表現に挑み続けた表現者であることに改めて驚かされた。30代中頃に描いた作品のいくつかには、色を塗っていないシンプルな線画も描けば、繊細な光を表現したポートレートも、30代の作品にはどこか日本の浮世絵を思わせるフラットな表現が見られるし、ピカソの版画の刷師と出会いキュビスムを模索した作品もあれば、コピー機やファックスを使って制作した作品、写真をコラージュした作品もある。
コラージュ作品の1つ《龍安寺の石庭を歩く1983年2月、京都》(1983年)では、1枚の写真では人間の目のような捉え方を表せないと、ホックニー流の新しい逆遠近法ともいうべき表現方法で100枚以上の写真をコラージュして石庭を表現した。
日本の年配のクリエイターには「テクノロジーは苦手」と敬遠する人が少なくないが、ホックニー氏はむしろ積極的に活用している。
2017年に製作した《スタジオにて、2017年12月》(2017年)という作品では、フォトグラメトリーという技術を生かした。ホックニー氏自身や20点以上の作品、イスやじゅうたんなどのインテリアを3000枚以上の写真に収めて3Dデータ化することで、コラージュ作品同様のこれまでにない逆遠近法の表現に仕上げている。
そういったホックニー氏の新しいチャレンジの中でも、とりわけ目立っているのがiPadを使った制作だ。
今回の東京都現代美術館のデイヴィッド・ホックニー展でも、展覧会の最初の作品《No.118 2020年3月16日 「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》(2020年)もiPadで描かれたものだ。春の到来を告げるラッパスイセンを描いたもので、コロナ禍が始まった2020年3月に「春が来ることを忘れないで」というメッセージを添えてオンラインで公開されたという。
これだけではない。1番の大作で1階の展示室一部屋を埋め尽くす高さ1m、全長90mの作品《ノルマンディーの12か月》(2020〜21年)もiPadで描いている。2010年〜2011年にかけて毎朝窓辺の情景を描いたという《「窓からの眺め」より》(2010〜11年)という映像作品などが展示されている、2010年以降の作品の多くがiPadによるものだ。
現代を代表する作家は、いったいiPadの何に魅せられたのか。
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