プロナビ

研究開発費は売上高の約12%を維持 100年企業を目指すアイコム 中岡社長が取り組むこと:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)

» 2023年08月31日 06時00分 公開
[大河原克行,ITmedia]

 コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。


 アイコムは、アマチュア無線では圧倒的なブランド力を誇るメーカーだ。だが、それだけには留まらない。アマチュア無線以外にも、業界初と言われる製品を数多く投入し、無線の領域において高い技術力を誇る。

 そして、それらの製品の進化はユーザーの声を真摯(しんし)に聞く姿勢がベースになっている点が見逃せない。昨今では、GIGAスクール構想によって整備された学校の無線LAN環境を活用し、電話とトランシーバー通話が可能な製品を投入した。教員間の内線電話として利用するだけでなく、学校内に不審者が侵入した場合にも教員間に一斉同報が可能という特徴が受け、想定を上回る売れ行きをみせている。

 後編では同社の高い技術力と、顧客の声をベースに自由な発想で生まれる、こだわりの製品群にフォーカスする。そして、2023年度からスタートした中期経営計画によって進化する同社の姿にも焦点をあてた。

お話を伺ったアイコム 代表取締役 社長 中岡洋詞(なかおか ひろし)氏 お話を伺ったアイコム 代表取締役 社長 中岡洋詞(なかおか ひろし)氏

ユーザーの声に耳を傾ける 研究開発費は売上高の約12%を維持

―― ずばり、アイコムらしさとは何でしょうか。

中岡 ユーザーの声を真摯に受け止める姿勢は、アイコムらしさの原点だといえます。それが、当社のモノ作りにつながっています。例えば、船舶用無線では世界初の完全防水の無線機を当社が製品化したわけですが、このとき、ユーザーから「完全防水は助かるが、水の中に沈んでしまって見つけられなかったら意味がない」と言われたのです。そこで、開発したのが浮く無線機です。すると今度は「無線機が浮いていても、それが見つけにくい」という声が挙がりました。開発チームは、操作部が上方向で浮く無線機を開発し、着水したときには光が点灯し、見つけやすくしました。このように、ユーザーの声を反映するモノ作りは、当社らしいところだと自負しています。

 また、研究開発費は売上高の約12%を維持し続けています。これを絶ったらエネルギーの源泉を閉じることにつながりますし、必要なときに必要な機器がないと意味がありませんから、必要ならば投資をします。

 もちろん、開発部門から5000万円の測定器が欲しいといった要望があった際に、一瞬、押印をためらう場合もありますし(笑)、設計部門だけでなく、工場でも修理部門でも必要だと言われると、何とか1台で一緒に使ってもらえないか思うこともありますよ。しかし、部署の場所も離れていますし、用途が異なりますから、そこはしっかりと投資をします。これは、創業者の信念として、ずっと続いている当社の基本姿勢です。

世界で初めてアイコムが開発した水に浮く無線機(IC-M33/M34) アイコムが世界で初めて開発した水に浮く無線機(IC-M33/M34)

―― アイコムには業界初となる製品が数多くあります。最近では、LTEと一般業務用無線の2つの回線を使用する業界初のトランシーバー「IP700SU」を発売しましたし、電話機能を搭載したトランシーバー「IP200H」は、GIGAスクール構想で整備された無線LAN環境を活用することができる通信機として、学校を中心に、直近1年で約8倍の販売台数に達したことが発表されています。

中岡 当社は日本で初めて簡易無線機のデジタル化に成功している他、先に触れた世界初となる水に浮く無線機を開発するなど、数多くの業界初といえる製品を市場に投入しています。無線機端末技術のみならず、通信システムやネットワーク関連技術など、国内外での特許取得件数は約600件にのぼり、ニッチな領域での少量多品種の生産も得意としています。また、それらの製品や技術は、国内外で数多くの賞を受賞しています。

