―― アマチュア無線機の製造を開始して50周年を迎えた2014年には、全世界150台記念モデルとして「IC-7850」を発売し、当時は、1台130万円(税別)という価格も話題になりました。2024年の60周年のときにも記念モデルは予定していますか。
中岡 現時点では決まったものはありませんが、期待をしているファンもいるでしょうから何かしらは検討したいですね。
―― 2023年度から新たな中期経営計画をスタートしました。このポイントを教えてください。
中岡 中期経営計画は、2026年3月期を最終年度として推進しているもので、2026年3月期の売上高は380億円を計画しています。将来の売上高500億円に向けた地盤を作り、100年企業への足固めを進めることになります。急激な成長を目指すのではなく、ステップ・バイ・ステップで着実な成長を目指します。基本姿勢は、祖業であるアマチュア無線を起点として事業を拡大してきた「無線」の領域からは離れず、無線とその隣の市場を対象に事業を進めることになります。
―― 隣の市場というと、どのようなところになりますか。
中岡 例を挙げると、IT分野は、アイコムにとっても関心が高い領域の1つです。IP技術の融合や、AIおよびIoT分野における新たな技術の提供、新たなビジネスモデルによる需要喚起にも取り組んでいきます。また、システムインテグレーションやシステム提案ビジネスの強化も進めていくことになります。
2023年7月には、大阪に本社を持つ組み込みソフトウェアの受託開発などを行うマクロテクノスを子会社化することを発表しました。これにより、優秀なソフトウェアエンジニアが、当社の事業に参画してもらえるようになりました。また、これまでは何でも自前主義でやってきましたが、パートナーが持つ技術と組み合わせて、スピード感を持って製品やソリューションを市場投入することも目指していきます。
―― コアビジネスの強化ではどんなことに取り組みますか。
中岡 LTEとRFを組み合わせたハイブリッド無線機は、当社しか製品化できていません。こうした特徴的な製品を継続的に投入していきます。今後は、衛星無線を組み合わせた提案も、ビジネスチャンスにつながると考えています。
当社は決して大きな企業ではありませんが、無線に関しては幅広いレンジをカバーしています。かつては数多くの無線メーカーがありましたが、今残っている独立系無線専業メーカーは当社ぐらいで、しかも、アマチュア無線、船舶向け無線、航空向け無線、衛星無線、IP無線と幅広くやっているメーカーはありません。
無線技術で多くのノウハウを持つ当社だからこそ創出できる製品がまだまだありますから、そうした観点からコアビジネスを強化していくことになります。また、2023年8月には、10GHzのミリ波帯でも運用を可能にする「IC-905XG」を発売しました。10GHzのユーザーはまだ少ないですから、これがすぐにビシネスになるとは思っていません。
しかし、先行して取り組むことでノウハウを蓄積でき、将来の差別化につながると考えています。10GHzは、繊細な調整が必要な技術であり、アマチュア無線家からは、「本当にできるのか」という声が出ていた技術ですが、当社はそれを先行して実現することができました。
―― 「無線の総合プロデュース企業」を目指すという方針も打ち出しています。これはどんな姿を描いているのですか。
中岡 先に触れたように、広いレンジをカバーする製品群がありますから、これを広げたり、パートナーと連携したりすることによって、無線に関わるソリューションをお客さまに提供できれば、私たちが目指す「無線の総合プロデュース企業」になれると考えています。
また、ストックビジネスの強化にも取り組んでいきます。アイコムでは、国内16万件以上、海外で約5万件の回線契約があります。国内でも回線提供ビジネスを拡大していく考えですが、成長が見込める海外にも積極的に打ってでます。
具体的には、メキシコを中心にして中南米の回線提供ビジネスの事業拡大を目指します。衛星無線のビジネスも、ストックビジネスの1つとして取り組みを拡大できると考えています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.