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「会計の民主化」で中小企業の業績向上に貢献 弥生の前山社長が描く日本と弥生の未来IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)

» 2024年01月11日 14時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 コロナウイルスの5類感染症変更以降も世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら


 弥生の前山貴弘社長は、「会計の民主化」を目指すと宣言する。それを具現化するのが、新たな会計ソフトブランドとして、2023年10月に発表した「弥生Next」だ。この製品によって、会計ソフトの役割は中小企業の経営支援にまで広がることになる。インタビュー後編では、弥生Nextの狙いや、それによって実現する会計ソフト市場の変化について、前山社長に聞いた。

弥生 大河原克行 会計 前山貴弘 社長 NEXT 東京の本社で、弥生 代表取締役 社長執行役員の前山貴弘氏にお話を伺った

「会計ソフトを民主化する会社」から「会計を民主化する会社」へ

―― 弥生は、2023年10月に新たな会計ソフトブランドとして「弥生Next」を発表しました。この発表会見で、「これまでの会計ソフトは、本来の役割を提供できていなかったと反省している」とコメントしたことには驚きました。会計ソフトのトップシェアを誇る弥生の社長として、この発言をした背景には何があるのでしょうか。

前山 私たちは、1987年にPCで利用できる会計ソフト「弥生シリーズ」を発売しました。当時の会計ソフトは、オフコンを中心に利用されており、100万円以上するシステムとして導入されていました。

 その市場において、当時8万円というパッケージ価格で会計ソフト市場に参入し、大企業だけが使っていた会計ソフトを、中小企業や個人事業主でも利用できる環境へと広げてきました。

 36年間に渡り、「会計ソフトを民主化する」という役割を果たしてきたといえます。中小企業にとって、面倒くさい作業というマイナスの発想だった会計業務を、会計ソフトによる業務効率化で、マイナスからゼロにはできたと思っています。

弥生 大河原克行 会計 前山貴弘 社長 NEXT 弥生が取り組んできた「会計ソフト民主化」の歩み

 ただ、私は、会計ソフトを、もっとたくさん使ってほしいと思っています。ここでいう「たくさん」とは、より多くの人に使っていただくという定量的なものだけでなく、もっと幅広く、意味のある使い方をして欲しいという定性的な部分を重視しています。これまで通りに会計ソフトを使いやすくし、機能を追加していくことは当然ですが、それだけでなく、もっと違う進化ができないかということを考えています。

 そもそも会計は何のために行うのか。私自身、実家が会計事務所であり、自らも公認会計士として、会計事務所を立ち上げて学んできたことは、帳簿に記録して、決算を行い、税務署に申告書を提出することが会計の目的ではないということです。

 経営の記録をつけて、何が起きているのか、それがいいことなのか、悪いことなのかということを経営者が理解し、次にどんなアクションを取ればいいのかを判断するのが会計の目的です。

 ただ、これまでの会計ソフトは、その役割までは踏み込めておらず、帳簿を速く簡単に、確実につけることができ、作業を効率化することを目的としていました。これまでのテクノロジーを考えれば、それが“できる限界”であったともいえます。比較や分析も、自社の前年度実績との比較しかできませんでした。

 しかし、テクノロジーの進化によってクラウドにデータが蓄積され、これが私たちの仕組みの中で分析され、共有されることになります。これまでにないサービスが実現できる土壌が作られてきたといえます。

 言い換えれば、会計ソフトによって会計の本来の役割を果たすことができる時代が訪れたともいえ、いよいよ「会計を民主化する」ことが可能になる手応えを感じたのです。

 データ活用においては、大企業と中小企業および個人事業主との間に、大きな差が生まれています。大企業には経理部があり、経営企画部門があり、毎日のように会計データを分析して知恵を絞り、悩みながら今の立ち位置や競合に対する優位性、次の手立てを考え続けています。

弥生 大河原克行 会計 前山貴弘 社長 NEXT 大企業のようにデータ活用の専門家がいない中小企業でも、弥生Nextを使うことで業務の効率化や業績向上に貢献できるという

 会計データが毎日生きた形で使われ、データを使って経営をよりよくするという、会計のあるべき姿が実現されています。しかし、中小企業や個人事業主は、これと同じことはできません。しかし弥生が支援すれば、このギャップを埋めることができる。そこに、心血を注ぐべきだと考えました。

 言い方を変えれば、弥生の次のチャンスがあるともいえます。先の会見で「会計ソフトとして、本当の役割を提供できていなかったと反省している」と発言した意図はここにあります。会計が本来果たすべき役割を、会計ソフトが担うフェーズにこれから入ると考えています。

―― この課題感は、いつごろから持っていたのですか。

前山 弥生に戻る前から漠然とは思っていましたが、2020年に弥生に戻って、かつて在籍していた時代よりも、さらに多くのお客さまに弥生を利用していただいていることや、さらにデスクトップ製品を使っている企業もクラウドにデータを蓄積するなど、クラウドへのデータ蓄積が格段に増えている状況が見えてきました。

 そのデータを守りながら分析することができれば、漠然と思っていたことが、もっと迅速に実現できるかもしれないと感じました。

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