 IP200Hは、2020年10月に発売した製品で、テレワークの増加にあわせて、自宅に居ながら外線電話に出たり、外線番号のまま発信したり、内線での通話が可能だったりといったオフィス用途での利用が評価されていました。一方で、学校内で何か不審な動きを察知した場合、教員が関係各所に一斉に情報共有するために、電話とトランシーバー機能の双方を併せ持ち、無線LAN環境でも利用できる点が評価され、教育現場の安全対策の一環として利用されるケースが増えています。同様に、病院や介護施設などへの導入も進んでいます。

電話とトランシーバー通話の双方を両立させたモバイルIPフォン「IP200H」 電話とトランシーバー通話の双方を両立させたモバイルIPフォン「IP200H」

―― 一方、コロナ禍でアマチュア無線人口が27年ぶりに増加に転じたというデータがあります。アマチュア無線市場に対してはどのようなアプローチをしていきますか。

中岡 確かに、巣ごもり需要があり、利用者が若干増加したり、総務省が規制を緩和して、アマチュア無線の免許を持っている人が立ち会えば、免許がなくても交信の体験ができるようにしたりといったことが行われています。しかし、ピーク時に比べると、アマチュア無線の利用者は約3分の1の規模です。今後も人口が大きく拡大する市場ではないと考えています。

 しかし当社にとって、アマチュア無線市場はとても重要な市場であり、今後も継続的に製品を投入していきます。アマチュア無線というと、アマチュアという言葉から、レベルが低い無線技術のように聞こえますが、実は、最も複雑なことをやっており、その技術を元にして、当社は事業を拡大したり、製品の範囲を広げたりしてきました。

 アマチュア無線は、災害時には情報の伝達、収集手段として用いられる重要な通信インフラの1つです。災害が発生すると、携帯電話がつながらないといったことが起こりやすく、業務用無線では一部の限られた人しか利用できないという状況になりますが、アマチュア無線は無線機器があれば、より幅広い人が利用できます。東日本大震災が発生した際にも、当社社内で仙台営業所と連絡が取れた最初の通信手段はアマチュア無線でした。こうしたメリットがしっかりと伝えられれば、アマチュア無線の免許取得者も増えていくのではないでしょうか。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年09月26日 更新
  1. 実売3万9800円でノートPCを3画面化! ソースネクストのデュアル拡張ディスプレイ「DGP-DMD1401」を試す (2026年09月25日)
  2. AndroidとChromeOSが融合した次世代PC「Googlebook」の実機を見てきた ――AI統合で何が変わるのか? (2026年09月25日)
  3. 新型「Mac mini」「Mac Studio」徹底レビュー! ローカルAIはついに“実用域”へ エージェントAIに事務仕事を任せて分かった驚異の進化 (2026年09月22日)
  4. なぜ競技用ゲーミングPCは光らない? HPSC久木留所長とマウス軣社長が語るアスリート支援の未来 (2026年09月24日)
  5. 「これはわれわれにとってのTGSだ」 ロジクールGが年に一度の旗艦イベント「Logicool G PLAY Tokyo 2026」を開催 熱気あふれる会場を現地レポート (2026年09月25日)
  6. ロジクールGの新型マウス「PRO X3 SUPERSTRIKE」や8K対応キーボード「PRO X2 RAPID」を見てきた (2026年09月24日)
  7. 12インチ「Surface Pro」と13インチ「Surface Laptop」に個人向けの第2世代が登場 Snapdragon X2 Plus搭載でメモリは最大24GBに (2026年09月24日)
  8. 天空がCore Ultra 5を搭載した10.51型2in1ノート「TENKU Note Pro AI」を発売 (2026年09月24日)
  9. “AIスマホ”としての個性がより鮮明に 望遠カメラ刷新&AI処理が飛躍した「Pixel 11 Pro」 の実力とベンチマーク結果を検証 (2026年09月24日)
  10. “Vision Pro級”のMR体験が約100gの軽量グラスで? 最新の「Meta VR Glasses」を試して分かった圧倒的な快適性 (2026年09月25日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー