PC向けトレインシミュレーターの操作に革命が!? 司機工が「マスコン型汎用コントローラー」を開発鉄道技術展2023

» 2023年11月10日 19時15分 公開
[井上翔ITmedia]

 11月8日から10日の3日間、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された「鉄道技術展2023」は、その名の通り、鉄道に関するあらゆる技術が展示される見本市だ。

 想定されている来場者は鉄道や社会インフラに関連するの業界関係者で、展示内容も当然に専門性は高い。世間一般で言われている「鉄道趣味」からは“縁遠い”展示が多数を占めているといってもよい。

 そんな中、鉄道車両の製造/改造や部品販売、遊園地などの施設のメンテナンスを手掛ける司機工のブースにおいて、業界関係者だけでなく、鉄道模型ファンや鉄道運転シミュレーター(PCゲーマー)の注目を集める参考展示があったので簡単に紹介したい。

司機工ブース 鉄道技術展2023の司機工ブース

鉄道車両の運転台にある“ほぼ本物”のマスコンを展示

 司機工では、自社の事業で培ってきたノウハウを活用して、鉄道会社向けの「列車訓練用装置」の製造を請け負っている。その訓練装置の中には、運転士向けの「運転シミュレーター」も含まれている。鉄道博物館(さいたま市大宮区)の「運転士体験教室」に設置されている運転台も、同社が製造を担当したという。

運転台 鉄道博物館の「運転士体験教室」は、音楽館が鉄道会社向けに納入している「乗務員訓練用シミュレータ」をベースに開発された。司機工は、この教室で使われる運転台の機材の製造を担当したという。よく見ると細かい違いはあるが、JR東日本のE233系近郊タイプの運転台と“ほぼ同じ”作りである

 運転シミュレーター用機器の製造で培ったノウハウを、さらに広く活用できないか――そこで同社が今回参考出品したのが、「マスコン型汎用(はんよう)コントローラー」という商品だ。

 自走できる鉄道車両(電車やディーゼルカーなど)の運転台には、自動車のアクセルに相当する「マスターコントローラー(主幹制御器)」というレバーがある。マスターコントローラーは「マスコン」と略されることもあり、最近は減速を行うためのレバーである「ブレーキ設定器」と一体化された「ワンハンドルマスコン」の普及が進んでいる。

 同社のマスコン型汎用コントローラーは、左手操作のワンハンドルマスコンを模して作られている。形状や寸法は、JR東日本(東日本旅客鉄道)のE233系の運転台にあるものと同じだという(※1)。ワンハンドルマスコンには両手で操作するタイプもあるが、「机上に置くことを重視」して、「スペースを節約できる左手(片手)操作タイプにした」そうだ。

(※1)E233系2000番台(常磐線各駅停車向け)を除く

全景 参考出品された「マスコン型汎用コントローラー」

 マスコンとブレーキ設定器には、「ノッチ」と呼ばれる制御段数が刻まれている。このコントローラーのワンハンドルマスコンは、ベースとなったE233系と同じく「力行(加速)5段/中立(オフ)/常用ブレーキ8段/非常ブレーキ」という計15段設定だ。進行方向を変える「逆転器(レバーサー)」もしっかりと付いているが、事実上の主電源スイッチに当たる「マスコンキー」のスロットは省かれている

 マスコンレバーはサイズや形状だけでなく、操作感も「できる限り本物に近づけた」という。力行段に入れる際はレバーにあるボタンを押す必要があること、力行段から力を抜くと中立段に戻ることも本物と同様だ。

 鉄道技術展に来場した“本職の”運転士や車両の設計/整備担当者も「本物みたい」というほどで、操作感はしっかりと再現できている。ただし、それゆえに「レバーが(動かす際に)硬すぎる」という声もあるようで、広く販売する場合はレバーのフィーリングをどうするのかが課題となりそうだ。

マスコンレバー部分 マスコンレバーの段設定はE233系(やE231系)と同じ。そのため、下り坂で使う「抑速ブレーキ」はボタン式となっている
持ってみた 感触は確かに“ほぼ本物”なのだが、特に子どもが操作する場合は硬すぎるような気もする。本物志向ならこのままで良さそうだが、広く販売する場合は感触をどうするかがポイントとなりそうだ

 コントローラー上には、他に「定速/抑速」「EBリセット(※2)」「ATS確認」「予備」の4つのボタンが用意されていて、全てしっかりと使える。警笛を鳴らすためのフットスイッチもつなげられる。

(※2)一定時間操作しないと非常ブレーキを掛ける「EB装置」(運転士の意識消失時のフェイルセーフ装置)の警告をリセットするボタン

 オプションとはなるがコントローラーに液晶ディスプレイを装着することも可能で、トレインシミュレーターアプリがマルチディスプレイ出力に対応していれば、グラスコックピットを表示して、より本物に近づけることもできる。

ホンモノ志向にも対応 定速/抑速ボタン、EBリセットボタンやATS確認ボタンも付いている。EBリセットボタンの上のボタンは予備のボタンで、警笛に割り当てると、フットスイッチ抜きで警笛を鳴らせる。なお、EBリセットボタンは本物同様に光る
フットスイッチ コントローラーにフットスイッチをつなげば、足で警笛を鳴らせるようになる
オプションのディスプレイ コントローラーには、オプションでディスプレイユニットを装着できる。マルチディスプレイ対応のトレインシミュレーターなら、ここに計器類(特にグラスコックピット)を表示することでより“本物感”が高まる。今回はE233系近郊タイプと同じグラスコックピット(計器+保安装置表示)が表示されていた

何に使えるの?

 今回参考展示されたコントローラーには、Nゲージ(鉄道模型)のコントロールユニットが搭載されている。つまり、第一義としてNゲージを“実車そっくり”に動かすために開発されたそうだ。USB Standard-B端子を介してPCとつなげると、実車の加減速度を考慮した制御を行ったり、ATS/ATCを動作させたりできるという。

 本機をPCにつなぐと、USB HID(Human Interface Device)として認識される。そのため、キー(ボタン)アサインを設定(変更)できる前提は付くがPC向けトレインシミュレーターアプリでも利用できる

 さらに、本ユニットはディスプレイ以外の拡張も可能とのことで、ユーザーが自作した「運転台」への装着も想定されている。“本物志向”を極めたい鉄道ファンに向けた製品ともいえる。

インタフェース 本体の左側面にはNゲージ制御用の各種端子類、電源入力端子とUSB Standard-B端子を備えている
拡張可能 コントローラーはディスプレイ以外の“拡張”も想定して作られているといい、ブースでは超ワイドディスプレイ(計器表示用)と「勾配起動スイッチ」(右手側の黒いハンドル)ユニットを増設した運転台が展示されていた。なお、細かいことだが、こちらのコントローラー本体は、Nゲージコーナーにあるものとは異なりワンマン運転用のドア開閉スイッチがあり、EBリセットボタンの位置がマスコンの左側に移されている他、予備ボタンが省かれている
実際にプレイ この運転台ではトレインシミュレーターを試遊できるようになっていた。計器はPCのマルチディスプレイ機能で出力されたものだ

あくまで参考出展だが……

 司機工の担当者によると、今回は「こういうこともできますよ」というアピールを兼ねて本製品を参考出品したそうだ。一般ユーザー向けに製品化を行うかどうかは「未定」だという。

 今までも、鉄道車両用のマスコン(やブレーキ設定器)を模した鉄道模型/トレインシミュレーター用コントローラーは幾つもリリースされてきたが、外観はもちろん操作感まで“ほぼ本物”なものは恐らく初めてである。

 筆者個人としては「JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)」用に1台欲しいと思ったのだが、本物が過ぎるゆえに、価格がどうしても気になってしまう所ではある。このクオリティーで1桁万円はありえないだろう……。2桁万円だとしても、果たしていくらに収まるのかという問題もある。一般販売されたとしても、受注生産になりそうな気もする(筆者のような人間がたくさんいるとは思えず、量産化は難しいはず)。

 ともあれ、このコントローラーに関する続報に期待したい。

ほしい! “ほぼ本物”なワンハンドルマスコンに手に届く時代が、もう少しで来るかも!?

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